News 2002年3月8日 11:59 PM 更新

ウワサの“超音波ペン”を見てきました

専用の紙やボードを使わなくても,机上で書いた文字や絵の筆跡を正確にコンピュータに入力できる──富士通研究所が発表した“超音波ペン”の実力を確かめるため,同研究所の厚木ラボを訪ねて開発者に話を聞いた。

富士通研究所が3月5日に発表した超音波型電子ペン(超音波ペン)。紙にペンで書いた文字や絵をワイヤレスでPCに直接入力ができる──そう,この発想は,先日製品化に向けての発表があったアノト・ペンと同じだ。

紙にペンで書いた文字や絵をワイヤレスでPCに直接入力ができる超音波ペン

 ZDNetでは,神奈川県厚木市にある同研究所の厚木ラボを訪ね,超音波ペンの研究開発にあたった富士通研究所の計測制御システム研究部主任研究員,関口英紀氏に話を聞いた。


超音波ペンの研究開発にあたった富士通研究所の関口英紀氏

 アノト・ペンでは,ペン先に埋め込まれた超小型カメラが専用紙のドットを読み込むことで紙の位置やペンのスピード・方向を解析し,そのデータをBluetoothを使ってPCに送信していた。それに対して,今回富士通研究所が開発した電子ペンは,“空中超音波方式”を使っている,

 関口氏は,超音波ペンが紙の位置を正確に読み取る仕組みについて「超音波と赤外線の時間差を利用してペンの座標を認識している」と説明する。

 その仕組みはこうだ。まず,ペンから赤外線と超音波を同時に出す。これを小型受信機で受信するわけだが,赤外線は光の速さで到達するのに対して超音波は光よりも遅い音速で到達する。当然,両者には到達時間のズレが生じる。

 「カミナリを想像してもらいたい。ピカッと光ってからゴロゴロと音がするまでの時間差が大きければ大きいほど雷雲は遠くにある。小・中学校の理科で学習したカミナリの原理が応用されている。つまり,赤外線と超音波が到達する時間差を計算すれば,ペンと受信機との距離がわかる」(関口氏)。


赤外線と超音波が到達する時間差でペンと受信機との距離を読み取る

 ペンの距離がわかっても,それがどの方向からきているがわからないとペンの位置は把握できない。そこで超音波ペンでは,受信機側の超音波読み取りセンサーを少し距離おいた左右2カ所に設置。2点で計測した異なる距離が,三角法の原理で交わる場所にペンがあるというわけだ。この仕組みによって,アノト・ペンのように専用紙を使わずに,どんな紙でもペンの位置を正確に読み取ることができる。

 「インクペンで文字を書くのはユーザー側の確認のためなので,実際には紙にインクの文字がなくても入力はできる」(関口氏)。


受信機に読み取りセンサーを2カ所設置。ペン先の上部から超音波/赤外線を出す

 実は,超音波と赤外線を使って座標を認識させるというアイデア自体は20年以上前からあるもので,実際にこの原理を使ったホワイトボードが,文具メーカーなどから発売されている。「小中学校で習うような技術を応用しているだけで,原理自体は特許を取れるものではない」(関口氏)。

 ただ,超音波方式は,これまでホワイトボードなど大きなシステムでは使われてきたものの,ペンのようなコンパクトなシステムで正確な座標を検出するには不向きとされていた。しかし今回の超音波ペンは,超音波の検出に独自の技術を採用。同方式としては世界最小となる35(幅)×35(奥行き)×10(高さ)ミリの小型受信機を使って,+−0.2ミリの高い分解能を実現している。

 「独自の超音波検出方式は企業秘密なので詳しくは教えられないが,この技術によってA4の範囲を1ミリ以下の歪みで軌跡入力することができる」(関口氏)

 ペン本体にはバッテリーと赤外線/超音波モジュールを内蔵しているが,アノト・ペンのように小型カメラや画像処理プロセッサが必要ないこともあり,小型に仕上がっている。実際の超音波ペンを手にとってみると,普通のペンとほとんど変わらない大きさに驚く。


超音波ペン(上)と筆者が常用する普通のペン(下)

 試作機では電源に小型のボタン電池を利用していたが「製品では充電式にするかもしれない。ハードの仕様はユーザーの使いやすさも含めて検討中」とのことだ。

 使用時間は,バッテリ方式や容量,利用方法によって左右されるものの,試作機では通常の使用で1〜2カ月は持つようになっているという。

 「すでに技術的な課題はクリアしている」(関口氏)というこの超音波ペンは,富士通グループから,今年の秋ぐらいに製品として登場する予定。

 関口氏は「今回の超音波ペンは製品化を目指した研究ではあるものの,我々が直接これを商品として売るわけではない。製品時の価格や活用方法などは販売にあたる側が決めること」と前置きしながらも「製造コスト的には,ペンと受信機のセットでも1万円は切ることは十分可能」と言う。

 今回の超音波ペンだが,超音波と赤外線を利用するという仕様上,ペンと受信機との間には見通しが必要で,ペンの使用範囲もA4の紙のサイズの中という制約がある。このあたりは,Bluetoothという無線方式を使うことで,書くスタイルに自由度があるアノト・ペンのほうが使い勝手はよさそうだ。

 一方,特殊なドットが印刷された専用紙が必要なアノト・ペンとは違い,超音波ペンは紙を選ばない。ペンの大きさも,現時点では葉巻タバコよりもまだ太いアノト・ペンに比べて,試作機の段階ですでに普通のペンと同サイズの超音波ペンは,筆記具として違和感なく使える。

 奇しくも今年の年末にそれぞれ登場する両方式の電子ペン。果たして,ユーザーに受け入れられるのはどちらだろうか。TransNoteやDecrioのように,話題となっては消えていったペン書き入力デバイスと同じ運命をたどることだけは避けてほしいものだが……。

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[西坂真人, ITmedia]

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