楽天モバイルの影響で日本通信も好調 「290円プラン」と「ドコモ音声相互接続」の狙いを聞く:MVNOに聞く(1/3 ページ)
安価なデータ通信料と音声通話定額を組み合わせた日本通信SIMが伸びており、日本通信は2021年度に黒字化を達成。低容量から中容量のニーズをつかんだ後、2月には、月額290円(税込み、以下同)という超低価格の「合理的シンプル290プラン」を投入した。このシンプル290プランも、楽天モバイルの“0円プラン廃止”を受け、契約者が大幅に増加しているという。
音声卸の料金値下げに成功して以降、日本通信の業績が上向いている。2022年3月に終わった前期は、7年ぶりに黒字化を達成。安価なデータ通信料と音声通話定額を組み合わせた日本通信SIMが伸びているのが、好調の理由だ。低容量から中容量のニーズをつかんだ後、2月には、月額290円(税込み、以下同)という超低価格の「合理的シンプル290プラン」を投入した。このシンプル290プランも、楽天モバイルの“0円プラン廃止”を受け、契約者が大幅に増加しているという。4月にはドコモの設備を借りる形でeSIMのサービスを開始した。
こうした中、同社は6月、ドコモに対して音声通話の相互接続の申し入れを開始した。IIJやNTTコミュニケーションズなど、自前のHSS(加入者管理機能)を持ったいわゆるフルMVNOは他にも存在するが、いずれもデータ通信のみを提供している。これに対し、日本通信は音声通話機能こそが要だと主張。ドコモとの交渉がまとまり次第、電話番号の割り当てを受け、自前の音声通話サービスを展開していく構えだ。
同社がシンプル290プランやeSIMのサービスを開始した理由はどこにあるのか。また、音声通話の相互接続が実現すると、どのようなサービスが可能になるのか。日本通信で代表取締役社長を務める福田尚久氏にお話をうかがった。
ドコモに音声通話の相互接続を求めた理由
―― まず、直近のお話からということで、6月に音声通話の相互接続を申請しました。この狙いからうかがっていければと思います。
福田氏 ようやくですね。昨年(2021年)、総務省の情報通信審議会でMVNOにも携帯電話番号を付与すべきという方針が出て、今回ようやく申請が実現しました。音声接続そのものは、(海外では)どこでもやっていること。それをしないと、いろいろな課題があります。
1つは国際ローミングですが、これも電話番号がないとできません。音声を卸してもらっているので今でも電話はできますが、データ通信はできない。うちは海外でも事業をしているので、(ローミングの)契約はありますが、それが使えません。電話番号を自身で持たないと、(ローミングのデータ通信を日本通信と)ひもづけようがなくなってしまうからです。
そういうところから始まるのですが、ローカル局の話もあります。アメリカではローカル局とキャリアネットワークのハイブリッドサービスを提供していますが、これも自分の電話番号があるからできることです。ドコモやソフトバンクから借りた電話番号を使ってローカル局でサービスを提供しようとすると、変な話になってしまう。断る理由がなくなったタイミングで、そこ(音声接続の申請)を突破できました。
すぐにやりたいのがこのハイブリッドサービスです。実験的に提供しているだけでなら(ローカル局だけで)いいのですが、建物の中ではローカル局、外に出たときには全国ネットワークで使えるといったサービスがないと、ローカル局はうまくいきません。
―― 確かに、自前のネットワークと合わせて何かを提供しようとすると、そこが大きな障壁になりそうです。
福田氏 携帯電話の認証の仕組みでは、電話番号が大きなウェイトを占めています。それがないと、できることは技術的に限られてしまう。1枚のSIMカードで両方のネットワークにつながるといった、ハイブリッドネットワークもできません。先日のKDDIの通信障害を見ても分かるように、そういったものが必要な時代になってきています。もちろん、みんながみんな必要というわけではありませんが、少なくとも防災に携わる政府や地方自治体は、問題が起きたときにこそ通信がちゃんとできなければならない。そういった方々に提供するようなものも作れます。
また、IoT的なものも、常につながっていないと困るので、マルチキャリアのサービスは作らなければなりません。その際に、1社1社から電話番号を借りるというのは、やはり制度的におかしい。新しいことをやろうとしたときに、そこは必要になります。eSIMへの対応もそうです。今は、ドコモの仕組みをそのまま使っていますが、本来は独自にサービスをすればいい話です。
―― 音声卸の値下げにはかなり時間がかかりましたが、今回はすんなりとまとまるのでしょうか。
福田氏 I hope so、ですね。相手がいることなのでコメントしようがないのですが、そうしてほしいですし、そうなりたいと思っています。
―― 方針が打ち出されたことで他社も動きそうですが、現状だと日本通信以外に表立った動きがありません。なぜでしょうか。
福田氏 動いているかどうかは、正確には分かりません。(音声接続の)ハードルが高いと自分たちで言っているところもありますが、それは違うと思っています。会社によって取り組み方はずいぶん違いますが、それは、音声通話や電話番号の重要性の認識に相違があるからではないでしょうか。ただ、音声も重要だし、電話番号は非常に重要です。なしでいいということはありません。各社、戦略は異なるかもしれませんが、自分のところはデータ通信専用だから(電話番号は)なしでいいとはならないと思います。
―― 音声接続を利用したサービスですが、いつ頃までに始めたいという目標はありますか。
福田氏 目標という観点では、来年(2023年)には実現したい。ただ、現時点ではそれが何とも分からない状況です。やりたかった立場からすると、何年も前からそう思っていたので早くしてほしいのですが、来月、再来月にできるようなものもでもありません。あと、緊急通報をどうするかといった話はありますが、これもやろうとすればできることです。
―― 先日のKDDIの通信障害でも、緊急通報ができないことが問題視されました。ここに対応するのは難しいのでしょうか。
福田氏 総務省には何度も何度も言っていますが、緊急通報の仕組みがブラックボックスになりすぎていて、アップデートもされていません。透明性がないのが一番よくない。東日本大震災のときもそうですが、認証を開放すればつながるはずだった。常時とは言いませんが、社会インフラというのであれば、緊急事態でそれをやらないのはダメだと思います。仕組みが公開されていたらいろいろな人が意見を言ってアップデートできますが、ブラックボックスになっていて議論が進まない。インフラになるには、それがすごく必要だと思います。
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