制裁中なのに5G対応 謎多きスマホ「HUAWEI Mate 60」はどのように製造されたのか:山根康宏の中国携帯最新事情(2/2 ページ)
Huaweiのフラグシップスマートフォン「Mate 60」シリーズは、基本スペックの一部を非公開として発売しながらも、中国では話題の製品となり売れまくっているという。プロセッサの「Kirin 9000S」を安定供給ができるかが鍵となる。アジアや欧州で発売されれば、Huawei人気の復活もありうるかもしれない。
“綱渡り”でのプロセッサ製造 Kirin 9000Sを安定供給ができるかが鍵
この手法を使うことで、Huaweiは今後ハイスペックな5Gスマートフォンを市場に送り出すことが可能になる。だが、実情はかなり綱渡りの状態でプロセッサの供給を受けているとみられている。まず、DUVを使ったKirin 9000Sの製造はEUVよりも高いコストがかかる。またプロセッサの歩留まりも悪く、不良品の発生率が高い。つまりKirin 9000Sの製造コストは過去の製品にくらべて大幅に高い上に、安定した供給量を確保することが難しいのだ。
また、ASMLのDUV装置が輸出規制に入ったことで、SMICは今後工場の規模拡大も難しく、既存の同装置を使い続けていくにも限界が来る。例えばメンテナンス用の部材調達が難しくなる恐れもあるのだ。
もちろん、Huaweiはそこまでを考えた上でMate 60を発表したのだろう。薄型の折りたたみスマートフォン「Mate X5」もMate 60と同時に発表されており、Kirin 9000Sを搭載するモデルは現時点で5機種。恐らく2024年春に発売予定の「P70」(仮称)もKirin 9000S、あるいはその後継プロセッサを搭載したモデルが複数出てくるはずだ。
10月27日に発表されたHuaweiの最新の決算報告によると、2023年1月から9月の売上高は4566億元(約9兆3744億円)で前年同期比2.4%アップ、純利益率は16%で同6.1%から大きく増加している。Mate 60が関与したのは9月だけだが、同モデルが売り上げアップに大きく貢献したのは間違いない。
Mate 60はHuaweiのスマートフォン開発技術に衰えはなく、今でも世界トップクラスの技術を持っていることを証明した。今後Huaweiのスマートフォンの売れ行きが好調になればなるほど、米国の中国に対する規制は厳しくなっていくだろう。だが諸外国にまで規制を同調するのは外交的に「やりすぎ」となる恐れもある。そしてどれだけ製品や技術の対中国輸出を規制しても、それは結果として中国企業の技術開発力アップを加速するものになるだろう。ちなみに世界知的所有権機関(WIPO)によると、2022年の国際特許出願件はHuaweiが世界1位だ。
2022年発売された「Mate 50」、2023年春発売の「P60」は、一部モデルが海外市場でも販売されている。今のところMate 60の海外展開は何の発表もないが、アジアや欧州で発売されれば、Huawei人気の復活もありうるかもしれない。また、海外に出すとなればプロセッサ供給問題が解決されたということにもなる。スマートフォンの販売数が増える年末に向け、Mate 60の動向に注目したい。
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