復活に向けて順調な「Xperia」が向かう先 ミッドレンジでも差別化を図るが、市場環境には課題も:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
コンセプトを刷新した「Xperia 1」を投入して以降、ソニーのスマートフォンが徐々にシェアを回復している。そんな中、同社が2022年モデルとして投入したのが、「Xperia 1 IV」「Xperia 10 IV」「Xperia Ace III」の3機種だ。ソニーのモバイルコミュニケーションズ事業本部で事業部長を務める濱口努氏に、新モデルの開発コンセプトや今後の展開などを聞いた。
コンセプトを刷新した「Xperia 1」を投入して以降、ソニーのスマートフォンが徐々にシェアを回復している。調査会社・MM総研が5月に発表した2021年度通期の出荷台数調査によると、ソニーはシェア4位。出荷台数は267.2万台で前年度から30.3%拡大、シェアも7.9%で1.6%ほど上昇している。Android端末を開発するメーカーでは、サムスン電子やシャープを追う立場であることに変わりはないが、シャープとの差は縮まりつつある。
そんな中、同社が2022年モデルとして投入したのが、「Xperia 1 IV」「Xperia 10 IV」「Xperia Ace III」の3機種だ。Xperia 1 IVは望遠のズームレンズを初めて搭載。Xperia 10 IVは小型化、軽量化を果たし、大手キャリアはもちろん、MVNOでの採用も増えている。ドコモが独占販売し、ソニーのシェアを押し上げるのに貢献した「Xperia Ace II」の後継機にあたるXperia Ace IIIも、取り扱いキャリアが拡大。販路が大きく広がったことで、販売を伸ばせる可能性は高い。
一時は低迷していたソニーのXperiaだが、復活の兆しは見え始めている。では、同社はどんな戦略でスマートフォン事業に臨んでいるのか。ソニーのモバイルコミュニケーションズ事業本部で事業部長を務める濱口努氏に、新モデルの開発コンセプトや今後の展開などを聞いた。
動画撮影のニーズを取り込むXperia 1 IV
一眼カメラ「α」のユーザーインタフェースをタッチパネルに落とし込んだ「Photography Pro」を初めて搭載した「Xperia 1 II」以降、ソニーはXperiaのカメラ機能を徐々に進化させてきた。2021年に発売された「Xperia 1 III」では、70mmと105mmの2つに焦点距離を変更できる望遠カメラを搭載。続くXperia 1 IVには、デジカメ同様のシームレスなズームが可能になる「望遠光学ズーム」を搭載した。
一見すると、スマホの望遠を段階的に強化していくマイナーチェンジのようにも思えるが、濱口氏によると、Xperia 1 IIIと1 IVでは、そのコンセプトが大きく異なるという。鍵になるのは動画だ。
「どうしてもズームの焦点距離そのものに目が行きがちだが、それだけではなく、1つの進化点としてイメージセンサーを刷新したことがある。これによって、動画での瞳AFや4K、120fpsの読み出しができるようになった。Xperia 1 IIIから1 IVへの進化があまりないと言われることもあるが、(1 IVはカメラ機能を)大きく動画に振っている」
超広角カメラや望遠カメラにも読み出しが高速なセンサーを採用することで、ピントを合わせやすくなったり、スローモーション動画が撮りやすくなったりしたというわけだ。望遠光学ズームも、どちらかといえば静止画より動画向きの機能だという。
「望遠の85mmから125mmまでという光学ズームも、動画の撮影中にズームをするためのもの。(単に)被写体に寄るのではない、表現としてのズームがある。スーッと寄ったり引いたりしながら、スローモーションを組み合わせると、何気ないシーンをシネマティックに見せることができる。こういうところが、スマートフォンで簡単にできる。スローモーションの民主化をやりたいと思っていたが、望遠機能の性能アップもそれが一番(の目的)」
確かに動画撮影のカメラワークには、徐々にズームで人物や物に寄っていくことで視聴者の注目を集めたり、逆にズームアウトすることで全体の状況が分かるようにしたりといった手法がある。静止画とは異なり、ズームイン、ズームアウト自体が演出の一部になっているといえる。ただ、これをスマートフォンで実現するのは、かなり難しかった。焦点距離が異なる複数のカメラを使用した場合、切り替えがシームレスにならないからだ。
タッチパネルのピンチイン・ピンチアウトでズームを制御するのも、ユーザーにとって使い勝手がいい操作とはいえない。実際、スマートフォンで撮影された動画には、急激に画角が変わってしまう映像が多い。Xperia 1 IVは、望遠光学ズームレンズを搭載することで、前者の問題を部分的に解決している。スムーズなズームについては、「Xperia PRO-I」のときに導入された「Videography Pro」のズームレバーで実現した。Videography Proを使うことで、望遠光学が「より生きる」といえる。
ここまで動画にフォーカスしたのは、ユーザーの利用シーンが増えているからだという。濱口氏は「波が来ていると思っている」としながら、次のように語る。
「普通に生活していても、例えば新商品を買ったとき、取説を読んで理解するのではなく、動画を見た方が情報量は多い。(コミュニケーションは)テキストベースだったが、静止画が送れるようになり、今は動画も気軽に後れる。特に若い人ほど、動画でのコミュニケーションが当たり前になってきている。そこに確実な需要があるように感じる。(中略)まずはクリエイティブマインドあふれるクリエイターからだが、その裾野を広げられればと思っている」
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