KDDI高橋社長インタビュー 「料金値上げ」示唆の意図、利益は投資に回して「世界一のネットワーク」に(2/2 ページ)
KDDIはMWC Barcelona 2025にて、傘下に収めたローソンをほうふつとさせる形のブースを出し、来場者の注目を集めた。初めて基調講演に登壇した代表取締役社長CEOの高橋誠氏が語ったのも、いかにしてキャリアが自らを変革していくかといったテーマだった。そんな高橋氏が、MWCの会場で報道陣からの取材にこたえた。
衛星通信には+メッセージではなくRCSを導入する
―― 間もなく、StarlinkとのD2C(スマホとの直接通信)が始まります。一方で、イーロン・マスク氏の行動が読めず、リスクと捉える向きもありますが、KDDIはいかがでしょうか。
高橋氏 僕らも基幹網には使ってはいけないとは思っています。災害や非常時に何かできることがあればいい。極端な話、もしそれがなくなっても国家として問題がないようにしなければいけないと思っています。ただ、空が見えればつながるというのはやはり楽しいですよね。春のものはRCS(Rich Communication Services)やその先にあるGeminiとつながります。データ通信はできませんが、(メッセージアプリの中で)Geminiに聞けば、回答が来る。そのテキストメッセージの延長で、写真ぐらいは送れるようになりますし、位置情報も送信できます。今はRCSでGeminiですが、APIを空けて、いろいろなプレイヤーが作れるようにした方が面白いとは思っています。
―― +メッセージではなく、ですか。
高橋氏 インフラが高いので、どうしても。(GoogleやAppleが用意する)RCSにすると、そこが安くなります。iPhoneに入ってくる、それは大きいですね。
―― ネットワークという観点だと、Sub6の基地局が全て5G SAになっているというのは驚きました。
高橋氏 周波数的に、うちはSub6がすごく有利。隣接バンドですからね。ドコモは5Gで先行したかったからか、隣接バンドを取りに来なかった。うちは干渉問題がありましたが、衛星通信事業者が動いてくれたので、そこが強くなりました。今はすごくいい感じです。
―― 4Gが詰まらず、端末がスムーズに5Gをつかめるという点で、UQコミュニケーションズがあったのは大きかったですか。
高橋氏 それは、でかい。ソフトバンクにもWCP(Wireless City Planning)がありますが、あれも大きいと思っています。もとは僕のミスかもしれませんが、(WCPのベースになっている)PHSを手放したのは間違った判断でした。当時はここまで基地局がいるとは思っていませんでしたが、結果としてソフトバンクに塩を送ることになってしまいました。
ユーザーを見ない値上げは問題になる
―― 先日の決算説明会の最後に、値上げを示唆するようなコメントがありました。改めて、その真意を教えてください。
高橋氏 あれは値上げというより、好循環な環境を作りたいということです。これは総務省からも言われていることですが、(基地局の)建設会社などのパートナーとは、購買交渉の過程で値上げの必要がないかを聞きなさいと言われています。ここが厳しいと、下を締め付けることになってしまうからです。政府としても、物価が上がるのはいいことで、価格転嫁はしなさいと言われています。電気代も上がっていますしね。
ただ、それで通信料を値上げするというと、大変なことになります。一方で、どのキャリアも料金はアメリカの2分の1ぐらいになっているので、さすがに何とかしなければいけない。投資し続けなければいけない中で、人口も増えていないので、純増数も増えません。これは国にとってもよくないので、われわれがD2Cや5G SAなどで価値を提案し、そういうことを分かっていただいた上で価値のある価格設定にできれば、一番ハッピーですよね。
もちろん、われわれはそれを利益として残すのではなく、すぐに投資に回します。その方が日本国民のためになるからです。トラフィックが上がり、もうかりますが、そのもうけを使ってどんどん投資をした結果として、3G、4Gは世界で一番いいネットワークになりました。結果としてネットワーク品質は僕らが一番になりましたが、ドコモ、ソフトバンクも投資をし続けています。
―― どんな価値提案をすればその方向に持っていけるでしょうか。
高橋氏 そこは工夫がいりますよね。以前、「さよなら、au」と言われてしまったことがありますが、お客さまの方を見ずに値上げというのは、それはそれで問題になります。ということを、次期社長がやっていきます(笑)。
取材を終えて:ネットワークの上に価値を乗せて提供する姿勢が根底に
ざっくばらんに今の思いを語った高橋氏だったが、ネットワークを作り、その上に価値を乗せて提供することで収益を上げ、それをさらに投資に回していくという視点は全ての話に通底していた。社長就任後にそのネットワークを強化し、好循環を作れたことは自身でも評価していることがうかがえた。一方で、それをコンシューマーにどう落とし込むかは、次期社長である松田氏に託された課題といえる。新体制になる4月以降のKDDIがどのような手を打ってくるのかも、楽しみになってきた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
携帯料金の値上げは起こるのか? 4キャリア幹部の“本音”から見えた可能性
政府からの強い要請もあって実現した携帯電話料金の値下げにより、大手キャリア各社は、その収益を大きく減らした。決済連動でポイント還元を手厚くした料金プランがヒットしたことなどを受け、ARPUはようやく反転し始めている。一方で、物価や人件費の上昇により、各社の幹部が“値上げ”をほのめかす発言をする機会が増えてきた。
「auマネ活プラン+」が好調のKDDI、UQ mobile/povoも回復に貢献 高橋社長から最後のメッセージも
KDDIは2月5日、2025年3月期第3四半期の決算を発表した。「auマネ活プラン+」やUQ mobile、povoの新たな施策も好調で、通信事業は上昇基調となった。5G Sub6の基地局全局が5G SAに対応し、Starlinkとの直接通信も今春開始する予定だ。
KDDI高橋社長、「大規模通信障害が最も印象に残った」 苦難を乗り越え、ネットワーク品質評価へ
2025年2月5日、KDDIが決算会見直後に社長交代を発表した。その発表の中で、高橋誠社長が社長就任から7年後の現在に至るまでを振り返る場面があった。「長時間の通信障害がやっぱり一番印象に残っている」という。
社長交代のKDDI 松田新社長に期待される“AI時代”のビジネスとは
KDDIは2025年2月5日、現在CDO(最高デジタル責任者)を務める松田浩路常務が、4月1日付で社長に昇格する人事を発表した。高橋誠社長は、代表権のある会長に退く。社長交代は7年ぶりとなる。
auスマホとStarlink衛星の直接通信、「約200万台規模」でスタート 「Geminiも使える」とKDDI高橋社長
KDDIの高橋誠社長は2月5日の決算会見で、auスマートフォンとStarlink衛星の直接通信のサービスについて、「約200万台規模で開始する」ことを明らかにした。対象端末について、高橋氏は「Androidに加えて、iPhoneも検討している」とした。「メッセージングサービスの延長線上で、Geminiも使いながら楽しめる」サービスイメージも明かした。


