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2002/03/20 23:59 更新


「“今までどおり”でできるなら、コピーしても問題ありません」――コピーコントロールCDの法的側面 (2/2)


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――例えば、ドライブメーカーやソフトメーカーがユーザーのことを考え、少しでも読めないメディアを読めるように努力し、“勝手に複製できるようになって”しまった場合は、どうなるのでしょうか?

田島氏:何らかの信号除去機能がついたドライブ付きのパソコンが公然と売り出され、それを利用すると勝手に保護手段の信号が除去されるということになると、客観的には保護手段の回避行為と評価されてしまう可能性が高いです。

 しかし、この場合でも、そのようなパソコンがごく普通に売られるようになると、ユーザーが回避行為と知らずに複製をしてしまう可能性が高く、その場合、複製権の侵害にならないわけです。もちろんユーザーが、こうすればドライブ側が対応できるということを知ってそれを利用すれば、複製権の侵害となります。

――つまり、ドライブ側がこうすると技術的保護手段を回避できると知って対応するということは……

田島氏:今回のコピーコントロールCDは、レッドブック規格外のようですが、例え規格外とはいえ、それをリッピングできたりコピーできるように対応することは、技術的保護手段回避を行うことを専らその機能とする装置を公衆に譲渡したものとして著作権法第120条の2第1号による処罰の対象になる可能性が高いということになります。

大きな問題がある「読めない場合」への対応

――エイベックスでは、基本的に再生できないケースでもユーザーに納得していただき、返品(返金)には、応じないという姿勢ですが、今回のケースでは、こういったことは可能なのでしょうか?

田島氏:パソコンについては、注意書きにしっかりと明記してあるので、パソコンで読めないというだけでは、返品(返金)することはできないでしょう。

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DAIとBOAのCDに張られていた「コピーコントロール付きCD」であることを示す注意書きシール。文面が多少変更されている。

 法律では、これを瑕疵(かし:法的に何らかの欠陥や欠点があること)というのですが、売買の目的物には取引界で通常要求される性能がなくてはなりません。特別にこういう機能がついている、これはついていない、という合意を交わした場合は、その点も加味されます。こうして目的物に備わるべき性能が欠けているとなると、それは瑕疵と評価されるのです。

 この点、今回のエイベックスの発売したコピーコントロールCDは、PCでの再生に支障を来す点は、特に製品上にも明記してあるので、問題はありません。つまり、PCで再生が行えないからという理由では、返品に応じる義務はないということです。

――では、一般的に販売されている音楽CDプレーヤで再生できない場合はどうでしょうか?

田島氏:これは、ユーザーから見た場合には、メーカー(エイベックス)に対しては製造物責任、レコード店に対しては販売側の責任(債務不履行)を問える可能性が高いです。

 契約関係からいうと、ユーザーは、レコード店から対象となるCDを購入するわけですから、レコード店との間で売買契約が成立することになります。このため、エイベックスと直接の契約関係にあるのはレコード店で、ユーザーは、エイベックスとは直接の契約関係はありません。

 そして、今回のケースでは、ユーザーから音楽CD専用プレーヤで再生できない場合、レコード店が、「返品(返金)」に応じる義務が出てくるでしょう。

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エンドユーザー、小売店とレコード会社の契約関係

――ユーザーは、レコード店と契約書を交わしたわけではないですが、それでも、そうなるのですか?

田島氏:そうです。というのも、契約は口頭でも成立し、契約書は契約の成立を示す証拠に過ぎません。しかも、実際に契約に基づく履行が完了しているわけです。

 そして、ユーザーは、自分が持っている再生専用機(音楽CDプレーヤ)で再生できるということを「前提」として購入していますし、販売側も同じで、再生できることを「前提」として販売しています。

 購入したものが、自分の機器で再生できないということは、売買の目的物として前提とされる性能を有していないということになり、「債務不履行」にあたります。つまり、レコード店としては、返品に応じる義務が出てくるというわけです。

――一部のレコード店などでは、「再生できないケースがあります、それでも購入しますか?」と購入者に質問してから販売しているようですが、その場合はどうでしょうか?

