News:アンカーデスク | 2003年9月8日 02:53 AM 更新 |
斬新なアイデアで新たな市場を開拓するのが得意なソニーだが、その半面、堅調な市場での勝負に弱いという体質がある。現状は、それが計らずも露見したかっこうだ。つまり、市場が支持したのは、結局は“VHSのリプレース”だったのである。
日本能率協会総合研究所が8月に発表した消費者調査の結果によると、DVD&HDDレコーダの購入メーカーの順位は、1位:松下、2位:パイオニア、3位:東芝の順となっている。それぞれの率からすると、まさにレコーダー業界3強と言っていい。
もっともコクーンシリーズはDVD非搭載モデルが多いので、今回の調査対象から外れているという意見もあるだろう。しかし逆に考えれば、世間的には「DVDで残せないものは調査の対象ですらない」とも言える。
さらにこの調査では、購入したいメーカーの第1位が「ソニー」であることも示している。これだけの期待感がありながら、それに応えるタマ(製品)がない。あきらかにコクーンは、舵取りを間違えた。
ソニーはDVDが嫌いなのか?
そうまでソニーがDVDというメディアに対して消極的なのは、なんだか奇異な感じがする。その理由は想像するしかないのだが、おそらく自分のところでパテントを握っていないメディア、すなわちDVD-R/RW/RAMに対する不満もあるだろう。さらに自分たちの陣営とも言えるDVD+R/RWが、AV市場でまったく競争力を持たないという点も大きいはずだ。
そう考えると今年春、Blu-ray Discレコーダー「BDZ-S77」で、規格策定が完了していなかったにも関わらず、世界一番乗り発売したというアクションも分かりやすい。DVDレコーダーは負けたが、その次の市場は譲れないという決意の表われでもあり、平たく言えばツバ付けたってことなのである(関連記事:ソニー、Blu-ray Discレコーダのすべてを語る。
ソニーという会社は、失敗から学ぶことができる企業である(しつこいですか、すいません)。
もちろんコクーンも、このまま負けっぱなしで捨てておくわけにもいかない。今度の新モデル「CSV-EX11」では、好評だった初代機のフォルムを継承しつつ、DVD方向への軌道修正が行なわれている。DVD作成は「バイオ」でやってね、というルートだ。
これを同社製品同士の相互売り上げを狙った戦略、と取るのは当然だ。だが、残念ながら、家電市場に対するテコ入れが、バイオの力のみで可能であるとは思えない。市場規模が違いすぎるし、それに輪をかけてPC市場のシュリンクは既に始まっているのだ。それゆえ、筆者は冒頭のように“焦り”を感じたのである。
だが、もちろん、ソニーとて、それが分からないはずがない。これには、コクーンとバイオの両者を一気に救う、「隠し玉」がなにかあると見るべきだろう。そこで浮上するのが、先週の「Dellとソニー、Media Center PC市場に参戦へ」(9月5日の記事参照)という記事である。
バイオブランドのMedia Center PCが有り得るのかは別として、少なくとも同社は自社製DVD作成ソフト「Click to DVD」が動けばOK、という環境を構築しつつある。
すべてが一体化するのか、すべてがネットワークでつながるのか。それは現時点では筆者には分からない。だがいずれにしてもソニーには、「DVD3強」が持っていないデスクトップPC製品のノウハウがある。
「新市場開拓」という同社得意の土俵で、年末に向けてきっと勝負をかけてくる――と期待するのは、いささか買いかぶり過ぎだろうか。
[小寺信良, ITmedia]
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