News | 2003年4月17日 00:57 AM 更新 |
モバイル機器向けの次世代電源として小型燃料電池(マイクロFC)が注目を集めている。4月16日から幕張メッセで開催されている「TECHNO FRONTIRE SYMPOSIUM 2003」のセッションでは、野村総合研究所コンサルティング部門副主任研究員の風間智英氏から、携帯機器用マイクロFCの最新動向が語られた。
マイクロFCでは、水素を燃料とする「固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)」と、メタノールを使う「直接形メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)」が有望視されている。いずれも、動作温度が低いため小型化が可能な燃料電池だ。
ボンベや水素貯蔵合金を用いて水素を直接使う「直接水素式PEFC」は独Fraunhofer-Instituteや本田技研工業、ソニーなどが開発を進めており、メタノールなどアルコールを改質して水素を生成して使う「改質式PEFC」はカシオ計算機が昨年3月に開発を表明している。
「ただし、PEFCは水素の取り扱いや供給方法など課題が多く、早期実用化は困難といわれている。そこで近年では、入手しやすく取り扱いも簡単なメタノールを使ったDMFCが、商品化に一番近い小型燃料電池として注目されている」(風間氏)。
DMFCの開発には、国内では東芝、NEC、日立製作所といった大手電機メーカーが名乗りを上げているが、海外ではSamsungやMotorola以外はベンチャー企業が多い。
「国内の大手電機メーカーではPCやPDA向けといった機器組み込みタイプだが、海外ベンチャー組は燃料電池を充電器に使うケースが多い。大手メーカーは燃料電池を自社製品の差別化を図るものとしているため、開発が困難な機器組み込みで勝負するが、海外ベンチャーは早期の事業化を狙って、開発が簡単な充電器用途で着手しているのだ」(風間氏)。
“まずはノートPCに燃料電池”はなぜ?
機器組み込みタイプを開発する国内大手電機メーカーのほとんどが、燃料電池をまず最初に搭載するアプリケーションとしてノートPCを選んでいる。だが風間氏は、ノートPCが果たして燃料電池の最適アプリケーションなのだろうかと疑問を投げかける。
アプリケーション | 商品化時期 | 開発拠点 | |
日立製作所 | ノートPC | 2005年初頭 | 日立研究所(茨城県日立市) |
ソニー | ― | ― | マテリアル研究所(神奈川県横浜市) |
NEC | ノートPC(携帯電話) | 2004年内(2005年度) | 基礎研究所(茨城県つくば市) |
東芝 | ノートPC | 2004年内 | 研究開発センター(神奈川県川崎市) |
カシオ計算機 | ノートPC | 2004年度 | 要素技術統括部(東京都青梅市) |
「確かにノートPCへの燃料電池のニーズはあるだろうが、AC電源のない場所で長時間使用する一部のモバイル用途向けぐらい。ランニングコストや効率面でも、現時点でリチウムイオン充電池とは勝負にならない。出力密度もリチウムイオンに比べて1ケタ違う。これではリチウムイオンの代替とはなりえない。現在の2次電池をすべて置き換えるのは、コスト面や技術的課題がクリアされる遠い将来のこと」(風間氏)。
逆に予備バッテリのニーズの高さで考えると、ノートPCよりもむしろDVカメラやデジタルカメラの方が燃料電池の需要があると風間氏は述べる。
「DVカメラやデジカメでは、標準バッテリのほかに予備バッテリを購入するなどして、機器1台当たり2.5個以上のバッテリが販売されている。一方、ノートPCやPDA、携帯電話などは、1.5個未満しか販売されていない。長時間駆動というニーズでは、燃料電池の需要が見込まれるのはノートPCではなくDVカメラやデジカメなのだ」(風間氏)。
では、なぜ各社は最初のアプリケーションとしてノートPCを選んだのだろうか。
「一番大きなポイントは“使用環境の違い”。contamination(異物混入)や低温時の凍結といった信頼性に関する問題は、屋外で使う機器ほど重要となる。DVカメラ/デジカメ/PDA/携帯電話は屋外で使うケースが多いため、信頼性への要求度が厳しい。一方、ノートPCは使用環境がほぼ屋内に限定されているため、信頼性に対するハードルがモバイル機器の中では比較的低い。“ノートPCへの燃料電池搭載”は、商品化に一番近いコースだったのだろう」(風間氏)。
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[西坂真人, ITmedia]
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