「PoC沼」にはまったローカル5G、“実証”から“実装”に進むには何が必要か:Interop Tokyo 2022(1/2 ページ)
2022年6月15日より開催されていた「Interop Tokyo 2022」で、「ローカル5G最前線2022 〜実状・役割・課題・可能性〜」と題した講演を実施。ローカル5Gの最前線で活躍している人達が参加して、ローカル5Gの現状や課題について議論がなされた。ビジネスへの実装に進むことができずにいる“PoC沼”にはまってしまっている現状から、どうすれば脱却できるのか。
2022年6月15日より開催されていた「Interop Tokyo 2022」で、「ローカル5G最前線2022 〜実状・役割・課題・可能性〜」と題した講演を実施。ローカル5Gの最前線で活躍している人達が参加して、ローカル5Gの現状や課題について議論がなされた。そのテーマはローカル5Gを活用したサービス開発の多くがPoC(概念実証)から抜け出せず、ビジネスへの実装に進むことができずにいる“PoC沼”にはまってしまっている現状からの脱却である。
5Gの社会実装に向けた課題解決に取り組む東京都
まずは東京都のデジタルサービス局 デジタルシフト推進担当課長である平井則輔氏が、行政側からのローカル5G、ひいては5G全般に関する取り組みについて説明。東京都では現在「スマート東京」をコンセプトに掲げ、デジタルの力で都民のQOL(Quality Of Life)を向上させる都市の実現に向けた取り組みを進めているが、その基盤となるのが電波による道「TOKYO Data Highway」であり、東京都も積極的にコミットして実現に向けた取り組みを進めているという。
そのスマート東京に先んじて取り組んでいるのは、東京都庁のある西新宿エリアや都心部、さらには多摩地域や小笠原諸島など計5カ所に上る。中でもローカル5Gの活用に向けた取り組みに注力しているのが、多摩地域にある東京都立大学だ。南大沢と日野の2つのキャンパスに60本のアンテナを設置し、合計49万平方メートルの広大なエリアをローカル5Gでカバー。大学での研究だけでなく、企業の実証用フィールドとしての活用も進めている。
だが5Gの活用に向けては小池百合子都知事も課題感を抱いており、具体的な社会実装が知事から求められている状況にあるという。実際小池知事は、2021年12月に5Gのサービス開発に向けた官民の連合コンソーシアムを立ち上げると宣言、さらに2022年6月1日には都議会の所信表明で、5G環境の整備を進めてきた西新宿エリアで多様な主体の連携を促すコンソーシアムを立ち上げ、利便性の高いサービスを継続的に生み出すエコシステムを構築すると宣言している。
そこで東京都では、西新宿エリアを中心とした5Gのサービス実装を進めているが、そのためには住民や、街づくりをする人達の合意を取る必要があり、「西新宿スマートシティ協議会」を設立して地域の住民らと話し合いながら、5Gの活用に向けた取り組みを進めているとのこと。また、本格的な実装の加速に向けてはより多くの人達を巻き込んでいく必要があると平井氏。都市作りをしている企業や団体らともコンソーシアムを立ち上げ、大企業からスタートアップなど多くの企業を巻き込んで実装に向けた課題を探っているという。
さらに平井氏によると、東京都自体も「地元の人と一緒に汗をかこうと思っている」と話し、5Gの社会実装に向けた取り組みを積極的に進めているとのこと。具体的には5Gの実証などをする場所の提供に向けた各種申請のワンストップ窓口の提供や、サービス実装の促進に向けたユーザーテストやプロモーションへの協力、サービス実装促進に向けたビジネスマッチングなどの取り組みなどであるという。
ローカル5Gで実績を重ねるNTT東日本から見た課題とは
続いて東日本電信電話(NTT東日本)のビジネスイノベーション本部 ソリューションアーキテクト部 先端技術グループ グループ長の門野貴明氏が、同社のローカル5Gに関する取り組みの実情と課題、可能性などについて説明。門野氏によると、ローカル5Gはこの2年間で「めっちゃ来ている」とのことで、実際同社にも非常に多くの問い合わせがあり、2年間で30件の構築実績があるとのことだ。
同社の実績は大きく分けて4つあるそうで、1つ面は東京都調布市にある同社の中央研修センターにある「NTT e-City Labo」内に構築したローカル5Gのオープンラボである。2020年7月の本格オープン以降、ローカル5Gの検証や設備見学のため200社が来場しているのに加え、同施設内にビニールハウスを建て、その中にローカル5Gの環境を構築した「ローカル5G農業実証ファーム」も用意している。
