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Googleの会話型AIサービス「Bard」はなぜChatGPTに後れを取ったのか?

Googleが、対話アプリケーション用言語モデル(LaMDA)を搭載した実験的な会話型AIサービス「Bard」を発表しました。2022年11月に公開されたChatGPTに対抗するサービスとなります。当面は対話アプリケーション用言語モデル(LaMDA)のフル機能を利用できるわけではなく、Bardの回答が品質、安全性、信頼性などの基準を満たしていることを確認するとしています。

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 米Googleは2月6日(現地時間)、対話アプリケーション用言語モデル(LaMDA)を搭載した実験的な会話型AIサービス「Bard」を発表しました。という書き方をすると、何か難しい印象ですが、要するにChatGPT対抗サービスを発表したということです。

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ChatGPT対抗の会話型AIサービス「Bard」を発表したGoogle

 2022年11月に公開されたChatGPTは、瞬く間にネットを席巻し、その単語を見ない日がないほどになりました。ChatGPTは、AIに関する研究開発を行う非営利団体OpenAIが開発した対話型サービス。人とチャットをするように自然な会話を行い、質問に答えてくれるだけではなく、コードを書いたり、作曲をしたりとさまざまなことを行います。

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ChatGPTで、ChatGPTについて質問してみました

 知りたいことを聞けば応えてくれるというのは、検索をなりわいとするGoogleにとっては大きな脅威です。このため、Googleは「Code Red(緊急事態)」を宣言したとも伝えられています。

 しかしながら、ChatGPTのベースになっている人と自然に会話できる大規模言語モデルは、Googleでも研究が進められていました。それが、LaMDA(Language Model for Dialogue Applications)です。LaMDAは2021年のGoogle I/Oで発表され、2022年には第2世代が披露されています。そして2022年6月には、GoogleのエンジニアであるBlake Lemoine氏が、LaMDAが独自の感情を獲得したと主張して大きな話題となりました。実際に感情を持ったかどうかは定かではありませんが、そう錯覚させるほどに高度な会話を行っていたのは確かなのでしょう。

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LaMDAについてChatGPTに聞いてみました

 それほどに高度な能力を持っていたLaMDAですが、これまで一般に提供されることはありませんでした。これには大きく2つの要因が挙げられます。1つは、Googleは責任あるAIの活用を掲げており、公平性や信頼性、プライバシー、セキュリティなどの潜在的なリスクが顕在化しないよう注意深く取り組んでいたということ。もう1つの要因は、Googleという巨大企業だからこそという点です。

 ChatGPTは、人間と自然なやりとりを行いますが、大量のテキストデータを組み合わせてそれらしい回答を作るだけで、その内容は必ずしも正しいとは限りません。こうしたことは、OpenAIのような新興企業・団体なら、新しいことへのチャレンジとして好意的に受け止められる可能性が高く、実際にChatGPTもそのような状態だったと考えられます。ただし、これと同じことをGoogleが行うと、バッシングの材料になってしまうことは想像に難くありません。それゆえ、リリースには慎重にならざるを得ず、結果としてChatGPTの台頭を許すことになってしまったのでしょう。

 ChatGPTはGPT-3.5(Generative Pre-trained Transformer 3.5)という言語モデルをベースにしていますが、このGPT開発につながったTransformerというディープラーニングモデルは、もともとGoogleの研究開発部門であるGoogle Researchが研究を行っていたもの。その成果を他社が利用して話題になっているのは、Googleのエンジニアにとっては複雑な心境ではあったと思います。

 そのような状況の中、満を持してGoogleからも「Bard」が登場するわけですが、当面はLaMDAのフル機能を利用するわけではなく、軽量版のLaMDAを利用して、より多くのユーザーからフィードバックを得るとのこと。これにより、Bardの回答が品質、安全性、信頼性などの基準を満たしていることを確認するとしています。

 ところで、GoogleはBardの使用例として「ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡の新発見について、9歳の子供に教えてあげられることはありますか?」という質問を挙げています。Bardはこの質問に対して3つの回答を示していますが、この中で3つ目の回答となる「JWST(ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡)は、太陽系外の惑星の写真を初めて撮影しました」という回答が誤りであるとの指摘をハーバード・スミソニアン天体物理学センターのGrant Tremblay氏がツイート。ESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT(超大型望遠鏡)が2004年に撮影したものが最初だということです。The Economic Timesによると、この指摘を受けてGoogleの親会社であるAlphabetの株価が8%下落、1000億ドル以上の時価総額を失ったと伝えています。

 この結果を見ると、Googleが慎重な姿勢をとっていたのは間違いではなかったと感じずにはいられません。ChatGPTが同じ誤りをしたとしても、話題にもならないはずです。

 なお、GoogleはAI機能を検索にも取り入れることを発表しています。こちらはChatGPTやBardのようなチャット形式ではなく、検索クエリに対して検索結果の概要をまとめたものを表示するようになるとのこと。例えば、「ピアノとギターのどちらが習得しやすいか、それぞれどのくらいの練習が必要か」という検索内容に対して、「ピアノは指や手の動きが自然で、音符を覚えたりするのが簡単だと言う人もいます。

 また、ギターの方がコードを覚えるのが簡単で、2〜3時間もあればかき鳴らすパターンを覚えられるという人もいます」という具合に概要を表示。その後、通常の検索結果を表示します。単に検索結果が表示されるだけよりも、全体的な内容は把握しやすくなりそうです。

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AI機能を検索に取り入れることで、より多角的に情報を得られそうだ

 GoogleのBard発表の翌日には、Microsoftが同社の検索サービスBingとEdgeブラウザにChatGPTの技術を統合すると発表しており、ますます会話型AIサービスが過熱していきそうです。ただし、その内容には誤りも含まれているということを利用者自身がしっかり把握しておかないと、新たな問題が生まれる可能性もあります。

 かつて、有名な匿名掲示板2ちゃんねるの管理者であったひろゆき氏は、「うそをうそであると見抜けないと(掲示板を使うのは)難しい」という言葉を残しましたが、それと近い考えがAIを使った検索では求められるのかもしれません。

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