NTTのAIは「頭で勝負する」 自分だけの“ファンサ”、空飛ぶ避雷針、電池技術の美顔マスクも公開(2/2 ページ)
11月下旬に開催した「NTT R&D FORUM 2024」にて、NTTが生成AI「tsuzumi」の実用化や光量子コンピュータのデモンストレーションの詳細を説明した。tsuzumiは2023年3月の商用開始以降、既に900社以上から導入の相談があるという。雷対策ドローンや美顔マスクといったユニークな取り組みも紹介した。
バーチャル空間で実現する1対1のコミュニケーション 心電図データで効果を実証
NTT人間情報研究所は、バーチャル空間での新しいコミュニケーション手法を開発している。同じ映像コンテンツを視聴していても、視聴者一人一人が演者と1対1でインタラクションしているような体験を提供する技術だ。
具体的には、視線が合い、演者が自分に対して呼びかけ、それに応えると演者が反応を返すといった、リアルでは実現が難しいコミュニケーションを可能にする。事前に収録されたコンテンツながら、各視聴者が「自分だけに向けられた」パーソナルなコミュニケーションを体験できる仕組みだ。
開発チームは、VTuberやボーカロイドのファンを対象とした実験で効果を検証。心電図による心拍変動の分析から、従来の「全体に向けた」配信と比べて、1対1のインタラクションの方が視聴者の興奮度が高まることを確認した。具体的には副交感神経の活動指標が低下し、より高い没入感や熱狂が得られることが分かったという。
今回は単一視聴者向けのデモを展示しているが、将来的にはリアルタイム配信での活用も視野に入れているとのことだ。人間中心設計の観点から、人の感性や感覚に焦点を当てた新しいコミュニケーション体験の創出を目指している。
“空飛ぶ避雷針”雷対策ドローンを開発 風力発電所やゴルフ場での活用を視野に
落雷を予知し、ドローンで防ぐシステムも展示していた。避雷針とファラデーケージ(雷保護用の筐体)を搭載した特殊なドローンを打ち上げ、雷をキャッチするという。ドローン上部の避雷針で落雷を誘導し、地上に垂らしたワイヤーで安全に電荷を逃がす仕組みだ。
システムの要となるのが、落雷位置の予測技術。「フィールドミル」と呼ばれる電界測定装置を複数台設置し、上空の電位分布の変化から雷雲の接近を検知する。通常は整然としている等電位線が乱れることで、落雷の可能性がある場所を予測するという。
現在、ドローン本体は実機での模擬雷実験に成功しており、パラデーケースの有効性が確認されている。一方、自然の雷を対象とした実験は天候などの制約もあり、継続的な検証が必要な段階という。落雷予測についても、実際の落雷データとの照合が可能になった段階で、今後機械学習などを活用した精度向上を目指している。
2025年度の実用化を目指す本技術は、特に風力発電所での活用が期待されている。季節によっては頻繁な落雷被害に見舞われる風力発電設備の保護に効果を発揮する可能性があり、将来的にはゴルフ場など、他の用途への展開も検討しているという。都心部でのドローン運用には規制面での課題があるため、まずは郊外での実用化を目指している。
電池技術から生まれた美顔マスク 低環境負荷の電極で美容成分の浸透を促進
同研究所の展示で異彩を放っていたのが、電池技術を応用した美顔マスクだ。もともとNTTが開発した環境負荷の低い電池技術を応用し、マスク内に微弱電流を流すことで美容成分の浸透を促進する仕組みを実現している。
具体的には、プラスとマイナスの電極をマスクに組み込み、肌を電解質として微弱電流を発生させる。この電流によって、ヒアルロン酸やナイアシンアミドなどの美容成分の浸透量が、通常の不織布マスクと比べて約2倍に向上するという。
商品化を想定したプロトタイプは目元用のアイパッチタイプで、化粧水と電極パッチを別々のパウチに収納し、使用時に押すことで化粧水が染み出す仕組みだ。電池自体は1〜2日のエネルギーを保持できるが、実用的な使用時間は15〜20分程度を想定している。
この技術の肝となるのは、環境面への配慮だ。この技術の核となる電極には、有害物質や貴金属を使用せず、セルロースを原料としたカーボン材料を採用。将来的には可燃ごみとして処理できることを目指している。数年以内の製品化を目標に、化粧品メーカーとの協業による展開を検討している。
IOWNによる800Gbpsの超高速通信や5G基地局の省電力化、独自開発の生成AI「tsuzumi」の進化、そして月面探査に向けたワイヤレス給電まで。今回のR&D FORUMでは、NTTの研究開発が通信技術の枠を超えて多様な領域に広がっていることを印象づけた。今後の技術開発の進展にも注目したい。
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