データを含めたローミングを目指す――総務省の「非常時ローミング」の第1次報告書案を作成 意見を募集中
総務省が「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会 第1次報告書」の案に対する意見(パブリックコメント)を募集している。案では、災害時や通信障害時に異なる携帯電話事業者(MNO)のネットワークに乗り入れる「ローミング」の在り方について、基本的な方針が示されている。
総務省は12月12日まで、携帯電話の事業者間ローミングについて基本的な方向性を取りまとめた「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会 第1次報告書」の案に対する意見(パブリックコメント)を募集している。
報告書案の概要
総務省は9月に「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」を立ち上げた。その名の通り、この検討会では自然災害や設備故障などが原因で特定のMNO(※1)の携帯電話サービスが使えなくなった場合に、他のMNOのネットワークへの「ローミング」など、緊急通報(110/118/119番)を行う手段を確保する方法について検討するために発足した。
(※1)自ら無線通信設備を持つ携帯電話キャリア
1次報告書案自体は、11月15日に開催された検討会の第4回会合で公表されたが、この際にキャリア側(MVNO)を含めて複数の構成員から意見(指摘)があった。
今回、意見の募集対象となるのは、11月28日の第5回会合で示された“修正版”の第1次報告書案となる。
第1次報告書案の主な内容は以下の通りとなる。
導入に向けた基本方針
基本的には、通常の音声通話やデータ通信を含むローミング(いわゆる「フルローミング」)をできる限り早期に導入する。ただし、フルローミングは受け入れ先MNOの設備にも大きな負担をもたらすため、容量の逼迫(ひっぱく)が起きない範囲で運用することとし、今後運用ルールを検討した上で、総務省の「ガイドライン」として定める。
一方で、コアネットワークに障害が発生した場合はフルローミングが困難となることから、利用者に対してローミング以外の通信手段(公衆Wi-FiやデュアルSIM端末の利用など)を促すことにしている。
なお、以下の点については2023年6月頃をめどに取りまとめる予定の「第2次報告書」までに取りまとめる予定となっている。
- 利用者認証や呼び返しができない状況での緊急通報(≒SIMなし緊急通報)の是非と方法の検討
- ローミング以外の通信手段に関するフォローアップ
目標はフルローミングだが、この検討会が通信障害時でも緊急通報を実現する手段を検討するために生まれたという経緯や、MNO各社が「まずは緊急通報を優先して検討すべき」という意見では一致していることから、今後も「まず緊急通報をどうするのか?」という議論が優先されそうである。
運用ルールの在り方
先述の通り、フルローミングを実現するとなると、受け入れるMNOの設備にも大きな負担が掛かる。そのため、ローミングの開始/終了の条件や、事業者間の連絡方法、料金精算方法などの運用ルールは、検討会に設置する「作業班」で検討を進めることにしている。この作業班では、ローミングなどの導入スケジュールや費用に関する検討も行う。
事業者間の公平性を担保するために、事業者間ローミングには全てのMNOが参加することになる。ローミングの開始/終了を緊急通報期間などへ連絡する方法についても、ルール化を進める。
利用者利益の保護、周知広報の在り方
ローミングの開始/終了時には、端末の設定を変更する必要があるため、作業班ではその周知方法についての検討も行う。専用アプリを使った簡単な切り替えが可能かどうかも検討が進められる。
携帯電話は機種によって利用できる通信規格や周波数帯(バンド)が異なり、端末によっては非常時のローミングが制限されたり不可能だったりするケースも考えられる。そのため、報告書案では今後発売する端末において事業者間ローミングを想定したバンド実装をすることが望ましいとしている。なお、3G(W-CDMA)についてはサービスの終了が予定されているため、ローミングの対象外となる。
ローミングの周知については、継続的に行う方向で作業班において検討を行うことにしている。
