News 2002年12月13日 11:59 PM 更新

“ヒューマノイド”ビジネスの可能性――ロボットベンチャー「ZMP」に聞く

ヒューマノイド型ロボットの商業化にいち早く取り組み、ビジネスとして成功させている「ZMP」。同社に、ビジネスとしてのヒューマノイドの可能性を聞いた

 2002年も昨年と同様に、ロボットが業界を賑わした1年となった。中でも、2足歩行ができる人間型ロボット“ヒューマノイド”の進化がめざましい。アトム誕生の年となる2003年は、ロボットがビジネスとして本格的に立ち上がるのではとの期待も大きい。

 そんな中、ヒューマノイド型ロボットの商業化にいち早く取り組み、ビジネスとして成功させている企業がある――。PINOを中心としたビジネスを展開するロボットベンチャー「ZMP」だ。社長の谷口恒氏と営業部長の比嘉勝孝氏に、ビジネスとしてのヒューマノイドの可能性を聞いた。


ZMP社長の谷口恒氏(左)と営業部長の比嘉勝孝氏(右)

 ZMPは、科学技術振興事業団「北野共生システムプロジェクト」の研究成果物(ロボット)を技術移転し、商業化していくことを目指した企業で、2001年1月30日に設立された。2001年の売り上げが5800万円となるなど、設立初年度から黒字化を達成。2002年度は売り上げも昨年比倍増の1億2000万円となる見込みで、2年連続の黒字化となるなど順調にロボットビジネスを軌道に乗せている。

 「売り上げの内訳は、レンタルと販売がそれぞれ30%、ライセンスビジネスが40%という構成。レンタルでは、各種イベントなどでの引き合いも多く、また『ロボット=最先端』のイメージから企業のPRに使われるケースも増えている。ライセンス関係では、ツクダオリジナルのPINO玩具などが好調」(比嘉氏)。

 販売面では、研究機関向けにPINOを400万円前後で少量販売してきた同社だが、このほどローランド ディー.ジー.とPINO生産のアライアンスを結び、12月からは月間数十台レベルの生産を行えるようになった。

 「今までは“秘密のアジト”でコツコツと手作りしてきた。工場での量産体制が整ったことで、今後は安定した供給ができるようになる」(比嘉氏)。


研究機関向けに販売しているPINO

 さらに11月からは、PINOの部品販売を実施。同社はNECと共同で、組み込み用64ビットRISC「VR5500」を使ったヒューマノイド用CPUモジュールを開発しているほか、村田製作所や日本電産コパル電子など部品メーカーとのアライアンスを通じて、ロボット部品の開発に力を入れている。

 さらに同社が注目しているのが“教育分野でのロボットの利用”だ。

 「一般ユーザー向けはマーケティング戦略が難しく、出してみないと分からないようなところがあるが、教育分野は目的やユーザーがある程度しぼられているほか、PINOのオープン性も評価されやすい土壌がある。実際に教育現場では、数百万円の予算を投じてアームロボットなど産業用タイプを教材として購入し、情報関係や機構の勉強に活用しているケースは多い」(比嘉氏)。

 最近の学生はアームロボットなどには興味を示さないことが多いため「PINOのようなヒューマノイドなら学生も関心を示すのではと、教育関係者も注目している」(比嘉氏)とか。実際に、東京都内の高校で、2003年度にPINOの導入を検討しているところがあるという。

 また同社は、イーケイジャパンなど3社と共同で「ロボット教育コンソーシアム」を今年7月に設立。ロボット製作を通じて、科学技術について子どもたちが体験的に学べることを目指した取り組みも始めている。

いよいよ“アトム誕生”となるか

 さて、“アトム”が生まれる日がいよいよ近づいている。2003年4月7日の「鉄腕アトム」誕生日には、“何かやりたい”と明言しているソニーをはじめ、ASIMOの本田技研工業、HRP-2の川田工業、そしてバンダイなど玩具メーカーも何か用意しているといわれている。

 PINOを中心とした取り組みで、ロボットビジネスという新分野でのパイオニアとなった同社だが、今後の展開はどのように考えているのだろうか。

 「2002年度はPINOを中心にやってきたが、2003年度はmorphをメインにしたビジネス展開を考えている」(谷口氏)。


最新のmorph 3

 最新のmorph 3は、現在、北野共生システムプロジェクトで研究が進められている。身長はPINOが約70センチほどと幼児の背たけくらいだったのに対して、morph 3は38センチとPINOの半分程度になっている。

 ただし、同社が“アスリートロボット”と呼ぶように、morph 3は非常に高い運動性能が特徴。「歩行をはじめ各種動作がPINOに比べて非常に俊敏で、前転・後転・受け身といった動作も可能。将来的には“アスリート”の名にふさわしく、走るところまで狙っている」(谷口氏)。

 PINOが研究目的向けだったのに対して、morph 3は一般市場への展開が計画されている。ただし、ここで問題となるのは、その価格だ。

 「morph 3の運動性能を生かして商品化すると、PINOと同じぐらいの価格(約400万円)になってしまう。さらに運動機能だけでなく、画像/音声認識やゲーム性の付加、PL法に関する対策、アフターフォローなどを含めると、PINOよりも高いモノになってしまう。しかし、あまり高価だと一般ユーザーが本当に買うのだろうかという疑問もある」(谷口氏)。

 現在同社では、価格を200万−300万円程度に抑えたmorph 3ベースの“スポーツロボット”を検討しているという。「来年の早い時期になんらかの発表をしていく。また、PINOの進化バージョンも検討している」(谷口氏)。

ヒューマノイドはフラッグシップ

 2003年度には4億円、2004年度には8億円の売り上げを目指している同社。谷口氏は「ヒューマノイドは当社のフラッグシップ」と語る。

 「ヒューマノイドの開発には、多くの研究や高度な技術が必要となる。そしてその成果は、他の事業やビジネスに転用できる。われわれは、その開発の過程で作り出されたモジュールなど派生したものをビジネスにしていく。もしかしたら、モジュール販売がメインとなり、部品メーカーのようになってしまうかもしれない。ただ、われわれはあくまでもヒューマノイド開発企業でありたい。最先端のヒューマノイドを開発していくとこによって、はじめて新しいプロダクトが生まれるからだ。“一家に1台のヒューマノイド”という夢の実現を目指していく」(谷口氏)。

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▼ ZMP
▼ PINO World.com

[西坂真人, ITmedia]

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