News:アンカーデスク | 2003年6月9日 08:06 AM 更新 |
とはいっても、普通のユーザーにはASIO対応デバイスなどほとんど馴染みがないものだ。ASIOに対応した身近な製品としては、Creativeの「Sound Blaster Audigy2」がある。これが最も安価な製品だろう。
一方、SMSではEDIROLのUSBオーディオインタフェース「UA-5」を推奨機器としているが、これは3万2800円とやや高い。UA-5は本来マイクやギターのようなアナログ楽器をデジタルレコーディングする音楽制作用のデバイスなので、楽器を入力したいと思わない人にとっては若干オーバースペックだ。
「もちろんソニーでも、手頃なASIO対応デバイスはぜひやりたいと思っています。これもSMSが世に出たことで、世の中がいい音に関して盛り上がってくれば、社内でも話が通りやすくなります」(宮崎氏)
PCを超えていくPC
お話を伺っていると、ソニー社内でもSMSに対してはかなり実験的な見方をされているようだ。セールス方面から見れば、こんなマニアックなものにユーザーがついてくるのか、という疑問は当然あるだろう。
「今の若い人って、2万円ぐらいのCDウォークマン買って、あと10年ぐらいずっとそのままっていう人も結構いると思うんですよ。どうもユーザー全体の音の喫水線が下がってきちゃって、いい音があったことを知らない世代が増えてきてるんじゃないかと。これからCDでもMP3でもアナログでもどこに向かってもいいんですが、SMSをきっかけにもっといい音があるんだということで、全体的に目線が上がればいいんじゃないかと思ってるんです」(宮崎氏)
そもそもSMSの発端は、今のデジタルミュージックは音が悪い、というところからスタートしている。CDのスペックは、その誕生の時代からすればまあそんなもんだろうとは思うのだが、それ以降CDが原音ということになって、圧縮音楽が幅を利かせるようになってしまった。そしてその罪の一端は、MDをこんなに流行らせてしまったソニー自身にもある。
それを今からでもなんとかしよう、というSMSのようなプロジェクトは、それがどのぐらい報われるのかも含めて、是非応援していきたい動きである。
「90年代のバイオというのは、AV機器に追いつけ追いつけでやってきたんですが、2000年ぐらいを境にして本当に追いついちゃったんです。ですからこれからはコンシューマー機器を超える世界を提案していくことが重要になると思っています」(宮崎氏)
そこでネックになるのは、Wintel体制のアーキテクチャーだ。先週の「VAIO Media」にしても、サウンドの24bit/96kHzにしても、MicrosoftやIntelが規格を決めるまで待っていては、新提案にならない。他のPCよりもいいものが欲しい、と思っているユーザーのニーズに応えるには、メーカーは独自開発の部分をいかに増やせるかが差別化のキモとなっている。
このあたりの技術を、バイオでは同社が持つプロ機部門に求めていくのではないか、というのがSMSを見た感想、というよりも期待だ。
元々多くの人がバイオを買う理由は、ソニーだからビデオやオーディオに強いだろうという「読み」だ。その根幹は、ソニーには両方のプロ部門があり、その技術がバイオに組み込まれているのでは、という期待感にある。
しかし現実には、コンシューマー機部門とはチューナーの設計などで技術的な交流はあったが、プロ部門とのつながりを具体的な形で見せたのは、SMSがまだ最初の例だ。今後、プロの技術がバイオを通じて体験できるというルートが確立されるならば、いろいろな方面のマニアが興味を持つことだろう。
かく言う筆者も、このSMSの技術にはかなり興味を持っている。バイオが本当にスゴいことになるのは、これからだ。ということで、この話は次週に続くのである。(ええっ!)
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
[小寺信良, ITmedia]
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