「Xperia 1 V」開発陣に聞く“ハイエンドスマホの売り方” 約20万円でもターゲットは明確(3/4 ページ)
ソニーの「Xperia 1 V」はデザインやカメラを進化させた、最新のフラグシップスマートフォン。一方で約20万円という価格はユーザーを選ぶのも事実。こうした新モデルの開発背景や、新しい販売方法に挑戦している理由を開発陣に聞いた。
高いだけの価値があると言ってもらえるようなモノ作りが必要
―― オーディオも毎回強化していますね。
森田氏 ソニーが得意とするのはオーディオのところで、ヘッドフォンやイヤフォンで聞く方向けにこだわって毎回3.5mmのイヤフォンジャックをつけています。ただ、それも家では使わない場合が多い。音楽を聞くとき、いちいちBluetoothスピーカーにつながなくて済むように(スピーカーを強化)しています。スマホは、総合的にカメラ以外のところもしっかりやっていくことが重要だと認識しているので、音やAV関係の機能はしっかり訴求していきたいですね。
―― 一方で、昨年(2022年)から、フラグシップモデルの価格が20万円前後とかなり高騰しています。ハイエンドの売れ行きが厳しいと言われるなか、Xperiaをどうしていきたいでしょうか。
濱口氏 背景には、原材料の高騰があり、円安の影響という現実もあります。そこはどうしても避けられない部分です。Xperia 1シリーズはフラグシップモデルなので、やはり高いだけの価値があると言っていただけるようなモノ作りが必要で、そこは妥協してはいけない部分です。お客さまがある程度絞られてしまうのは、覚悟の上でやっています。狙いはやはりクリエイターやクリエイティブマインドを持たれている方で、そういった方を中心にお求めいただけるかなと思っています。
また、Xperia 10 Vのような(安価な)ものもあります。例えば中学生などがスマホを初めて購入する際の予算を握っているのは親御さんです。そういった方がいきなりXperia 1かというと、そうはいかない現実は分かっています。まずはXperia 10シリーズに入っていただき、Xperiaは音がいいというようなところに興味を持っていただく。そのうえでステップアップして、世界が広がっていけばいいと思っています。そのためのフックとして、ヘッドフォンとの色合わせなどをしています。
―― ソニー全体で言えば、もっといい写真を撮りたいと思ったらα、映像を見たいと思ったらBRAVIAといったようにステップアップしていくことも想定しているのでしょうか。
濱口氏 映像で言えばそうですね。音は、ヘッドフォンもどんどんいいものを買っていただくに越したことはありません。その全てが入っているのがスマートフォンです。スマホを使い始める年齢もどんどん下がっているので、今のマイ・ファースト・ソニー(ソニーが80年代に発売した子ども向けのAV機器ブランド。カラフルなデザインと本格的な機能が特徴だった)はXperiaだと思っています。
―― ソニーにとって、スマホのハイエンドモデルとはどういう位置付けで、どのような意義のある製品なのでしょうか。この点を改めて教えてください。
濱口氏 一言で言えばクリエイターに向けた商品です。ソニーグループの吉田(会長)も、クリエイティブなインプットデバイスという言い方をしています。もともと、カテゴリーとしてαのことを言っていた言葉ですが、クリエイティブな活動をサポートするのはスマホも同じです。ハイエンドというより、Xperiaとはクリエイターに向けた、クリエイターにうなっていただける製品でありたい。また、まだクリエイターでない方のクリエイティビティを刺激するような商品にしていきたいと考えています。
クリエイターの活動に興味があるかということを聞いたデータがありますが、10代、20代は半数以上がやりたいと回答しています。YouTuberになりたい小学生がいるのもそうで、動画編集ニーズも高まっています。そういった方々を育成し、クリエイターコミュニティーにうまくいざなっていければといったことを考えています。
―― なるほど。撮ってすぐに動画編集までできるのは、確かにスマホのクリエイティブツールとしての強みですね。今後、Xperiaももっと編集機能を強化していくのでしょうか。
濱口氏 そうしたいと思っているので、乞うご期待でお願いします。
オープンマーケット向けモデルを同時発表した背景は?
―― 今年は、販売面でも変化がありました。オープンマーケットモデルを同時に発表したのは初めてですよね。どういった意味合いがあったのでしょうか。
濱口氏 その年、そのモデルによってお客さまの声を聞きながら決めていますが、お客さまの「なるべく早く」という声が多く、このようなタイミングになりました。
―― ただ、オープンマーケット版は市場規模を考えるとかなり小ロットですよね。あえてやっている意義はどこにあるのでしょうか。
濱口氏 お客さまの属性を見ると、キャリアモデルを買われる方とちょっと違っています。キャリアに縛られずに買いたい、ソニーストアのケアプランに魅力を感じているという方がいます。キャリアモデルとは違ったお客さまにアプローチできているという認識があります。
―― 今のオープンマーケット版はソニーでしか販売されていません。MVNOと組むといったことはあるのでしょうか。IIJmioのように、ハイエンドモデルを積極的に販売しているMVNOもあります。
濱口氏 MVNOで端末と回線を一緒に買われるお客さまと、Xperia 1シリーズのSIMフリー版を買われるお客さまがマッチしていないところがあります。ただ、SIMフリーなので、Xperia 1シリーズを買い、MVNOのSIMカードを挿す方はたくさんいます。Xperia 1シリーズを買われるような方はもともとかなり知識もあるので、MVNO比率はそれなり高いですね。
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