2つ目は産官学連携で、北海道岩見沢市や東京都などで協定を結び、ローカル5Gを活用したスマート農業や、中小企業のローカル5G活用などを支援している。3つ目は総務省の実証事業に向けた取り組みで、2020年度は3件の開発実証、2021年は3件の開発実証と、1件の調査研究が採択されている。
開発実証の事例は多岐にわたるが、岩見沢市でのローカル5Gによる自動トラクターの監視に関する実証は豪雪地帯で実施されるため、真冬には雪かきをして移動できる場所を確保した上で、測定器を担いで電波伝搬測定をしていたとのこと。「泥臭い仕事がないと、新技術の社会実装は成り立たないと肌で感じながら取り組んでいる」と門野氏は話している。
そして4つ目はローカル5Gのネットワーク構築で、先に触れた東京都立大学など大規模のエリア構築だけでなく、中小企業やオフィスなど小規模エリアの構築も進めているとのこと。それら一連の取り組みから、門野氏は現状のローカル5Gについて多くの課題があるとみる。中でも大きいのが導入・運用コストの高さ、そして構築にも専門知識が必要で、導入後もシステム監視やトラブル対応が難しいことなどを挙げている。
そこでNTT東日本ではローカル5Gや、「ギガらくWi-Fi」で13万社、30万アクセスポイントを構築するなど豊富なWi-Fiでの実績を生かし、ローカル5G普及のため「ギガらく5G」を2022年5月から提供している。ギガらく5Gはキャリアグレードのスタンドアロン運用による5Gネットワークを、事前手続きや運用も含めワンパッケージで提供するもので、従来1億円はかかっていた価格を2000万円以下と大幅に引き下げ、圧倒的な低価格でローカル5Gへの挑戦を進めたいとしている。
さらに門野氏は、今後のローカル5Gの可能性についても言及。モバイル通信は10年ごとに規格が変わるが、最初の5年間はブレークスルーに結び付かない期間であり、「今はそのタイミングだと思っている」と同氏。だが今後、ネットワークスライシングなどが機器に実装されれば「ユースケースが増える」とも話し、ローカル5Gには「無限の可能性がある」と門野氏はその将来に期待を寄せている。
関連記事
- 顧客とベンダーの視点から見るローカル5Gの現状 普及に向けた課題は?
オンラインイベント「Interop Tokyo カンファレンス 2021」でローカル5Gに関するセッションを実施。4.7GHz帯の割り当てなどで活性化しているローカル5Gに関して、サービスを提供する側とそれを利用する側の双方の視点から議論した。ローカル5Gに求めるは「自由」「安さ」「セキュリティ」という意見が出た。 - 5GのライバルはWi-Fi? 将来的には固定と融合する? 5Gの発展を占う
5Gはコミュニケーションだけでなく産業界での利用が期待されている。現在、標準化作業がなされている「リリース16」〜「リリース18」で5Gが高度化する。将来的には固定と無線の境目がなくなり、通信をシームレスに利用できる時代が来ることも期待される。 - コストはソフトで解決、本命は4.8GHz帯 先駆者が語る「ローカル5G」の極意
「Interop Tokyo Conference 2020」の初日となる6月10日に、「ローカル5G:活用のための課題克服に向けて」と題したローカル5Gに関するパネルディスカッションが開催。NEC、ファーウェイ・ジャパン、阪神ケーブルエンジニアリング、IIJのキーパーソンが登壇。ローカル5Gの活用に向けた取り組み、そして利用拡大に向けた課題と解決策について議論した。 - 従来価格の5分の1でローカル5Gを導入 NTT東日本が展開する「ギガらく5G」とは
NTT東日本が、ローカル5Gの手続きから構築、運用までをワンパッケージで提供する、企業向けの「ギガらく5G」を発表。従来のローカル5Gと比べ約5分の1の価格で必要な要素がそろっているという。上りの通信速度を高速化できることも特徴だ。 - NTT東日本に聞く、ローカル5Gの取り組み 地方創生に向け産学連携で自治体をサポート
ローカル5Gにはさまざまな事業者が参入しているが、現在のところ規模の面で最大手といえるのはNTT東日本ではないだろうか。固定通信のイメージが強いNTT東日本だが、実はWi-Fiを用いた無線通信は以前から手掛けている。同社にとってローカル5Gは、企業のネットワークのエンドポイントとして利用する無線通信ソリューションの1つに位置付けられる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.