SMBCグループの「Oliveフレキシブルペイ」 変幻自在な「マルチナンバーレスカード」は“なに”カード?:ふぉーんなハナシ
三井住友銀行と三井住友カードが提供する新たな金融サービス「Olive(オリーブ)」では、アプリからクレジット/デビット/ポイント決済(プリペイド)を切り替えられるVisaカード「マルチナンバーレスカード」が発行されます。このカードについて、発表だけでは分かりづらいことを簡単に解説します。
三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)と、同社傘下の三井住友銀行(SMBC)と三井住友カード(SMCC)が3月1日、新しい金融サービス「Olive(オリーブ)」の提供を開始します。
この発表には幾つかの注目ポイントがあるのですが、決済回りに興味のある私としてはOliveアカウント(※1)を保有するユーザーに発行されるVisaカード「マルチナンバーレスカード」がどうしても気になってしまいます。Mobile(モバイル)の範ちゅうから抜けてしまいそうな気がしますが、気になるポイントを幾つかチェックしていこうと思います。
(※1)三井住友銀行のOlive会員専用の無店舗支店に開設した普通預金口座、またはOlive会員情報とひも付けを行った既存支店の普通預金口座(詳細説明)
“両A面”ゆえにないものがある→大丈夫だ、(基本的には)問題ない
マルチナンバーレスカードは、いわゆる“両A面”を志向したデザインを採用しています。厳密には、決済端末やATMの仕様からICチップとVisaロゴがある方が「表面」、SMBCロゴと所有者名(ローマ字)が書かれている方が「裏面」なのですが、パッと見ではどちらも表面に見えます。
このデザインでは、一般的な決済用カードにおいて実用上必要と思われる複数の要素が省かれています。本当になくても大丈夫なのか、簡単に解説していきます。
その1:カードにまつわる各種番号
その名の通り、マルチナンバーレスカードにはナンバー(カードにまつわる番号)がありません。具体的には、以下のものが券面から省かれています。
- 三井住友銀行の支店番号(3桁)と普通預金口座番号(7桁)
- Visaカードのカード番号(16桁)
- Visaカードのセキュリティコード(3桁)
- カードの有効期限(4桁)
例えば、仕事で給与振込口座を登録する際には、銀行の支店番号と口座番号を求められるケースが多いわけですが、このカードだけではそれが分かりません。インターネット上の通販や「Google Pay」「Apple Pay」の登録など、Visaカードを使ったオンライン決済の利用時も、カードだけでは必要な情報を確認できないので困ってしまいます。
しかし、心配は不要です。上記の番号は「三井住友銀行アプリ」を使って確認できます。同アプリでは既に「SMBCデビット」のカード番号とセキュリティコードを確かめられますが、これと似た操作でカード番号などを確認できるようになると思われます。
三井住友カードが発行する「SMBCデビット」は、三井住友銀行アプリからVisaデビットカードの番号情報を確認できます。アプリを使ってGoogle PayまたはApple Payの登録に遷移することも可能です(画像はAndroid版)
三井住友カードは「三井住友カード(NL)」というナンバーレスクレジットカードの発行実績もあります(写真はサインパネルがありますが、順次パネルのないカードに移行しています)。ちなみに、このカードにまつわる番号は、同社の「Vpassアプリ」で確認することになります
その2:サインパネル
最近でこそ利用する機会が減りましたが、現在でもごく一部のVisaカード加盟店では「サイン(署名)取引」をすることがあります。サイン取引をする際は、カードの売上票(レシート)の「カード会社提出」分に券面と同じサインを行う必要があります。
しかし、マルチナンバーレスカードには「サインパネル(署名欄)」が一切ありません。カードにサインをしたくてもできません。このカードでサイン取引を要求された場合はどうすればいいのでしょうか……?
