みずほと楽天の資本業務提携で何が変わる? 対面×デジタルの強みを掛け合わせ、モバイル連携は「できない」
みずほFGが楽天カードに14.99%出資し、デジタルと店舗の強みを組み合わせた新たな決済サービスの展開する。12月から提携カードを発行し、法人向けAI与信での提携も検討する。
みずほフィナンシャルグループと楽天グループは11月13日、包括的な資本業務提携を発表した。みずほ銀行が楽天カードへ14.99%を出資し、翌14日の記者会見で12月3日から提携クレジットカード「みずほ楽天カード」の提供を開始すると発表した。デジタル決済が個人消費の約30%にとどまる日本市場において、銀行の対面チャネルとEコマースプラットフォームの強みを組み合わせてシェア拡大を狙う。
みずほ銀行は顧客接点のデジタル化とリテール戦略の強化を、楽天は実店舗を持つ金融機関との連携による信用力向上を、それぞれ目指す。2023年11月の楽天証券ホールディングスとの資本業務提携強化に続く今回の提携で、両社の協力関係はさらに深化する。楽天カードの発行枚数は2024年9月時点で3144万枚、ショッピング取扱高は21.1兆円に達しており、みずほ銀行の2400万口座を超える顧客基盤との相乗効果が期待される。
新カードは年会費無料で、Visaブランドを採用。電子マネー「楽天Edy」やVisaのタッチ決済に対応し、海外旅行傷害保険(最高2000万円)も付帯する。利用特典として通常の買い物で1%の楽天ポイントがたまり、楽天市場での利用時は3%のポイント還元となる。みずほ銀行とイオン銀行のATM利用手数料や時間外手数料が無料になる他、年間利用額100万円以上の場合はコンビニATM利用手数料が月2回まで無料となる。
法人向けの協業とデジタル与信での提携も
今回の提携では個人向けサービスにとどまらず、法人向けの新たな展開も計画している。オリコとUCも業務提携に参画し、オリコのAI与信(性能規定与信)を活用したデジタル分割払い機能の導入を検討。楽天市場のユーザーは簡便な申し込みで即時審査が可能となり、繰り返し利用できる分割払いサービスの提供を目指す。
法人向けサービスでは、楽天グループが展開するサービスに関わる約90万社の加盟店などの事業者向けに、新しいビジネスカードの発行を検討。楽天の決済データとみずほの企業向け資金繰り支援ノウハウを組み合わせ、回収業務の効率化や精算業務のDXなど、新たなソリューションの開発も進める。さらに2024年春以降には、みずほマイレージクラブのリニューアルに合わせた新ポイントサービスの連携も予定している。
記者会見で楽天の三木谷社長は「デジタル決済は個人消費の30%程度で、まだまだマーケットが広がる。みずほと組むことで今までにない資産活用ができる」と期待を示した。株式譲渡の実行は2024年12月1日を予定している。
みずほはオープン戦略、カニバリを気にせず展開
今回の提携について、既存事業とのカニバリゼーション(共食い)の懸念がある。みずほフィナンシャルグループは既にクレディセゾンとの提携カードを展開している他、グループ内にUCカードとオリエントコーポレーション(オリコ)という2つのカードブランドを持つ。一方の楽天グループも楽天銀行を傘下に持ち、銀行業務を展開している。
これに対しみずほフィナンシャルグループの木原正裕CEOは、みずほの企業理念である「オープン戦略」を強調。「1人でやるよりもオープンでやった方が経済圏が広がる。みずほ自身のデジタル化も進めるが、他社と組んだ方が広がりがある」と説明した。クレディセゾンとの提携は継続するとしつつ、「多少の整理は必要だが、継続すべきものは継続する」と述べ、顧客のニーズに合わせた多様な選択肢を提供していく方針を示した。
楽天グループの三木谷浩史会長兼社長も「オンラインで相当なプレゼンスがあるが、オフラインではまだまだ」と述べ、デジタルと対面チャネルの補完関係に期待を示した。
みずほFGの楽天カードへの出資比率の14.99%という数字については、木原CEOは「慎重な性格なので、まずは持分法適用前から入ろうかなと考えた」と説明。三木谷会長兼社長も「双方での議論の結果、現時点では15%未満が適切と判断した」としている。楽天カードにとって重要な事業であることを考慮しつつ、段階的なアプローチを取る形となった。
モバイル事業での協業は慎重姿勢
会場からは「みずほ銀行の店頭で楽天モバイルを取り扱う可能性は?」との質問も飛び出した。日本郵政グループとの提携時にも同様の展開があったことを踏まえた質問だったが、木原CEOは即座に「銀行業法上それはできない」と否定する。
「金融は物を売る商業ではない」と規制上の制約を説明しつつ、「三木谷さんが喜ばれると思うが、業法の改正をしていただかないと」とちゃめっ気のある返答で締めくくった。モバイル事業での協業については、今回の提携の範囲外となることが明確にされた。
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