News 2001年7月5日 11:12 PM 更新

ソニー,新型AIBOは「ダウンサイジングも検討」

新型AIBOを計画中のソニーだが,このAIBOはより高機能を狙った第3世代ではない可能性が高い。AIBO事業にとって普及台数を増やしてプラットフォーム化することが急務だからだ。

 ソニーが新型AIBOを計画中だ。1999年5月に発売された初代「ERS-110」,2000年10月に登場した第2世代の「ERS-210」と,大きな話題を呼んだAIBOだが,年内にも“誕生”すると見られる新型AIBOは,これまでとは違った事情で企画されている。

 「ERS-110が失敗したらAIBO事業は打ち切り」という状況のもと,初代AIBOが登場したのは有名な話。結果,ERS-110は20分で初回発売分が売り切れるほどの人気を博し,ERS-210の登場へとつながる。ソニーが「第2世代」と呼ぶように,ERS-210はコミュニケーション機能が拡充されるなど,ERS-110から大幅な機能アップが図られいてる(そもそも,ERS-110は実験的な商品ではあったが)。

 しかしながら,今度の新型AIBOでは,第3世代という“縦方向への進化”ではなく,ラインアップの拡充という“横方向への展開”を目的としているようだ。その背景には,AIBOプラットフォームの拡大という課題がある。

AIBOの理想

 ソニーグループでAIBOを担当するソニーエンタテインメントロボットカンパニー(ソニーERC)。マーケティング部プロモーション課の花井譲氏はAIBOビジネスの現状について,「まだまだ小さい」と語る。

 初代と第2世代をあわせて,AIBOは約10万体が販売された。ERS-110が登場した頃はエンタテインメントロボットが未知の製品であったことと,製品の価格(ERS-110は25万円,ERS-210が15万円)を考えれば,まず成功と言えるレベルだろう。だが,花井氏は,「AIBOのハードウェアを核としてビジネスを行うには,この程度の数字ではまだまだ足りない」と強調する。

 “AIBOのハードウェアを核としたビジネス”というと,AIBOのキャラクターグッズの販売などがすぐに思い浮かぶが,その本命は,AIBOを構成するアーキテクチャ「OPEN-R」のライセンスビジネスにほかならない。

 当初は,エンターテインメントロボットというコンセプトが大々的にフィーチャーされたため,それほど話題にはならなかったが,同時に「頭や脚を取り替えることが可能」という画期的なアイデアも打ち出されていた。これは,OPEN-Rアーキテクチャによって実現される「CPC」(Configurable Physical Component)という仕組みで,この仕様に従ったものであれば,例えば,AIBOの頭をサードパーティ製の“角突き頭”に交換することも可能だとされた。


このようにバラバラにできるのもAIBOの大きな特徴

 「AIBOは,ペットロボットと言われるが,本来はエンターテインメント指向のもの。やはり,ロボットなのだからガチャガチャ分解して,組み立てるという喜びがあったほうがいいと考えた」(花井氏)

 OPEN-Rのラインセンスビジネスを積極的に展開し,さまざまな頭や胴体,脚が登場すれば,それだけAIBOビジネスが活気付き,ソニーが標榜するエンターテインメントロボットというジャンルが確立される――そんな壮大なビジョンが描かれていた。

敷居の高いCPC

 ところが。現時点で,OPEN-Rアーキテクチャに沿った製品は,AIBO用コントロールソフトが3種類登場しているだけ。ソフトウェアとハードウェアのラインセンスは別になっているのだが,花井氏によれば,CPC実現のためにハードウェアの仕様をライセンス契約する企業は1社もいないという。「AIBOビジネスは割りにあわないと思われている」(同氏)のがその理由だ。

 花井氏によれば,「AIBOの脚を開発するために金型から起こした場合,億単位の投資が必要になる」。10万体程度しか流通していない製品に対する投資としては,桁外れの額だと受け止められても仕方ないだろう。実際,AIBO用のソフトウェア開発ですら,「採算度外視で,AIBOへの思い入れが強いから参加してくれている」という状況だ。

 当然,ソニー自体がAIBOのパーツを開発して,発売するという方法もある。だが,花井氏は「プライオリティからいうと,脚や頭といったパーツを提供するよりも,ラインアップ拡充のほうが高い。ダックスフンドのように太くて短い脚があっても面白いとは思うが,新しい形の脚を開発するには,ソニーにも同様に億単位の資金が必要になる」と説明する。

 決してAIBOのハードウェアラインセンス事業を諦めたわけではないが,花井氏は「プレイステーション2のようなビジネスモデルは参考になる。面白いソフトがあるから,ハードを買う。AIBOでもそうしたサイクルを実現したい」と語る。

 新型AIBOについて,花井氏は最後まで具体的なコメントを避けた。だが,「ダウンサイジングもありえる」とは示唆した。もしかしたら,低価格の普及用AIBO」が登場して,ようやくわれわれもAIBOの飼い主になれるかもしれない。

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[中村琢磨, ITmedia]

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