シャープに聞く3万円台エントリースマホ「AQUOS wish5」の謎 小型化なぜやめた? senseとのすみ分けは?(2/2 ページ)
シャープがグローバル市場を意識したスマートフォン「AQUOS wish5」。約6.6型HD+(720×1612ピクセル)の液晶ディスプレイや、振動で発動する防犯アラート機能など、幅広い世代に向けたモデルに仕上がっている。反響やコンセプトなどを聞いた。
カラバリが豊富なAQUOS wish5、ランドセルの買い方に通じる面も
―― カラーバリエーションが豊富ですが、これも意図した展開でしょうか。
今井氏 今回のカラーバリエーションは、お客さまに楽しく選んでいただくことを念頭に置いて5色展開としています。
特に、小中学生のお子様に初めてスマートフォンを持たせる親御さんを想定しています。例えば、親御さんが「このAQUOS wish5にしよう」と機種を決めたとしても、お子さん自身が選んだわけではないと感じてしまうこともあるでしょう。
そこで、親御さんがwish5を選びつつも、「色は好きなものを選んでいいよ」というように、お子さんに選ぶ楽しさを提供できると考えています。これは、ランドセルの選び方に少し通ずるものがあります。親御さんがランドセルを買い与える際に、お子さんに色を選ばせるという傾向は、最近のランドセルの多様なカラー展開からも見て取れます。
―― カラー名を和名にした意図を教えてください。
今井氏 wish5のカラーバリエーション(ミソラ、ナデシコ、ワカバ、ユキ、スミ)の名称に和名を採用しました。これはグローバル展開も視野に入れた戦略の一環です。それぞれの色名から日本の伝統的な風景を連想していただき、それが購入のきっかけの1つになればと考えています。和名にすることで、お客さまにとって「これは何だろう?」「この色が気になるな」といった、少し記憶に残るフックとなればと考えます。
―― 電源キーが外側に出ている意図を教えてください。
今井氏 今回、電源キーの形状を、これまでのへこみ(ザグリ)があったデザインから、少し突出した形状に変更しました。この変更は、まさに「押しやすさ」を追求した結果です。技術チームと協議を行い、「押しやすいこの形状でいこう」という結論に至りました。
実際に、発表会でもこの電源キーの押しやすさについて好意的なコメントをいただいており、これも改善して良かった点の1つだと感じています。
―― お子さんが使うことを考えると、持ちやすさは非常に重要ですよね。手になじむ質感もあらゆる方々に使ってほしいからこそ、こだわったポイントでしょうか。
今井氏 おっしゃる通り、wishシリーズでは持ちやすさを強く意識して開発しています。特に、その石こうのような手触りについては、SNSでも「質感がいい」といった好意的なコメントをいただいており、幅広い層の皆さんに「使いやすい」と感じていただける点だと考えています。
―― AQUOS R10にはイヤフォン端子はありませんが、AQUOS wish5には搭載されていますね。
今井氏 wishシリーズでは、ターゲットとなるお客さま層を考慮した結果、3.5mmイヤフォンジャックの搭載を継続するべきだという結論に至りました。
一方、Rシリーズのお客さまは、デジタルリテラシーが高い方が多いと認識しています。そうしたお客さまは、コードレスの完全ワイヤレスイヤフォンをご利用になるケースが多いと思います。そのため、有線イヤフォンジャックがなくても、ご使用への影響は限定的であると判断しました。
senseとのすみ分けは? wishはAndroidスマートフォンの入り口に
―― スペックや付加機能の向上が目を引きますが、AQUOS senseとはどうすみ分けを図っていくのかを教えてください。
今井氏 wishシリーズは、小中学生のファーストスマホユーザーの方々、ご年配の方々、そして法人のお客さまといった幅広い層のお客さまに手に取っていただくことを目指しています。シャープでは、このシリーズがAndroidスマートフォンの最初の入り口となるような存在であってほしいという強い思いを持って開発を進めてきました。そして、このシリーズは今後も継続していきたいと考えています。
一方で、senseシリーズは、スマートフォンをより深く楽しみたい方や、活用に興味のあるお客さまに訴求していくモデルとして位置付けています。senseとwishのSoCに違いがあることや、インカメラの画素数が異なることなどの点でお客さまに魅力を感じていただけるよう、wishシリーズとのすみ分けを図っています。
―― 低価格で大丈夫なのか心配になりますが、これは部材調達のスケールメリットが大きかったのでしょうか。
今井氏 具体的な調達経路についてはお答えを控えさせていただきますが、弊社の調達面での工夫が貢献しているのは間違いありません。全ての部品を自社で調達しているわけではありませんが、そこはまさにシャープの調達力が発揮された部分だと自負しています。wishシリーズは販売台数が見込めるモデルですので、最適な部品を大量に仕入れるという点には特に力を入れました。
AQUOS wish5はAI機能を搭載も、R10と違いアリ 伝え方に難しさも
―― AI 機能がどの程度搭載されているのかというのと、オンデバイス処理なのかクラウド処理なのかをお聞きしたいです。
今井氏 シャープのスマートフォンでは、AQUOS R9から「電話アシスタント」機能を搭載しており、一部機能をAQUOS wish5にも搭載しました。
具体的には、機械音声のガイダンスによって、詐欺電話のような不審な電話を検知し、警告表示でお知らせします。この機能は、デバイス内部に保存されている「詐欺電話音声データベース」を参照することで実現しており、生成AIがリアルタイムで動作しているわけではありませんが、オンデバイスで処理を行います。
一方で、AQUOS R10に搭載されている電話アシスタント機能は、AQUOS wish5の機能に加え、通話内容の文字起こし、通話内容の要約、そして通話内容のハイライト表示にも対応しています。
―― AQUOS R10に搭載されている留守録の用件の要約機能をAQUOS wish5に搭載できないのは、やはりプロセッサに依存している部分が大きいですか。
今井氏 そうです。AIをオンデバイスで動作させることは、このクラスのプロセッサでは現時点では難しいのが実情です。そのため、AI機能の本格的な搭載は、もう少し上位レンジの機種からとしています。
―― クラウドでカバーすることは考えていますか。
今井氏 現時点では、プライバシー保護の観点から、AI機能の処理をクラウドでカバーすることは考えていません。
―― 初めてスマートフォンを使う人、特にITリテラシーの低い方々に対して、AIを訴求することは難しいですか。
今井氏 他社さんが行っているようなセンセーショナルなアプローチとは異なり、私たちのAI機能の訴求は、一見すると派手さに欠けるかもしれません。しかし、シャープではお客さまの日常生活に自然に溶け込むというスタンスで、その価値を伝えていきたいです。お客さまが日々の生活の中で「こんなことができるんだ」と体験した際に、実はその裏でAIが動いている、という形で魅力を伝えるのが理想的だと考えています。
取材を終えて:幅広い層にとって魅力的な一台に
AQUOS wish5は、おおむね良好な評価がシャープに寄せられているとのことで、今後のシャープの売れ筋のエントリースマホになりそうだ。ディスプレイサイズは小型ではないものの、グローバル市場での販売を考えると、妥当な判断なのかもしれない。また、防犯機能は子どもだけでなく、行方不明になってしまう高齢者にも適しており、幅広い層にとって魅力的な一台となるだろう。
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