楽天モバイル「ナンバーワンキャリア」への戦略 2026年に5G SA開始へ、衛星通信は「前倒しで開始」検討も(1/2 ページ)
7月に900万回線を突破し、1000万回線が見えてきた楽天モバイル。今後はAIと衛星通信が鍵を握るとみて、サービスの開発や強化に努めている。5Gのカバーエリアも拡大し、2026年には5G SAサービスを開始することも明かされた。
7月に900万回線を突破し、1つの目標としてきた1000万回線が見えてきた楽天モバイル。今後、さらに楽天モバイルが成長するために、どんなことが必要なのか。
楽天グループが開催していたビジネスイベント「Rakuten AI Optimism」にて7月31日、楽天モバイルが「宇宙とAIが通信を変える No.1キャリアに向けた楽天モバイルの挑戦」と題した講演を実施。3人のキーパーソンが、楽天モバイルの最新戦略を語った。
登壇したのは、楽天モバイル 共同 CEOの鈴木和洋氏、楽天グループ 専務執行役員、楽天モバイル 代表取締役社長の矢澤俊介氏、楽天グループ 専務執行役員、楽天モバイル 共同CEO、楽天シンフォニー 代表取締役社長のシャラッド・スリオアストーア氏の3人。
2020年のサービス開始当初から大きく変わった市場環境
2020年に楽天モバイルが携帯事業に参入してから6年目に突入したが、鈴木氏は、サービス開始当初から市場環境が大きく変わってきたと振り返る。
1つ目が動画配信サービス市場の拡大で、コロナ禍を契機に動画視聴のニーズが高まり、2020年から2024年にかけて動画配信サービスの規模は1.5倍に拡大した。2つ目がキャッシュレス決済で、PayPayや楽天ペイをはじめとしたコード決済の年間利用件数は100億円超まで拡大している。そして3つ目が生成AIだ。2022年頃から提供されてきた生成AIは急激に浸透し、毎日のように進化を遂げている。
こうした市場環境の中心にあるのがスマートフォンであり、楽天モバイルは誰もがスマホを自由に使える世界を目指すべく、「携帯市場の民主化」をコンセプトに掲げる。楽天モバイルは「Rakuten UN-LIMIT」「Rakuten最強プラン」といったワンプランを提供し続けており、家族、子ども、若年層、シニアに向けた割引やポイント還元のプログラムも提供している。
Rakuten Linkで使えるAIが進化、通話品質の向上も
サービス開始当初から提供しているコミュニケーションアプリ「Rakuten Link」は、国内通話がかけ放題でおなじみ。2024年10月からは、AIチャットサービス「Rakuten Link AI」を提供し、2025年7月30日にはプロンプトによる検索ができる「Rakuten AI」へと進化した。Rakuten AIではより多くのシナリオに対応できるようになった他、音声のテキスト変換やリアルタイム翻訳、画像検索にも対応し、利用シーンが拡大した。
「今までのAIの使い方は、聞きたいことを聞いて返してもらうだけだったが、今後はAIがコンシェルジュになり、望んでいることを予測してくれる。こんなところに行きたい、欲しいことを予測して教えてくれる。AIがあなたのコンシェルジュになる時代がやってくる」と鈴木氏は期待を寄せた。
7月24日には、Rakuten Linkのアップデートにより、通話品質がさらに向上したことも鈴木氏は明かした。
2025年はエンタメも無制限、1000万契約は通過点にすぎない
楽天モバイルは以前から、3000円台前半でデータ通信が使い放題という料金プランの継続している。鈴木氏はこの5年、日本で物価が上昇している中で、通信費だけが例外的に下落していることに触れ、「楽天モバイルの参入によって、健全な競争が起きて、携帯料金が低下したと考えている」と胸を張る。
2025年は、データ通信や通話だけでなく、エンタメも無制限で利用可能になることを訴求する。それを実現するのが、10月の提供を予定している新料金プラン「Rakuten最強U-NEXT」だ。月額4378円に、楽天モバイルのデータ無制限とU-NEXTの利用料金が含まれており、データ容量を気にせずU-NEXTのコンテンツを楽しめる。
楽天モバイルは7月7日時点で900万回線(MNOとMVNOを合わせた数)を突破しており、1000万回線に向けて順調に成長している。「次のマイルストーンである1000万に向けて、全社一丸となって取り組んでいる。ただしそこは通過点にすぎない。1000万を超えて、さらにお客さまに選ばれるキャリアとしてまい進したい」と鈴木氏は意気込みを語った。
矢澤氏はこの5年間の変化として、月間のデータ容量が「毎月、驚きのペースで伸びている」ことに触れ、楽天モバイルユーザーは月平均で30GBのデータ容量を消費していることを述べた。月100GBに到達するのも「近い将来ではないか」と予測した。
2026年に5G SAサービス開始へ ネットワークや店舗運営にAIも
シャラッド氏はこの5年間の振り返りとして、ハードウェアとソフトウェアを分離し、さまざまなベンダーの無線機器を採用する「Open RAN」をネットワークに採用したことに言及。これにより、設備投資を40%、運用コストを30%削減できたとした。
ネットワークの運用にAIを導入することで、点検や検査のスピード向上、故障箇所の自動検出などが可能になり、運用の効率化やコストの削減につながることをメリットに挙げた。Rakuten AI Optimismでの楽天モバイルブースで展示していたSIM自販機やアバター接客にもAIを導入し、完全自動・セルフサービス型の店舗運営を目指す。
シャラッド氏はさらに、2026年に楽天モバイルで5G SA(スタンドアロン)の通信サービスを提供する予定であることを明かす。現在、楽天モバイルの5Gサービスは、4Gのコアネットワーク上で5Gを展開するNSA(ノンスタンドアロン)を採用している。SAにアップデートすることで、5G本来の特徴である低遅延が強化され、より高速で通信可能になることが期待される。特定の用途ごとにネットワークを仮想的に分離する「ネットワークスライシング」も対応可能になり、より信頼性の高い通信サービスを実現できる。
この5G SA方式のモバイルネットワークの開発や実装に向けたパートナーとして、シスコ、ノキア、F5と連携することも明かした。具体的には、5G SAのコアネットワークに、シスコ製のパケットコアシステムであるモバイルパケットコアポートフォリオと、ノキア製の加入者データ管理システムを導入する。あわせて、F5製のGi/N6 LAN機能をサポートする「BIG-IP Next クラウド ネイティブ ネットワーク機能(CNF)」も導入する。
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