楽天モバイルの影響で日本通信も好調 「290円プラン」と「ドコモ音声相互接続」の狙いを聞く:MVNOに聞く(2/3 ページ)
安価なデータ通信料と音声通話定額を組み合わせた日本通信SIMが伸びており、日本通信は2021年度に黒字化を達成。低容量から中容量のニーズをつかんだ後、2月には、月額290円(税込み、以下同)という超低価格の「合理的シンプル290プラン」を投入した。このシンプル290プランも、楽天モバイルの“0円プラン廃止”を受け、契約者が大幅に増加しているという。
シンプル290プランをサブ回線として使いやすくするようeSIMを追加
―― 先ほどeSIMのお話も出ましたが、4月にはドコモの設備を借りる形でサービスを開始しました。
福田氏 シンプル290プランをセカンドライン(2回線目)として使うニーズを、ずっと意識していました。音声通話に関連して言うと、総務大臣裁定が出たときから、1つなくしたいと思っているものがあります。「SMS+データ通信」のSIMです。ニーズがあって売っていましたが、あれは変なもので、本来であればデータオンリーか音声通話とデータ通信の2つでいいはずです。何であれが出てきたのかというと、音声通話の基本料が高かったから。基本料が安くなった時点で、SMSだけがついたプランがあるのは変な話なのです。ものすごく特殊な状況の産物といえるでしょう。
「SMS+データ通信」をなくす意味でも、安く回線を維持できるシンプル290プランは重要です。それを、セカンドラインとして入れていただければ、いろいろなところで便利になります。日本通信は、法人事業も公私区分をやるところがスタートでした。BYODで、持ってきたデバイスに会社が支給したeSIMを入れてもらった方がトータルコストは安くなりますし、バックアップ回線としても利用できます。そういった使い方も、出てきていると思います。
―― なるほど。シンプル290プランをサブ回線にしやすくするためということですね。ただ、ドコモの仕組みをそのまま使っているため、端末登録が必要になるなど、少々手続きが面倒な印象も受けました。
福田氏 とはいいながら、広がってきてはいますが、(ドコモの設備をそのまま使っているので)仕方がない部分もあります。ドコモが保守的なのでこうなっていますが、ここは解決していきます。今はできるところから始めています。シンプル290プランはセカンドラインに位置付けられるサービスなので、eSIMを提供するのは重要です。
―― 利用者は多いのでしょうか。
福田氏 それなりにはいますが、(大々的に宣伝はしていないので)よくご存じだなと思いますね。特に楽天モバイルの(0円廃止の)発表以降、ニーズの高まりを感じています。楽天モバイルのサービスでeSIMに慣れたこともあってか(笑)、他のSIMと組み合わせて使うパターンも多いようです。
あとは法人関係ですね。30人から50人ぐらいの中堅の会社だと、全員に端末を支給するのではなく、eSIMを使って2つの回線を入れてくれとなります。売る方でも、そういう提案をしたいというところは結構多いですね。2台持ちはいまだに多いですが、やはり不便ですから。
楽天モバイルの影響もあり、サービス開始時からユーザーが10倍に増加
―― 今、楽天モバイルのお話がありましたが、KDDIの通信障害でeSIMの契約が増えたというようなことはありましたか。
福田氏 あったとは思いますが、楽天モバイルの方が影響としては大きいですね。そこからpovoに行こうとしていたのを止めて、やっぱりうちにというのはあるかもしれません。いずれにしても、楽天モバイルから移っていると思われる方が多い。これがいつまで続くかは分かりませんが、とにかく今は対応しています。
コロナの感染も増えてきたので、作業に当たっている方に感染者が出ると、濃厚接触者で待機になってしまう。その体制作りも含め、バタバタとやっています。
体制作りという意味では、2021年8月に群馬に出荷などをする場所を移しました。東京だったらアウトだったかもしれません。今はコロナもありますし、もし富士山が噴火したら東京はほぼアウトになってしまう。社内的にも「なんで?」という声はありましたが、今となってはいいタイミングだったと思います。スペース的には余裕があるので、人員を増やすだけでキャパも増やせます。楽天モバイルの件で対応ができたのも、そのためです。
―― ちなみに、どのぐらい移っているのでしょうか。
福田氏 電話番号の発行元から推測はできますが、もともとドコモで楽天モバイルに移ってからうちに来たとなると、楽天モバイルからなのかどうかが分かりません。仕組み上、確定した数字は取れないので推測になってしまいますが、今はMNPの方が比率として高くなっています。
―― サービス開始時からどのぐらい増えたのでしょうか。
福田氏 今は少し落ち着いてきてはいますが、一時は10倍ぐらいまで増えました。
―― 10倍ですか。
福田氏 290円で、それ以外は何も必要ないというのがよかったのかもしれません。povoは0円で維持できても、ところどころでお金が必要になるので、熟知している方がなかなかいない。ドコモ回線でつながるというところも、楽天モバイルを経験された方は結構気にされています。それを知っている方からすれば、290円でずっと使えるというのは悪くない。日本通信は知名度がありませんが、こんなものがあるというのをYouTuberが発信すると、結構アクセスがあります。知名度があるものを紹介しても見てもらえないですからね(笑)。分野的には多くの方が興味を持っているので、そうなるのだと思います。
―― その意味で、シンプル290プランは投入のタイミングが絶妙でしたね。
福田氏 結果としては、ですけどね(笑)。よく、「どうですか?」と聞かれましたが、楽天モバイルだけがアンノウンファクター(不明な要因)でした。ある程度、基地局の整備の整備が完了してくれば、どこかで影響が出てくるとは思っていましたが、今はそれが逆にポジティブな影響として出ています。他キャリアは1年前にバタバタと料金プランを変えたので、他のキャリアからの動きはそんなにないと思っていましたが、楽天モバイルだけがよく分からない存在でした。
―― 流入が増えたとはいえ、楽天モバイルはまだ移行措置として1GBまで0円としていますし、9月、10月はポイントバックもあります。まだ増える可能性もあるのではないでしょうか。
福田氏 ポイントバックも含めて完全に0円がなくなったときに、どう移るかですね。一部アンケート調査を見ると、今までに移行した人は、相当感情的な部分で動いている人が多い。「ふざけるな」と思って移ったということですが、それは比較的少数派だと見ています。リアルに0円がなくなったときにどうするかと考えると、ある程度は続いていくと思います。
KDDIの件もあり、やはりつながらないと困ると思っている人もいます。ドコモだってやりかねませんが(笑)、安心感があるのは大きいですね。
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