「かけ放題」悪用の“トラフィック・ポンピング”はなぜ起きた? ドコモとColtの訴訟から考える、接続料の問題点:石野純也のMobile Eye(2/3 ページ)
NTTドコモは3月24日、Coltテクノロジーサービスに対し、過払いになっていた接続料の返還請求訴訟を提起したことを発表した。これに対し、Coltも3月25日にプレスリリースでドコモに反論。ドコモが訴訟を起こした背景には、Coltが提示した接続料の算定根拠が不明確だったことや、その接続料を発信者に還流させる「トラフィック・ポンピング」が発生したいたことがある。
トラフィック・ポンピングの背景に「従量課金の接続料」と「音声定額の登場」あり
こうしたColtの対応に業を煮やしたドコモが、過払い金の返還請求を求める訴訟を起こした格好だ。過払い接続料の具体的な額は明かされていないが、BISの事件が発覚した際には4年半で100億円超の接続料が発生していたとされている。過払い接続料の請求期間はそれより長期、かつ総務大臣裁定ではColt側の接続料が適正水準を大きく上回っていたとされているため、数百億円規模になる可能性がある。
では、なぜドコモからColtに対して、そこまで大きな接続料が発生したのか。Coltは大手3キャリアほどの回線数を持っているわけではないため、通常であれば、そのトラフィックは微々たるものになる。この原因になったとみられているのが、トラフィック・ポンピングと呼ばれる行為だ。冒頭で述べたように、BISという事業者の経営者がこれによって逮捕されている。
トラフィック・ポンピングとは、不正に発生させたトラフィックで音声接続料の一部を得る行為を差す。なぜこんなことが可能なのかというと、キャリア各社が音声通話定額を導入しているからだ。ドコモの場合、eximoやirumoに対して「5分通話無料オプション」を880円(税込み、以下同)で、「かけ放題オプション」を1980円で提供している(ahamoは標準で5分通話無料が含まれるため、かけ放題オプションも1100円になる)。
この音声通話定額は、いわば“どんぶり勘定”で成り立っている。ユーザーによっては利益が出る半面、そうでないケースもあるということだ。先の述べたように接続料は従量課金になるため、音声定額を契約したユーザーが他社に対して大量に発信すると、定額料金を上回ってしまうケースがある。仮にドコモ発信でソフトバンクと10時間の通話をしたとすると、接続料だけで1940円(税別)が発生。かけ放題オプションの収益を相殺してしまう。
キャリア各社はこうしたリスクを勘案した上で、音声通話定額の料金を設定している。実際、日本通信がドコモに対して音声通話定額の提供を求めた際には、総務大臣裁定でその要求が却下され、音声接続料の値下げのみ実現した。これは、音声通話定額を提供するのであれば、その事業者がリスクを取るべきという考え方に基づいている。
ドコモと接続した通信事業者がドコモの回線を契約し、音声通話定額で自社に大量の電話をかけると、定額料の支払いだけで接続料だけが手に入る。上記のように、音声接続料が3分9.70円(税別)でも、10時間程度通話すれば、音声通話定額の“元”は取れてしまう。それ以上かければ、かけただけ“黒字”になる。Coltは、BISが行ったトラフィック・ポンピングの着信側通信事業者になっていた。
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