ドコモとソフトバンクの“パケ詰まり”対策 明暗を分けた差はどこにあったのか:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
主に都市部の“パケ詰まり”に悩まされているドコモだが、同じ環境でも、他社は安定した品質で通信できることが多い。特にKDDIやソフトバンクは、SNSなどでも不満を訴える声を見かける機会が少ない。なぜ他社の通信品質は比較的安定しているのか。ソフトバンクが19日に開催したネットワーク品質に関する説明会で、その答えの一端が見えてきた。
アンカーバンド対策や周波数の負荷分散も 基地局用地の多さは有利か
2つ目の対策が、アンカーバンドの輻輳(ふくそう)を回避するためのチューニングだ。NSA(ノンスタンドアロン)の5Gは、まずLTEにつながってから、5Gの電波を足し合わせる。このトリガーとなる周波数帯を、アンカーバンドと呼ぶ。NSAの場合、必ずアンカーバンドに接続しなければならないため、ここにトラフィックが集中してしまう現象が起きる。結果として「局所的に5Gのユーザーが集まると、アンカーバンドのLTEも動かなくなってしまう」(同)。
そこで、ソフトバンクは「アンカーバンドに在圏させるユーザーと、それ以外に在圏させるユーザーをバランスさせ、アンカーバンドを使いすぎないようにした」(同)。ソフトバンクは、当初「アンカーバンドや5Gを使わせようとしてそちらに寄せたが、パケ詰まりが増加傾向を示した。LTE側のトラフィックもある程度増えることを許容しながら、バランスを取ったところ双方が動き始めた」(同)という。5Gを無理に使わせるのではなく、4Gとのバランスを取りながら改善を進めてきたというわけだ。
ドコモの場合、現在発生しているパケ詰まりは主に4G側の800MHz帯で発生していることもあり、アンカーバンドの逼迫(ひっぱく)対策は語れていなかった。こうした課題は、5Gの面展開を先に進めたソフトバンクならではだったといえる。一方で、5Gのエリアを拡大していくと、ドコモがアンカーバンドとして使う2GHz帯や1.7GHz帯なども混雑してくる恐れがある。同社も現在、周波数転用を積極的に進めるよう方針を転換しているため、今後、ソフトバンクと同じ問題に直面しても不思議ではない。その際のチューニングによっては、改善中のネットワーク品質のバランスが、再び崩れる可能性もある。
3つ目に取った対策は、特定周波数帯への偏りだ。これは、プラチナバンドなど、電波の到達範囲が広い周波数帯に、接続が集中してしまうことを意味する。直近までドコモで発生していた帯域逼迫の主な要因の1つも、これだ。ドコモは、基地局のチューニングやキャリアアグリゲーションの解除などで、800MHz帯から他の周波数帯に接続する端末を移行させるチューニングを入れ、これを解消しようとしていた。
これに対し、ソフトバンクは「地道に基地局を追加し、そこに届く電波を増やした」(同)。ドコモが対症療法にとどまっている一方、ソフトバンクは根本的に基地局数を増やすことでこれを解決したといえる。それが可能だったのは、ソフトバンクが「そもそもの成り立ちとして、いろいろな会社を買収している」(同)からだ。実際、ソフトバンクは、ボーダフォンから継承した基地局や自身で設置した基地局に加え、イー・モバイルやウィルコムの用地も活用。「もともと3社で使っていた局をベースに展開しており、その範囲を超えて新たな局を追加しなければいけない状況は、それほど多くない」(同)という。
もちろん、「PHSのサイト(用地)だとアンテナの支柱が細かったりするため、工事に時間がかかる。ビルオーナーとも交渉が必要でなかなかタイミングは合わない」(同)と苦労はあるが、4G時代から高い周波数で密に基地局を展開してきた資産が生きている。面展開を重視した5Gのエリア設計や、それを生かす地道なチューニングに加え、もともとセルの範囲を狭く取っていたことが、トラフィック対策に有効に働いているといえそうだ。また、その前提となる品質劣化の検知の速さも、ドコモとは一線を画していることがうかがえる。
関和氏が「飛び道具はない」と語っていたように、いずれも地味で地道なチューニングや基地局追加の成果だ。一方で、飛び道具がないだけに、一発逆転は難しくなる。セオリーに従い、一歩一歩、改善を繰り返すしかないからだ。その意味で、ネットワーク品質の高さは、ソフトバンクの強みになりつつある。対するドコモも、人海戦術で品質改善を急いでいるが、品質劣化を検知する仕組みや、トラフィックをさばくための5Gエリアが依然として不足しているように見える。ネットワーク品質は同社にとって競争力の源泉だっただけに、改善は急務だ。
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