ドコモの「dスマートバンク」は成功するのか? “銀行事業ではない”ことの課題も:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
ドコモは、12月12日に新たな金融サービスの「dスマートバンク」を開始した。ドコモ自身が銀行業を行うのではなく、三菱UFJ銀行が用意したAPIを活用している。実際に使ってみると、こうした建て付けゆえの限界も見えてきた。
ドコモは、12月12日に新たな金融サービスの「dスマートバンク」を開始した。“バンク”と銘打たれている通り、同サービスは銀行口座に関連したサービスだ。ただし、ドコモ自身が銀行業を行うのではなく、三菱UFJ銀行が用意したAPIを活用。ドコモのアプリを通じて、口座の新規開設や既存の口座とのひも付けが可能な他、残高の参照にも対応する。アプリ上で、生活資金と貯蓄を分けて管理できる機能も用意した。
傘下に銀行を抱えるKDDI、ソフトバンク、楽天とは異なり、dスマートバンクの役割はあくまで三菱UFJ銀行の窓口に近い。d払いやdスマホローンなど、ドコモが運営する他の金融サービスへの波及効果をもたらすのが主な狙いだ。一方で、実際に使ってみると、こうした建て付けゆえの限界も見えてきた。ここでは、その仕組みや今後の課題をとりまとめていきたい。
金融・決済サービスとの連携を意識したdスマートバンク、実現には銀行のAPIを活用
dスマートバンクは、デジタル口座サービスという位置付けで、既存の銀行をより便利に活用するための仕組みだ。開発には、三菱UFJ銀行のAPIを活用している。アプリには、dアカウントで簡単にログインすることができ、口座の残高や入出金明細の確認が可能だ。APIを通じて三菱UFJ側の情報を取得しているため、利用には同行の口座が必要。新規開設や既存口座とのひも付けは、dスマートバンクアプリ上で行える。
ここまでは三菱UFJ銀行自身が提供しているインターネットバンキングサービスの「三菱UFJダイレクト」と大きな違いはない。dスマートバンクならではの特徴は、仮想的な「貯金箱」にある。これは、口座内の資金を分けて管理するためのもの。デビットカードでの支払いや、d払いなどのコード決済サービスにチャージして日々利用するためのお金と、銀行口座内にためておくためのお金を分けて管理することができる。
キャッシュレスサービスの普及に伴い、銀行口座から現金を引き出さない人が増えていることを踏まえると、なかなか便利な機能といえる。実際に口座が2つに分かれるわけではなく、あくまで仮想的に作られた貯金箱だが、ここにはドコモのサービスに誘導するための仕組みもひも付けられている。貯金箱の1つとして、資産運用サービスの「THEO +docomo」に資金を移せるからだ。こちらに“貯金”しておけば、その資金が運用され、お金を増やすことができる(減ることもある)。
キャンペーンとしてdポイントを付与することで、d払いにチャージする口座としての登録も促している。ドコモのビジネスモデルは、こうした金融サービスへの誘導だ。ドコモのスマートライフカンパニー ウォレットサービス部 バンクサービス担当部長 色川州平氏は、「銀行口座をひも付けることで、お客さま一人一人に最適な金融サービスを提供することで収益を上げていく」と語る。dスマートバンクは、その窓口というわけだ。
現時点では特に実装はされていないが、dスマホローンの利用をお勧めするといったことも考えられる。今後は、d払いアプリとの統合も検討しているようだ。色川氏は、「現時点ではアプリが(d払いとdスマートバンクの)2つに分かれているが、将来的にはユーザーの使い勝手がいい形にしていく。まずはd払いの登録口座としてお使いいただきたいが、UX(ユーザー体験)の一体化は意識して開発していきたい」と語る。
APIを提供する三菱UFJ銀行側のメリットは、ドコモのユーザー規模にあるという。同行のデジタルサービス推進部次長 加藤貴也氏は、「全国のドコモユーザーは9000万と非常に多い。こういったお客さまと接点を持てる可能性がある」と語る。APIの提供は、BaaS(Bank as a Service)の一環で、金融業として取り組んできた仕組みを他の事業者に貸し出すことで収益を上げる狙いがある。「機能の提供ということで、新しいビジネスモデルにチャレンジできた」(同)のも、三菱UFJ銀行側がドコモと手を組んだ意義といえる。
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