非常時の事業者間ローミングはどこまで有効なのか? 検討会で浮き彫りになった課題:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、総務省で事業者間ローミングの検討が始まった。ネットワークを運用するMNO(通信キャリア)に関しては4社とも賛同の意向を示している。一方で、現時点で有力視されているローミングの方式だと、検討会の発端になったコアネットワークで起こる大規模な通信障害には対処できない。
コアネットワークの障害には役立たないローミング、SIMなし発信は可能か
一方で、以前本連載でも指摘したように、LBO方式では緊急通報のコールバックができないのが課題になる。これをクリアするには、法改正はもちろん、警察、消防、海上保安庁などの運用を変更する必要があるため、一筋縄ではいかない。検討会の第1回は、あくまでキャリア側の主張が整理されただけで、今後、それぞれの機関から反対意見が出たり、何らかの注文がついたりする可能性は残る。
ただ、LBO方式といってもローミングであることに変わりはない。加入者情報を問い合わせるため、あくまでホーム網側の加入者管理データベースなどの設備がきちんと動いていることが前提になる。ここで問題になってくるのが、7月に発生したKDDIの通信障害のようなケースだ。この通信障害は、VoLTEの交換機が輻輳(ふくそう)を起こしたことに起因し、HSSとの間でデータの不一致も発生。VoLTE交換機からHSSへの過剰な信号が出ていたことも、障害を長期化させた。
KDDIの通信障害は、VoLTE交換機やHSSで起こったため、たとえLBO方式のローミングがあったとしても、接続がうまくいかなかった可能性が高い。LBO方式とはいえ、ユーザーが契約しているキャリアのVoLTE交換機やHSSを通るからだ。ここが不通になってしまった場合、その後の通信ができなくなる。検討会でも、各社が挙げた資料には、コアネットワーク側が原因となる大規模な通信障害には適用できないことが記載されている。
もちろん、LBO方式がまったく役に立たないわけではない。コアネットワークのみ生きている場合には、事業者間ローミングは有効だ。例えば、震災や台風での水害で基地局が倒壊、もしくは停止してしまったときでも、離れた場所にあるコアネットワークは正常に動いている。この場合、事業者間ローミングが効果を発揮する。S8HR方式とは違って折り返しができない問題は残るものの、非常時に警察や消防に連絡する手段は最低限確保できる。
とはいえ、大規模通信障害で立ち上がった検討会での“アンサー”としてLBO方式が提案されるのは、いささか議論がかみ合っていないようにも見える。例えば、SIMカードなしで緊急通報を受け入れれば、電話番号などは取得できないが、コアネットワークを巻き込んだ大規模障害時でも利用はできる。いわゆるSIMなし発信も検討項目には挙がっていたものの、いたずらなどの大量発信が懸念されるとして一蹴されていたのは少々残念だ。
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