田島氏:説明した内容にもよるのですが、それだけで、返品に応じないということはできない可能性が高いでしょう。というのも、こういったものを再生できないということについて、「自己判断」できるだけの情報を伝える必要があるからです。

 例えば、ケースをいくつか準備してやるとか、具体的に再生できない機器または確実に再生できる機器を購入者に必ず伝えたうえで、購入するかどうかを判断させる必要があります。

――要するに曖昧な判断材料を提示しているだけでは、お店としては、返品に応じないということはできないわけですね。では、返金に応じないための前提条件とはどんなものなのでしょうか?

田島氏:ごく普通に販売されている機械ではすべて再生できることで、再生できるプレーヤは多ければ多いほどよいです。そして、次なるステップがあります。それは、先ほどもでましたが、「動作確認リスト」です。

 つまり、どれなら読めるんですということを書いておいて、それを確実にユーザーに伝えるしかありません。

――エイベックスでは、今回のCDについては、一応ホームページに掲載されているのですが、それではどうでしょうか?

田島氏:ホームページでは、“あまい”としかいえません。CDジャケットのわかるところに表記しておくことやお店で再生確認リストを準備しておき、それを購入者に提示するなどの必要があります。店頭でCDを購入するに当たり、事前にホームページを見るよう求めるのは、一般のユーザーには酷な話です。

 今回のケースでは、「通常のCDプレーヤで再生できます」とだけしており、製品表示としては、どの音楽CDプレーヤでも再生できるようにみえます。

 つまり、売買当事者間の共通認識は、音楽CDプレーヤで再生できることであって、再生できない場合は「瑕疵」であるということになります。イコールすると再生できない場合は、「債務不履行」ということです。

――ですが、現実問題としては、レコード店が、そこまではできないと思います。今回の話だと、エイベックス側は、返品に応じないということなので、それだと、レコード店は、損ばかりするのではないのでしょうか?

田島氏:そうですね。だから、レコード店は、今度は、エイベックス側に「債務不履行」の責任を問うことができるわけです。

 ですが、レコード店としては、返品に応じた場合、どのユーザーが、どの機器で読み出しを行えなかったかという点までを把握しておく必要があります。仮に債務不履行責任を追及して訴訟になる場合、不履行の事実それ自体は債権者側に立証責任がありますから、レコード店としては実際に再生できなかった事実についての何らかの証拠が必要になるのです。

 おそらく、販売する場合に、どこまで説明して誰が買ったかなどいうことを控えておくことはできないでしょうし、実際に返品を受け付けるときにユーザーがどのような機器を持っているかもわかりません。確実に確認することもできないでしょう。

 しかし、そこまでできないと、裁判では、勝てない可能性が高いとしかいえません。 

――ということは、エイベックスが、製造者として、もっとしっかりしなければいけないということですね

田島氏:そうということになりますね

――ちなみにCDを読めない人が大量にいる場合はどうなるのでしょうか?

田島氏:やはり、回収すべきだと思います。

――こうやって話を伺うと、今回のコピーコントロール付きCDは、事実上それほど効果も無なかったため、ユーザーやレコード店を混乱させただけとしか考えられないといっても言い過ぎではないのかもしれませんね。

 そういう意味では、製造者として、エイベックスは、事前にレコード店などにきちんとした説明をもっと行っておく必要もあったでしょうし、ユーザーに対しても同様だと思いますが……。

田島氏:そうですね。エイベックスの落ち度も確かにあると思います。コピーコントロールの技術の不十分さそれ自体も、初期段階としてやむを得ないところがあるでしょう。

 ただし、音楽CD再生機ですら再生できない場合は、音楽CDとして通常要求される性能すら有さないのですから、ユーザーは売主であるCD店に対しては債務不履行責任、メーカーに対しては不法行為責任・製造物責任などに基づき損害賠償請求などを行えることになるでしょう。

 あるべきコピーコントロールとは、どの音楽CD再生機でも支障なく再生できて、かつパソコンなどでのコピーに制限をかけられるものです。そういう意味では、これが「第一歩」なのだと思います。今後、これがどんどん洗練されていって、きちんと音楽CDとしての部分とコピーコントロール機能の両方が、うまく融合できることを期待したいと思います。

 もちろん、もっと多くのユーザーが、著作権法のみならず、法律というものを理解するように私たちも努力する必要があるのではと思っています。

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[北川達也,ITmedia]

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