継続検討課題
先述のものを含めて、以下の事項は第2次報告書に向けて継続検討されることになっている。
- 利用者認証や呼び返しができない状況での緊急通報の是非と方法の検討
- ローミング以外の通信手段に関するフォローアップ
- 枠組みへのフルMVNO(※2)の参加
(※2)加入者データベースを独自に保有するMVNO
MNOのコアネットワークに障害が発生した場合に備えて、障害が発生したMNOを一切経由せずに(≒SIMなしでも)緊急通報できる仕組みは6月に取りまとめる予定の第2次報告書に向けて継続検討される(総務省資料より:PDF形式)
パブリックコメントの応募方法
今回の報告書案に関する資料は、全て総務省本庁(中央合同庁舎2号館:東京都千代田区)にある総合通信基盤局 電気通信事業部 電気通信技術システム課で配布されている。また、電子政府窓口「e-Govポータル」の「パブリック・コメント」コーナーでもデータをダウンロードできる。
パブリックコメントを提出する場合は「意見公募要領」をよく読んだ上で、以下のいずれかの方法で提出しよう。
- e-Govの「意見提出フォーム」(※3)
- 総務省が指定するメールアドレス宛の電子メール
- 総務省が指定する住所への郵送(※4)(※5)
- 総務省が指定する電話番号へのファックス(※4)
(※3)ファイルの添付には対応しない(添付が必要な場合は電子メールまたは郵送で対応)
(※4)書面でコメントを提出しても構わない。ただし、場合によっては電子データ(テキストファイル、Wordドキュメント、一太郎ファイルのいずれか)での再提出を求められる場合もある(電子データはCD-R/RWかDVD-R/RWに記録して提出)
(※5)郵送の場合は締め切り日必着となる(締切日以降に到着した場合は受理されない)
なお、意見が1000文字を超過する場合は、意見の要旨も添付(記載)する必要がある。また、個人のパブリックコメントは匿名で公表されるので、意見が公表された場合でも「身バレ」はないので安心しよう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 非常時の緊急通報は、呼び返し可能な「フルローミング」で実現 総務省が報告書をとりまとめ
総務省は11月15日、非常時における事業者間ローミング等に関する検討会の第1次報告書を公開した。この検討会では、災害や通信障害が発生したときの非常時に通信手段を確保すべく、携帯電話の事業者間ローミングや公衆Wi-Fiなどの活用を議論してきた。基本方針として、携帯キャリア各社はフルローミング方式による事業者間ローミングを早期に導入することを定めている。 - 総務省で携帯電話の「非常時ローミング」の議論が始まる 12月下旬に方向性を取りまとめへ
自然災害や設備故障による通信障害が相次いだことから、総務省において非常時の「事業者間ローミング」を検討する会合が始まった。今後12月下旬をめどに方向性のとりまとめをする予定となっており、初開催となる今回は携帯電話キャリア(MNO)からのヒアリングを実施した。 - 非常時でも緊急通報を使えるよう「事業者間ローミング」の検討へ 金子総務大臣が明言
金子恭之総務大臣が8月3日に臨時の記者会見を行い、非常時における事業者間ローミングを検討する旨を述べた。「事業者間ローミングによって緊急通報が継続的に利用できる環境の整備が最優先で検討すべき課題」との認識。現在は各社の通信方式に差異がなくなり、技術面でのハードルが解消されつつある。 - 非常時の事業者間ローミングはどこまで有効なのか? 検討会で浮き彫りになった課題
7月に発生したKDDIの大規模通信障害を受け、総務省で事業者間ローミングの検討が始まった。ネットワークを運用するMNO(通信キャリア)に関しては4社とも賛同の意向を示している。一方で、現時点で有力視されているローミングの方式だと、検討会の発端になったコアネットワークで起こる大規模な通信障害には対処できない。 - IIJが「携帯電話事業者間ローミングと緊急通報」に関する解説動画を公開
インターネットイニシアティブ(IIJ)は9月14日、「携帯電話事業者間ローミングと緊急通報」についての解説動画をYouTubeで公開した。技術広報の堂前氏が解説する。内容はローミングとは何か、実際に携帯電話のローミングはどのように動作するのかなど。