Xiaomiが“スマホの先”に見据えるもの ロボット開発でIoT家電の覇権を握れるか:山根康宏の中国携帯最新事情
Xiaomiはロボット事業にも参入しており、2023年8月には犬型のスマートロボット「CyberDog 2」を発表した。Xiaomiがロボットを手掛ける背景には、スマートフォンの次の見据えた動きがある。Xiaomiはスマートフォンに並ぶ柱の事業として10年以上前からIoT製品の開発も進めている。
2023年8月14日にXiaomiは毎年開催しているレイ・ジュンCEOによる年次講演会を行った。今後の事業展開や新型折りたたみスマートフォンの発表の後、同CEOが自信ありげに発表した製品が、犬型スマートロボット「CyberDog 2」だ。Xiaomiのロボットはこれで3製品目であり、スマートフォンの先の未来に向けた製品開発を着々と進めている姿を世界中にアピールした。
本物の犬のように仕上げた「CyberDog 2」 業務への応用も視野に
CyberDog 2の最大の特徴は、本物の犬のようなデザインに仕上げたことだ。関節部分には独自に開発したマイクロモーターを搭載し、スムーズな動きを実現している。またセンサーを多数搭載しており、AI処理により障害物を避けて歩行したり、人間の音声を理解して動いたりすることも可能だ。価格は1万2999元(約26万円)で、この手の製品としては破格ともいえる安さだ。
価格を低く抑えたことで個人でも手が届くだけではなく、大学のみならず高校などでもCyberDog 2を購入し、ロボット関連の開発ができるようになる。本体設計はオープンソース化され、誰もが自由にソフトウェアで機能を追加できる。
Xiaomiが公開しているCyberDog 2のデモムービーでは、実際の犬のようにペットとして使うことも想定しており、それだけを見るとソニーのaiboを大きくしただけの存在に見えるかもしれない。だがCyberDog 2に搭載されているLiDARや触感センサー、音声認識技術などを使えばロボット本来の用途ともいえる監視や運搬といった業務用途への応用も可能になる。CyberDog 2はロボット開発者を広げるツールとしても期待できるのだ。
また、マイクロモーターだけも販売されるので、独自のロボットを開発することも可能だ。マイクロモーターの価格は499元(約1万円)とこれも安い。マイクロモーターはロボットの機械的な心臓部でもある。スマートフォンではプロセッサやカメラは大手メーカーが先行して開発しており、Xiaomiが後から参入することは難しかった。Xiaomiはロボットに必要不可欠なモーターをいち早く開発して外販する体制を整えたことで、発展中のロボット産業界で重要なポジションを得ることができるだろう。
ライバルメーカーが台頭するスマホ市場 IoT家電を第2の柱に
Xiaomiがロボットを手掛ける理由は、スマートフォンの次の見据えているため。低価格スマートフォンで市場を席巻してきたXiaomiだが、先進国ではスマートフォンの普及が進み、今後の成長はなかなか見込めない。また、新興国でもライバルメーカーが台頭している。
IDCの調査によると、2023年第2四半期の世界のスマートフォン出荷台数順位は、1位Samsung、2位Apple、3位Xiaomi、4位OPPOで、5位にTranssionが初めてランクインした。Transsionは傘下にItel、Infinix、Tecnoの3社を有しており、低価格モデルを中心としてアフリカ市場ではシェア半分を誇るほどの人気メーカーだ。価格競争ではXiaomiもTranssionの後塵を拝している。
Xiaomiはスマートフォンに並ぶ柱の事業として10年以上前からIoT製品の開発も進めている。既に多数のスマート家電などを販売しており、日本でもXiaomiの炊飯器が発売されたことは記憶に新しい。洗濯機や冷蔵庫などの大物からデスクライトまで、Xiaomiの家電は大手メーカーと互角のラインアップを誇っている。
だが、スマート家電の普及はいまだに進んでおらず、一般的な白物家電は価格競争も限界に達している。さらに世界各国に販売するとなれば輸送や在庫管理、アフターサービスなどコストも大きくかかる。IoT製品はこれから確実に普及してくだろうが、その中でもスマート家電はまだ当分の間大きな利益を得られるビジネスにはならないだろう。しかもスマート家電が普及し始めるころには、参入メーカーも増え、競争も今以上に厳しくなっているだろう。
世の中の技術トレンドに合った製品を作れるかがカギに
Xiaomiが今後成長していくためには、スマートフォンを中心としたエコシステムだけではなく、世の中の技術トレンドを追いかけていくことが必要だろう。2021年にはスマートEVの開発を発表し、2024年の発売に向けて現在開発が進められているという。スマートEVは運転手の認識や自動運転といった自動車を取り巻くハードウェアの開発だけではなく、都市の交通インフラとしてスマートシティーの開発にも関わる需要なビジネスになる。スマートEVは自動車メーカーだけではなく、HuaweiなどIT企業の参入も目立っており、Xiaomiとしてもいち早く製品化にこぎつける必要がある。
スマートロボットもスマートEVと同様に、スマートフォンで培った技術を応用できる製品だ。スマートフォンメーカーであるXiaomiにとっては次のステップの製品として開発を進めることは当然のことなのだろう。例えばペット型ロボットが家の中を徘徊(はいかい)しつつ、住人の声の具合や咳の回数、体温を測定し、水を飲む回数などを自動計測し、健康に異常があると判断すれば即座に医者に通知を行う、といった応用もできるようになる。センサーを備えたロボットは人間を見守ってくれるツールに進化するだけではなく、スマート医療、スマートシティーへ連携するツールとなり、社会インフラを構築する1つのパーツとなり得るのだ。
Xiaomiは2022年8月に人型ロボット「CyberOne」を発表した。二本足走行のロボットを開発する企業はまだ少なく、コンシューマービジネスを行っているXiaomiが発表したことで商用化の夢も一気に実現するかもしれない。センシング技術などは四本足走行のCyberDog 2からさまざまなデータを蓄積できるだろうから、CyberOneも歩行の安定性さえクリアできれば、市販化される時期は遠くないかもしれない。家庭用ロボットでXiaomiがシェア1位になる可能性も十分あり得るのだ。5年後10年後に拡大する新たな製品市場に向け、Xiaomiのロボット開発からは目が離せない。
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