携帯料金の値上げは起こるのか? 4キャリア幹部の“本音”から見えた可能性:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
政府からの強い要請もあって実現した携帯電話料金の値下げにより、大手キャリア各社は、その収益を大きく減らした。決済連動でポイント還元を手厚くした料金プランがヒットしたことなどを受け、ARPUはようやく反転し始めている。一方で、物価や人件費の上昇により、各社の幹部が“値上げ”をほのめかす発言をする機会が増えてきた。
値上げに否定的な楽天モバイル、ただし容量変更には含みも
一方で、楽天モバイルは、こうした見方に対して真っ向から反論する。2月14日に開催されたキャンペーンの発表会で、値下げについて問われた楽天モバイルの共同CEO、鈴木和洋氏は「一部では官製値下げと言われているが、(楽天モバイルがMNOとして新規参入してから)5年で通信業界に適正な競争が起きたと思っている」とコメント。値下げは、「経済合理性の結果だと思っている」と語り、「プラン料金の変更は検討していない」と明言した。
電気などのコストについては、消費電力を減らす工夫で削減しているという。鈴木氏は「AIを使って電気量をシミュレーションしたり、使っていない機器をスリープにすることで、うまく電気代を削減する。そういった形を取ることで、20%の電気代削減は可能だと思っている」と話す。値上げを示唆した他社に対しては、「決算発表を見ても、非常に大きな営業利益を上げているので、日本の通信市場全体としてはまだまだ下がる余地がある」という。
実際、楽天モバイルは契約者数の獲得が進み、2024年末にはMVNOとの合算で830万契約を突破。ARPUも順調に上昇しており、2024年度第4四半期には、エコシステムへの貢献分も含めて2856円に上昇している。楽天モバイルの料金プランは、データ使用量が一定のしきい値を超えた際に料金が上がる段階制を採用している。そのため、ヘビーユーザーの獲得を増やせば、値上げに頼らずとも、ARPUを上げられる可能性がある。
楽天グループの代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏も、「ヘビーユーザーの(若い)方々が、どんどん楽天モバイルを使用するようになっている」と語っており、2025年度の方針には、「データ通信をさらに使ってもらう」ことが挙げられている。低料金を維持しつつ、獲得したユーザーがさらにデータ通信を使うことで、値上げに頼らずとも通年での黒字化を果たせるというのが三木谷氏の見方といえる。
ただ、鈴木氏は料金のステップが上がるしきい値の変更については、「いろいろなシミュレーションを常にしている。将来、変更する可能性がないとはいえない」と含みを持たせた。3278円で無制限という売りは残しつつ、3GB超20GB以下を3GB超10GB以下などに変えていけば、事実上の値上げはできる。また、全体のデータ使用量が上がっていけば、3段階にしている必然性も薄くなる。他社のように、3GB以下とそれ以上という2段階に設定すれば、ARPUを上げられる可能性もありそうだ。
楽天モバイルが低料金で若年層の獲得を増やしているため、他社が値上げに踏み切りづらい側面もある。その意味では、同社がキャスティング・ボートを握っているとみることもできる。一方で、料金値下げで設備投資が抑制されてきたのも事実。結果として、5Gのエリア拡大に時間がかかるなど、ネガティブな要素も目立ってきた。宮川氏の「せっかく世界で一番だった通信が、今やただ安いだけの国になってしまった」という指摘は重い。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
楽天モバイルが単月黒字化(EBITDA)を達成できた理由は? 三木谷氏は通期での黒字化に自信
楽天グループが2月14日、2024年度12月期連結決算を発表した。楽天モバイルが単月黒字化を達成したことに加え、グループ全体の売り上げが28期連続で増収となった。売り上げの伸びのうちの34.4%が楽天モバイルに起因しており、「楽天モバイルが大きな成長ドライバーの1つになってきている」と三木谷浩史会長は強調する。
楽天モバイル5周年 今後の値上げやプラン改定は否定、“お試し割”は「検討していきたい」
楽天モバイルが2020年4月のサービスインから、間もなく5周年を迎える。そんな2025年の春商戦では、若年層向けの「春の応援」キャンペーンを実施し、最大1万4000ポイントを還元する。Rakuten最強プランの改定については、現時点では予定していないようだ。
携帯値下げのせいで、「安いだけの国になり、開発力が落ちる」 ソフトバンク宮川社長が危惧すること
ソフトバンクの宮川潤一社長が2025年2月10日の決算説明会で、日本の携帯電話料金に言及する場面があった。携帯電話料金をめぐっては、菅義偉首相が4割値下げを推進してきた。近年では、「ahamo30GB化」の余波が続く。
「auマネ活プラン+」が好調のKDDI、UQ mobile/povoも回復に貢献 高橋社長から最後のメッセージも
KDDIは2月5日、2025年3月期第3四半期の決算を発表した。「auマネ活プラン+」やUQ mobile、povoの新たな施策も好調で、通信事業は上昇基調となった。5G Sub6の基地局全局が5G SAに対応し、Starlinkとの直接通信も今春開始する予定だ。
NTT島田社長「われわれの最大のブランドは品質」 ドコモの銀行業参入についても言及
NTTの2024年度第3四半期決算は、増収減益だった。営業利益では、ドコモの顧客基盤強化や通信サービス品質向上に関する取り組みによってコストが増大したことで683億円の減収になった。ドコモのスマートライフ事業は、金融・決済事業の同624億円の増加を中心に、全領域で増収した。


