なぜパケ詰まりが起こるのか(後編):「コロナ禍の変化」と「3キャリアの5G整備計画」から探る(1/3 ページ)
市街地にて「スマホは圏内だが通信が遅く、つながりにくい状態」、いわゆる「パケ詰まり」について考察する。今回はコロナ禍を経て、都市部で急にパケ詰まりが起きる理由、大手3キャリアの5Gエリア構築戦略の違いといった点からパケ詰まりの理由に迫る。
「パケ詰まり」と呼ばれる、特に市街地にて“スマホは圏内だが通信が遅い、つながりにくい状態”について考察するこの記事。前編では「都市部の混雑スポットでは、高速な5Gエリア整備を充実させたキャリアの方が快適な傾向」にあることをテストで検証した。そして、ドコモも全国だと高速な5Gエリアが広いのにもかかわらず、なぜ市街地でパケ詰まりが起きているのかという話で終わった。
後編では「コロナ禍を経て、都市部で急にパケ詰まりが起きる理由」と、「大手3キャリアの5Gエリア構築戦略の違い」からパケ詰まりの理由に迫っていく。また、2023年10月10日に実際された「ドコモ通信品質改善の取り組みについて」の説明内容も反映させている。
パケ詰まりの背景に、コロナ禍による急激なインターネット需要増加
「パケ詰まり」と「通信の混雑」の話題でまず押さえておきたいのが、コロナ禍による日本のインターネット通信量の急激な増加だ。
総務省による、主に個人向け固定通信(家庭用の光回線など)のトラフィック(回線利用量)のデータからは、コロナ禍の2020年から約2年で日本全体の通信トラフィックが2倍以上に急増している。
原因がコロナ禍におけるテレワークやライブ・動画配信需要、いわゆるデジタル活用の急激な拡大なのは明らかだろう。実現や普及は数年先と見られていたビジネスやシステムが、コロナ禍を機にいくつも当たり前の物として普及している。ビジネスからエンタメまで通信量の多い動画視聴が増え、ECやサブスク、電子決済の利用拡大、飲食店やサービス業のシステム刷新まで社会全体がスマホの利用を前提としたものへと早送りで変わりつつある。
パケ詰まりの話題に直結する、スマートフォンなど移動通信の通信量の動きも確認すると、固定通信とは異なる動きが見られる。以下のグラフは、先ほどと同じ総務省のデータから「関東の昼(12時〜13時)、夜(21時〜22時)、平均トラフィック」を抜き出したものだ。
コロナ禍すぐの2020年は、スマホを自宅Wi-Fiの固定通信につなぐケースが多いためか移動通信の極端な増加は見られない。とはいえ、トラフィック自体はコロナ禍以前と同じペースで増加している他、2021年以後はahamoなど政府要請の値下げによる通信量の低廉化も始まっている。2020から2021年までの期間はさまざまな見方があるものの、「自宅を中心としたスマホ利用が増えた時期」と推測できる。
問題は、市街地に人流が戻り始めた2022年にからだ。昼夜のピーク時間帯のトラフィック増加ペースが加速し、それまで1年で約2割の増加ペースが1年で約3割のペースへと上昇しつつある。理由としては、コロナ禍の在宅生活や社会変化により、ネット利用の増えた人が市街地に戻ってきたことが考えられる。2022年以後は「昼夜を問わず市街地の人流が増え、移動通信のトラフィックが急激に増え始めた時期」といえる。
これらのデータから、パケ詰まりの要因として「コロナ禍でネット利用の増えた人が昼夜の都市部に戻り、キャリアの5Gや基地局の整備が追い付いていない状況」がパケ詰まりの大きい要因だと推測できる。ドコモの説明会でもパケ詰まりの要因として挙げられていた。ではなぜ、キャリアによってパケ詰まりの程度に差が出ているのか。各キャリアのコロナ禍や5G開始後の基地局整備の方針からパケ詰まりの原因を見ていこう。
混雑に対するパケ詰まり対策は、5Gなど基地局の密度が重要
各社の5G整備状況を解説する前に、通信容量が増加したエリアに対してキャリアがどういった対策を実施するのかについて軽く触れておこう。下記は前編の記事で掲載した都市部の混雑スポットにおける4キャリアのスピードテストに、4G専用モードのテスト結果を加えた表を掲載する。
パケ詰まりと呼ばれる現象は、基地局設備などの通信容量に余裕がないエリアにて、通勤ラッシュや昼休憩といったスマホ利用のピークを迎える時間帯に起きやすい。このテスト結果を見ると、8月末時点でドコモはKDDIやソフトバンクと比べると、通信容量に余裕のあるエリアが少ないことが分かる。また、スマホから基地局までの距離や電波の届きやすさが影響しやすい上り速度の遅さも気になるところだ。
パケ詰まりが起きるほど通信の利用が多いエリアへの対策については、各キャリアともおおむね以下のような対策を進めている。
- 5Gなど、新しく利用の少ない周波数帯の基地局整備を進める
- 混雑エリアにスモールセル基地局を整備するなど、基地局の密度を高める
- 基地局や各周波数帯との接続バランスをチューニングする
- 5Gなど、新しい周波数帯に対応したスマホの普及を進める
現時点では、スピードテストを見る限り、5G基地局の整備を進めたキャリアほど余裕があるという印象だ。また、スモールセル基地局を密に整備すれば、スマホと基地局の距離が近くなる分、上りの速度低下も起きにくくなる。最後の「5Gスマホ普及」も重要で、普及が進まなければ5G整備の効果が薄くなり、4Gが混雑し続けることになる。
総務省「情報通信審議会 情報通信技術分科会新世代モバイル通信システム委員会報告 平成29年 9月27日」より。高速な5G Sub-6やミリ波は、スモールセルやスポットセルなどによる局所的なエリアの混雑緩和に向いている
これとは別に、MU-MIMO、Massive MIMOがパケ詰まりに有効ではという話題もある。主にミリ波やSub-6帯など高めの周波数帯かつスモールセルの基地局にて周波数利用効率の向上を期待できる技術だ。程度の差はあれ4キャリアとも導入している。一方で、設備が大型化し、整備しにくいという欠点もある。ただ、現在のパケ詰まりはそれ以前に必要なエリアへ5G Sub-6などのエリアを適切に展開できていない問題が大きい。これらの技術がより効果を発揮するのは、5Gの普及が進んだ少し先の段階と考えた方がいいだろう。
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