鉄道の「QRコード乗車券」導入で何が変わる? メリットと課題を整理する(1/3 ページ)
関東の鉄道8事業者が、2026年度末以降にQRコード乗車券を導入する。従来の磁気券から純粋な用紙にQRコードを入れるなど、コストの削減を目指す。ユーザーの利便性も向上することが見込まれるが、参画しない事業者との連絡については課題が残っている。
2024年5月29日(水曜日)、関東を本社に構える鉄道8事業者(京成電鉄、京浜急行電鉄、新京成電鉄、西武鉄道、東京モノレール、東武鉄道、JR東日本、北総鉄道)が、2026年度末以降にQRコード乗車券を導入することを発表した。導入時期は一斉ではなく、バラつきがある模様ながら、従来の磁気券から純粋な用紙にQRコードを入れるなど、コストの削減を目指す。
磁気からQRコードへの置き換えはどのような背景で行われ、どのような課題を抱えているのだろうか。各社への取材をもとに、解説する。
磁気券が多様化する一方で、鉄道事業者にとっては負担も
関東の鉄道は1990年代に入ると、自動改札機の導入が本格化した。関西に比べ、普及が大きく遅れたのは、相互直通運転、各鉄道事業者間の連絡運輸(一部の駅ではJR東日本と私鉄、地下鉄の乗り換え用の中間改札がある他、直接乗り換えができる駅もある)が多く、乗車券類のエンコード化(きっぷの裏面を磁気化して、必要な情報を読み書きできる)が進まなかったことだ。
乗車券も純粋な用紙から、ウラが黒い磁気券に変わった。短時間で多くの乗客が通過できる他、不正乗車等が瞬時に判断できる。ただ、むやみに折り曲げた状態、誤って純粋な用紙の乗車券を投入すると、自動改札機が故障する恐れがある。また、磁気式の用紙には金属を含んでいるので、リサイクルの際は磁気層の分離、廃棄が必要で、純粋な用紙に比べ、コストがかかる。
上記の難点を抱えつつ、1995年に入ると磁気券が多様化される。
先陣を切ったのはJR東日本で、乗車駅から100キロまでの乗車券を購入できる近距離乗車券用の券売機を多機能化し、新幹線や在来線の自由席特急券が買えるようになった。この他、領収書の発行、Suicaなどの交通系ICカードの履歴印字ができるようになった。新幹線の自由席特急券を除き、自動改札機に入れなくてもいいものでも磁気券で発行される。
私鉄でも追随し、例として東武鉄道(以下、東武)はほとんどの駅の券売機で特急券が購入でき、自動改札機に投入する必要がない。
しかし、交通系ICカードが普及し、人々の生活必需品と化すと、鉄道事業者にとって磁気券はますます大きな負担になっていたようだ。既に沖縄都市モノレール、北九州高速鉄道、スカイレールサービス(2024年5月1日〔水曜日〕付で広島短距離交通瀬野線を廃止)、山万では、自動改札機に投入せず、センサーにタッチすればよいQRコード乗車券が実用化されていた。純粋な用紙にQRコードを入れることで、自動改札機のメンテナンスも含め、コストが大幅に削減された。
関東でも東武東上線の看板列車「TJライナー」の座席指定券がQRコード付きになり、池袋5番線の中間改札でチェックしている他、京成電鉄(以下、京成)は「Skyliner e-ticket」(訪日外国人専用割引チケット)や定期券Web予約サービス、JR東日本は「ネットde定期」を始めとした指定席券売機などでのQRコードによる各種の引き換えサービス、西武鉄道(以下、西武)は一部企画乗車券をオンライン上で発売しており、QRコードの読み取りなどをすることになっている。
共用サーバを活用し、鉄道事業者間にまたがる乗車券の発券が容易に
京成、JR東日本、西武によると、乗車券のQRコード化については、特定の鉄道事業者から提案を受けていないという。中長期的な観点において、磁気乗車券(磁気券)からの置き換えを各鉄道事業者間で検討していた中、設備投資状況、機器取替のタイミング、磁気乗車券の利用状況など、おのおの総合的に検討した結果、QRコードを活用することが有力となり、共同での発表に至った。
先述した沖縄都市モノレール、北九州高速鉄道、スカイレールサービス、山万でQRコード乗車券の導入に踏み切れたのは、相互直通運転、各鉄道事業者間の連絡運輸がないことに尽きる。独自のシステムを導入できることから、利用客の負担や迷惑が掛からない。
一方、関東地方は相互直通運転、各鉄道事業者間の連絡運輸が多く、独自のシステムが導入しづらい。QRコード乗車券を共同開発することで、共用のサーバで管理できることから、鉄道事業者間にまたがる乗車券の発券が容易にできる。また、QRコード乗車券は純粋な紙の他、スマートフォンによるデジタルきっぷを検討している模様で、さまざまな選択肢を用意する可能性がある。
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