実は日本でもサインパネルのないカードはジワジワと増えてきていて、三井住友カードも自社のナンバーレスのプロパーカード(非提携カード)を順次“サインパネルなし”に切り替えています(参考リンク:PDF形式)。
サインパネルのないカードの決済でサインを求められた場合は、売上票に何らかのサインをしてください。サインパネルがないことによって取引を拒否された場合は、サインパネルのある別のカードで決済するか、加盟店契約の再確認をお願いしてみてください(※2)。
(※2)一部カード会社では、サインパネルのないカードでの決済時はサインの照合義務を免除しています
日本で初めてサインパネルのないVisaカードを発行したのは「エポスカード」でした。現在は、クレディセゾンや三井住友カードもサインパネルのないVisaカードを発行しています。MastercardブランドやJCBブランドのカードでも、サインパネルのないカードが定義されています
その3:磁気ストライプ
マルチナンバーレスカードは、一見すると磁気ストライプ(テープ)がないように見えます。磁気ストライプがないとなると、ICカード非対応のATMや決済端末を利用できない可能性が生じます。
カードの発行元であるSMCCと、キャッシュカード部分のサービスを提供するSMBCに確認した所、マルチナンバーレスにも磁気ストライプ“は”あるとのことです。ただし、ICカード非対応のATM(J-Debit決済端末)用の磁気ストライプは装備していません。
対応(利用)の可否をまとめると以下の通りとなります。
- 三井住友銀行のキャッシュカードとしての利用(国内)
- ICカード対応のATM(J-Debit決済端末):可
- ICカード非対応のATM(J-Debit決済端末):不可
- Visaカードとしての利用(注意点あり:後述)
- ICカード非対応の決済端末/海外ATM:利用可
- 接触式ICカード対応の決済端末:利用可
- 非接触式ICカード(Visaのタッチ決済)対応の決済端末:利用可
ICキャッシュカードに対応“しない”ATMは、ここ数年でほとんど見かけなくなりました。しかし、ゼロになったわけでもありません。もしもICカードの使えないATMを利用する機会がある場合は気を付けてください。
一見すると磁気ストライプがないように見えるものの、実際は赤枠で囲った部分に磁気ストライプが仕込まれていて、ICカード対応のATM(におけるICキャッシュカードかどうかの判別)やICカード非対応のクレジット決済端末でも利用できるようになっているとのことです
マルチナンバーレスカードは「デビットカード」として認識される
マルチナンバーレスカードは「フレキシブルペイ」という機能を搭載しており、アプリからの操作でVisaブランドの「クレジット」「デビット」「ポイント払い(プリペイド)」の3モードを切り替えられるようになっています。
クレジットモードの利用には三井住友カードによる審査があります。審査に通らなかった場合、あるいは18歳未満(※3)が申し込んだ場合はクレジットモードを利用できません。クレジットモードを利用できないカードでは、付帯オプションとなる「ETCカード」も申し込めません(※4)。
(※3)満18歳の高校生を含む。なお、ゴールド/プラチナプリファードタイプは満20歳から申し込み可
(※4)ETCカードの利用分は、モードの設定を問わず常にクレジットモードで決済されます
決済カードのICチップの規格(EMVコンタクトレス)では、ICチップ上に「アプリケーション」を幾つか搭載しています。Visaブランドの場合、ICチップの「アプリケーションラベル(APL:アプリケーションの名前)」によってカードの種類を確認できます。
- クレジットカード:Visa Credit(VISACREDIT)
- デビットカード:Visa Debit(VISADEBIT/VISA DEBIT)
- プリペイドカード:Visa Prepaid
決済端末やPOSレジの仕様によっては、利用者に手渡されるレシート(売上票の利用者控え)にも上記の情報が印字されます。
とあるコンビニエンスストアでVisaブランドのクレジットカードを使った際のレシート。カードの利用明細としては情報が少なめなように思えるが、分かる人が見れば使ったカードの種別を“見分ける”こともたやすい
「それがどうかしたの?」と思うかもしれませんが、「クレジットカードのみ対応(デビット/プリペイドカード不可)」となっている加盟店の一部では、アプリケーションラベルからカードの種類を判別して利用可否を判断しています(※5)。マルチナンバーレスカードが持っているアプリケーションラベル(≒カード種別情報)によっては、利用を拒否される可能性もありそうです。
(※5)アプリケーションラベルで判定できない場合は、オンラインで問い合わせる際に確認できます
SMCCによると、マルチナンバーレスカードは決済端末から「Visa Debit(Visaデビットカード)」として認識されるといいます。つまり、利用する加盟店や決済端末(システム)の設定によっては正しく使えない恐れもあるということです。
なお、利用者が困らないようにするために、サービス開始までにマルチナンバーレスカードにおいて注意すべきポイントをまとめてWebサイトなどに掲載する予定とのことなので、気になることがある場合はWebサイトを小まめにチェックするようにしましょう。
Oliveのマルチナンバーレスカードに近しい存在として、イオン銀行が発行する「イオンデビットカード」があります。イオンデビットカードには預金残高が足りない場合は自動的にクレジットカードとして機能する「バックアップサービス」が用意されていますが(限度額は一律で10万円)、Oliveのように自由自在に切り替えられるわけではありません。なお、イオンデビットカード(Visaデビット)は「イオン銀行キャッシュ+デビット(JCBデビット)」とは別サービスなので、よく気を付けましょう
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