モトローラのキーボードスマホ「MPx」のギミックは、今見ても新鮮だ:山根康宏の海外モバイル探訪記
今回は2004年にモトローラが発売した「MPx」というスマホを紹介する。スタイラス操作でQWERTYキーボードを搭載しているのが特徴だ。
この連載では海外の最新スマートフォンを紹介していますが、今回はちょっと変わった昔の製品の紹介です。今から約20年前、2004年にモトローラが発売した「MPx」というかなり古いモデルです。なぜ今さらこんな古い機種を紹介するのかと言いますと、それは変態ともいえるギミックに大きな特徴があるから。筆者は今になって中古品を入手しました。
iPhoneが登場したのが2007年ですから、MPxはそれより数年前の製品ということになります。この頃のスマートフォンはタッチパネル式のものはスタイラス操作、ビジネス向きにキーボード搭載機も多くありました。なお、2004年のスマートフォンOSシェアは1位がSymbian 55.9%、2位Windows Mobile 12.7%、3位Linux 11.3%。携帯電話全体の出荷量では1位Nokiaが50%以上という時代で、2位モトローラでもその半分以下でした。ちなみに日本ではNokiaの702NKが旧ボーダフォンから発売されたころです。
モトローラのスマートフォンは全画面タッチパネルモデルにSymbian OSを、キーボード付きビジネスモデルにWindows系を採用する「ダブルOS戦略」を取りました。ドコモからSymbian OSのモトローラ「M1000」が出たのが2005年です。
MPxはOSにPocketPC 2003 SEを搭載し、本体は折りたたみ型。メインディスプレイは320×240ピクセルのTFT液晶、アウトディスプレイは96×64ピクセルのSTN液晶と時代を感じさせます。
本体の左側面は、下側に見える棒のようなものが収納式のタッチ操作用スタイラス。その上にカバーがある部分はSIMスロット、端子が見える部分は充電とPC接続用の専用コネクターです。古い製品なので、こちらのカバーは紛失してしまっています。そしてその上の側面にはモトローラの名前が入っています。上ブタ側は曲面仕上げになっているものの、全体のデザインはバラバラでスッキリしません。
折りたたみ型ということで開いてみます。普通に上ブタ側を持ち上げれば、いわゆる携帯電話スタイルになります。実際にこの状態で片手で持って通話なども可能です。しかし上ブタの左上隅に不自然か窪みがありますし、キーパッドもよく見ると多数のキーが並んでいます。これはQWERTYキーボードで、この状態でキーボードを使うことを意図したのでしょうか。
キーパッドをよく見てみると、中央上部の方向キーの下には10キーがあります。しかし数字の横にはアルファベットも併記されています。そして10キーの下を見ると全てのアルファベットがあり、まさしくこれはQWERTYキーボードであることが分かります。でも10キーは本体を開いて持ったときに数字が読める向きになっていますが、アルファベットは90度傾いており、配列も横向きでこれでは文字の入力は困難です。しかもこのスタイルの時は、10キーしか入力ができません。
実はMPxはヒンジ部分に秘密があり、本体を横向きに開くこともできるのです。本体右側を手前にして、ヒンジ部分にある突起を押しながら上ブタを開いていくと、横向きに開けるのです。この構造、日本でも何機種か出てきたことを覚えている人もいるかもしれません。なお右側のカバーはSDスロット。microやminiではなく、フルサイズのSDメモリカードが使えました。
完全に開けばディスプレイは横向きとなり、QWERTYキーボードを使って文字入力しやすい形状となります。なお中古品を友人から譲ってもらったのですが残念ながらバッテリーが無く、起動してどのような画面表示になるかは確認できていません。画面の写真はITmedia Mobileの2004年の記事に出ています。
このMPxは「縦に開けばケータイスタイル、横に開けばスマホ」という1台2役を目指したモデルでした。同じコンセプトのノキアのCommunicatorシリーズがビジネス市場では人気だったものの、Symbian OSはやや非力。一方、Windows Mobile系OS搭載でタッチパネルの製品は各社ともキーボードのないものが多く、MPxは「コミュニケーターであり、Windows系OS搭載」という、次世代スマートフォンの中心的存在になる可能性を秘めていました。
ところが2004年冬にモトローラが金属ボディーの折りたたみケータイ「RAZR」を発売すると、爆発的なヒット製品となってしまいました。RAZRがあまりにも売れてしまったために、モトローラはスマートフォンではなく「デザインフィーチャーフォン」に注力するようになり、スマートフォンへの移行に乗り遅れてしまったというのは有名な話です。
さて筆者はこのMPxを過去に中古で買ったことがあるのですが、家計事情が苦しかったこともあり、すぐに売却してしまいました。筆者はコレクターなので入手した端末を手放すことはめったにないのですが、その頃はまだ高値で売れたため、泣く泣く手放したのです。しかしその後、中古で再び実機を見つけることはできませんでした。MPxのセールスは実際は思わしくなかったので、中古も出回らなかったようです。もう出会えないとすっかり諦めていたのですが、2022年になって入手できたのは奇跡だったかもしれません。
モトローラは2016年に背面モジュールを合体できる「moto z」「moto mods」を発表しましたが、他社のやらないギミック物はそれよりも先にMPxで実現していたのです。最近のモトローラは高性能モデルなども積極的に出していますが、世間をあっと驚かせてくれるような面白い製品も開発してほしいものですね。
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