auが黒部峡谷鉄道で“圏外”を解消 山岳地帯の狭小トンネルにどう挑んだ? 現地でチェック!(1/2 ページ)
KDDIは9月末に、富山県の黒部峡谷鉄道の全区間でのau 4G LTEによるエリア化を完了した。黒部峡谷鉄道といえば、日本を代表する水力発電用ダム「黒部ダム」に欠かせない山岳鉄道で、道路すら通っていない場所も走る。どうやって携帯電話のエリアを整備したのだろうか……?
スマートフォンが“どこでもつながる”のは当たり前という状況になって久しい。しかし、スマホが圏外となる秘境は未だに存在する。そんな秘境の1つである富山県の黒部峡谷鉄道の全区間が、KDDIの手によって「au 4G LTE」のエリアとなった。
KDDIは10月21日、黒部峡谷鉄道のエリア化に関する説明会を“現地”で開催した。道路すら通っていない場所もある中、この秘境をどうやってエリア化したのだろうか……?
黒部峡谷鉄道について
黒部峡谷鉄道は、黒部川沿いの山間の縫うように走る鉄道だ。ダム建設のための運搬用路線として大正時代に建設されたが、後に観光客を運ぶようになり、現在も「観光」と「運搬」という2つの役割を担っている。「ナローゲージ」と呼ばれる幅の狭いレールを採用している影響で、各車両の座席は横幅が2人分と狭く、テーマパークのアトラクションのような作りになっている。
観光面では「トロッコ列車」が有名だ。宇奈月温泉駅を起点として、黒部ダム下流にある欅平(けやきだいら)駅までの約20.1kmの区間を1時間20分かけて走行する。22本の橋を渡り、41本のトンネルを駆け抜ける車窓からは、黒部峡谷の雄大な山並みを望める。路線上には4つの旅客駅があり、山中に点在する温泉や景勝地にアクセスできる。
会社としての黒部峡谷鉄道は関西電力の完全子会社で、黒部川沿いのダムに人や資材などを運ぶ「関西電力専用列車」も数多く運行している。黒部川水系に沿って設置された水力発電所は、全て合わせると原子力発電所1基分にも及ぶ発電能力を有しているそうだ。
エリア化が難しい特殊事情
観光路線として知名度が高い黒部峡谷鉄道だが、au 4G LTEでの全線エリア化は、他キャリアに先駆けて実施された“国内初”の事例となる。2018年以降、旅客扱いのある4駅は競合各社も含めて携帯電話のエリア化が実施された。しかし、駅間など路線の大部分は“圏外”が続いていた。
その背景として、同線ならではの“困難さ”がある。まず、黒部峡谷鉄道は路線の大部分が川沿いの断崖絶壁を通っている。しかも、麓の宇奈月駅(※1)周辺を除くと沿線に人の住む集落が存在しない。終点の欅平駅付近に至っては、≪麓の集落と直通する道路すら通っていない。つまり、このトロッコ列車がないとたどり着けない“秘境”なのだ。
(※1)富山地方鉄道本線の宇奈月温泉駅から徒歩で5分ほどの距離にある
過酷な自然環境も、エリア化に当たっては障害となる。黒部峡谷鉄道の沿線は、冬季に積雪が多い。そのため、冬季は全線で運行休止となる。通信設備を設置するには、降り積もる雪に耐えられるようにしなければならない。沿線の一部は「中部山岳国立公園」の区域内にあるため、新たな通信設備を設置する場合は、事前に環境省から許可を得る必要もある。
さらに、先述の通り、黒部峡谷鉄道はナローゲージであるため、トンネルの断面が非常に狭い。ゆえにトンネル内に通信設備を置くことも困難を極める。
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