ドコモが「銀行を持つ」ことでユーザーは何がお得になる? 住信SBIネット銀行が「最高のパートナー」なワケ:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
銀行を持たないことが弱点だったドコモが5月29日、住信SBIネット銀行の株式公開買付け(TOB)を実施することを発表。ドコモやNTTが手に入れたかったのは、「トランザクション(送金や入金などの取引処理)」だった。ドコモの前田社長は「複数のサービスを組み合わせてご利用いただくことで、お得な特典をお届けする」と語る。
キャリア各社が金融連携を深める中、“銀行不在”がドコモの弱点といわれていた。KDDIはauじぶん銀行、ソフトバンクはPayPay銀行を持ち、自社グループの決済サービスと連携させている一方で、ドコモはこうした取り組みに出遅れていた格好だ。これに対し、同社は社長に前田義晃氏が就任して以降、銀行業への進出を表明。既存銀行の買収か新規設立で、足りないピースを補完するとしていた。
5月に開催された決算説明会では、前田氏が「3月までにめどをつけたいと豪語していたが、そこはかなわなかった」としており、「あらゆる可能性を探っているところ」としていた。このような状況の中、ドコモは29日に住信SBIネット銀行の株式公開買付け(TOB)を実施することを発表。終了後には、持ち持株比率が65.81%となり、同行はドコモの傘下に入る。銀行を手に入れることで、ドコモのサービスがどう変わっていくのか。その狙いや今後の展開を予想する。
ドコモは、住信SBIネット銀行をTOBで傘下に収める。同時にNTTはSBIホールディングスに出資して、業務提携を行う。写真は左からドコモの前田社長、NTTの島田社長、SBIホールディングスの北尾会長兼社長、住信SBIネット銀行の円山社長
銀行獲得にファイナルアンサー、表明から1年で出した結論
キャリア各社が、通信と金融の連携を深める中、ドコモの課題になっていたのが“銀行がないこと”だった。5月に開催された決算説明会では、前田氏が「銀行機能を取り込むことで、お客さまに提供できる金融サービスの幅が広がる。パートナーに対してお支払いする取り組みも、銀行があるかないかで変わる」と語っていた。前田氏の社長就任以来、ドコモは買収か新規立ち上げで銀行業への参入を検討してきた。
買収のメリットは、銀行設立にかかる時間を大幅に短縮できるところにある。ただし、これは条件に合致する売り手がいればの話。ドコモや親会社の日本電信電話(NTT)が必要としない機能も引き受けなければならないのは、デメリットの1つといえる。これに対し、自身で銀行を設立するのは、身軽な反面時間がかかる。例えば、みずほ銀行と新銀行の設立を目指していたLINEは、2018年に参入を表明していたものの、目標としていた2020年の参入ができず、2023年には計画の中止を発表している。
2つの方法をてんびんにかけていたドコモだが、最終的に選んだのは前者の買収だった。ドコモは、5月30日から住信SBIネット銀行のTOBを開始。取引完了は、11月ごろを予定している。住信SBIネット銀行の親会社であるSBIホールディングスと三井住友信託銀行もこれに賛同しており、最終的にはドコモの持株比率が65.81%になり、連結子会社化される見込みだ。
銀行業への参入といっても、全国に支店を持つ都市銀行のようなフル機能を必要としていたわけではない。NTTの代表取締役社長、島田明氏も、1月の決算説明会では「帯に短したすきに長しという感じで、いらない機能はいらないし、必要なものが欲しい」と語っていた。
ドコモやNTTが手に入れたかったのは、「トランザクション(送金や入金などの取引処理)」(島田氏)。「既にドコモはマネックス証券を買収し、オリックスクレジットも傘下に入っていて、保険もOEMで供給を受けているが、そういう機能を円滑にお客さまがマネージできる機能」(同)だという。前田氏も、MWC Barcelonaでインタビューした際に、「島田が言っていたように、それはいらないという話が出てくるケースがあるのは事実」と語っていた。
こうしたドコモやNTTの希望に対し、住信SBIネット銀行は数ある銀行の中で「最高のパートナー」(島田氏)だという。島田氏によると、「いらないのは店舗やATMといった重たいもので、住信SBIネット銀行がお持ちなのは、銀行として必要なもの」。前田氏も、「住信SBIネット銀行は、デジタルの銀行機能やサービスをけん引してきた会社。高度なサービスをどんどん実装されていて、セキュリティも高い。まさにこういったサービスと連携したかった」と口をそろえる。
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