News:アンカーデスク | 2003年5月26日 08:53 AM 更新 |
1セグでどのぐらいのクオリティなのかまだ知る術がないが、現状よりも劣るのであれば、オーディオコンテンツとしてデジタル化するメリットはない。将来的にはおそらく3セグの高音質放送がデフォルトになっていくのではないかと思われる。
既存のAM・FM放送は、デジタル放送全国ネット目標の2011年以降も現状のまま存続する予定なので、現状の放送をそのまま高音質デジタル放送に持ち込むだけでも十分メリットはある。
現実的なデータ放送
もう一つのメリットは、データ放送の活用モデルが想像しやすいということだ。多くの人がラジオと聞いて連想するのは、移動中に利用、というシーンだろう。
例えばイメージしやすいように、なんらかのポータブルなデジタルラジオ受信装置があるとしよう。これを使えば、電車に乗っているときにデジタルラジオで高音質の放送を聞きながら、同時に液晶画面でデータ放送のニュースを読む、といったことができる。あるいは野球中継を聞きながら、画面ではいつでもスコアボードにアクセスできる、といったことも可能だ。
これがデジタルラジオ専用機だったら大して面白みがないが、この機能がケータイに組み込まれたらどうだろう。あるいは今使っているPDAに受信ユニットを刺すだけでセットアップできるとしたら。これは結構楽しそうだ。特に最近元気がないPDAでは、新たなキラーコンテンツとなりそうな予感さえする。
ただしケータイの方はまだ先が長いかもしれない。放送を受信するのは無料だが、キャリア側としては自分ところの端末を利用するのであれば、当然何らかの形で課金したいはずだ。この問題が決着するのは、結局テレビの1セグ放送のタイミングということになるだろう。
デジタルラジオを車で利用することを考えると、データ放送で文字のニュースを読んでたら危ないじゃないか、というご指摘もあろう。
そういう用途のために、NHKではデータ放送のニュースを読み上げるための高音質音声合成の開発もスタートさせている。実際にこの読み上げをデモ機で聞いてみたところ、なんとなく人間が喋っているんじゃないなとは感じるものの、滑舌はかなりなめらかだ。一昔前の電子音のような喋りとは隔世の感がある出来まで漕ぎ着けてきている。
この技術は、音声を電子的に(古いな表現が)合成するのではない。本物のアナウンサーがニュース番組の中で読み上げた音声を録音し、それを単語や短文に区切ってデータベース化しておく。読み上げ時にはそこから単語や短文を検索して連結し、それに適度な抑揚表現を加味することで、より自然な発声を目指すと言う。
早い話がシンセサイザーにしゃべらすのはやめて、サンプラーの化け物に喋らせようというわけだ。ちなみに2002年度の研究でサンプリング対象となったのは、森田美由紀アナウンサーだそうである。
同アナウンサーのファン人口がどのぐらいかは知らないが、一日中お気に入りのアナウンサーにしゃべってもらって“聞き倒す”という新しいヨロコビが生まれるかもしれない。
デジタル放送の実験場
そしてもう一つ、厳密にはメリットとは言えないかもしれないが、注目しておくべきポイントがある。デジタルラジオでも1セグ放送で、簡易動画をやろうという計画だ。
1セグで携帯端末用の簡易動画というのは、デジタルテレビ放送の隠れた目玉なわけだが、現状はMPEG-4のライセンスやら映像著作権やらで、そうそうすぐに実現は難しいと言われている。
それに変わってラジオの簡易動画は、元々テレビ用のコンテンツをそのまま流すものではない。本放送であるラジオコンテンツに即したものを、新たに作るわけである。と言っても大げさなものではなく、最初はDJの顔が見えるとかいったレベルからのスタートだろう。
動画コンテンツを新たに作れば、それは本放送と同じ映像著作権で処理できるので、そっちの問題は少ない。MPEG-4ライセンスだけはどうしようもないが、現在、放送に限ってライセンス免除にならないか、交渉中であるという。これがうまくいけばいいが、交渉が頓挫した場合にはH.263やH.323のようなHシリーズへ逃げることも当然考えているはずだ。
いずれにしても、デジタルラジオの1セグで決定したフォーマットがデジタルテレビの1セグにそのまま採用される可能性は、かなり高い。デジタルラジオは、デジタルテレビ1セグ放送の前哨戦的意味合いもあるわけだ。
こうしたことを考えると、デジタルラジオ放送は単に楽しいだけでなく、デジタル化の可能性や、収支モデルの構築が実際のフィールドで実験できる場なのである。いずれにしてもこの動きには注目しておいた方がいい、と感じないだろうか。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
[小寺信良, ITmedia]
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