News:アンカーデスク | 2003年10月20日 11:13 AM 更新 |
意外にも発明者本人は、マウスがマウスのままであり続けることがご不満のようである。氏が開発中であるという両手を使うインプットデバイスは、特定のタスクや、緊急を要する作業を行なうプロフェッショナルの間では受け入れられるかもしれない。だがそれは、あくまでも専用コントローラという扱いになってしまうのではないだろうか。汎用的な使い方をする場合は、シンプルでツブシの利くデバイスのほうが安心できる。
マウスの形状を残しながら大胆に進化した形を提唱したのは、PCデバイスメーカーではなく、事務用品メーカーであったことはおもしろい。コクヨが今月発売する「ザ・フィットマウス<手の匠>」は、マウスっぽいヘッド部を、ジョイスティックのように立たせた形状となっている。底部はかなり広く、手首ごと乗せるような設計となっている。
機会があれば是非使ってみたいものが、このマウス、案外細かい動作は苦手なのではないかとも思える。というのもマウスでの細かい動きというのは、手首を接地したまま指先の握りでマウスをずらすようなアクションだからだ。それが手首ごと乗っけるこのマウスで可能なのか。
もう相当前になるが、工業デザイナーとして著名なルイジ・コラーニ氏デザインのマウス、「コラニマウス」を買ったことがある。このマウスは、貝殻を思わせるなめらかな曲線だけで構成されており、確かに手のひらにはピッタリフィットするのだが、なにせ大きくて手首が机に付かなかった。そしてこれが使っているとものすごく疲れるのである。フィールドワークからの改良を得意とする事務機のコクヨなら、こんな前車の轍を踏まないだろうと期待しているのだが……。心配は他にもあって、これだけ広い底面を持つと、持ち上げるときにピッタリ机にくっついちゃうんじゃないかと不安だ。(やっぱり買う気かよ)
道具は進化か固定か
個人的な好みの話で恐縮だが、筆者がマウスを選ぶときのポイントは、手のひらに対するフィット感である。自然な形で握れるかどうかを突き詰めていくと、オーガニックな形に行き着く。筆者もモノカキを行なうときは、オーガニックな形状のものを好んで使う。
だがあまりオーガニックな形は、テキストの範囲選択やメニュー操作といった大きなアクションでは楽だが、指先の繊細な動きが必要とされる動作にはあまり向いてないような気がする。フォトレタッチや3DCGを作ったりするときは、案外シンメトリックで四角いタイプのマウスの方が作業しやすいと思うのだが、どうだろうか。
マウスの操作というのは、物理的に見れば、物体を滑らせて移動させる行為である。例えば物体を2ミリ平行に左に動かすことを考えれば、ナスや貝殻みたいな不定形の物を2ミリ動かすよりも、シンメトリックな立方体を2ミリ動かす方が、われわれの指先には理解しやすい。
おそらくマウスというのは、「道具感」が非常に高いデバイスなのだろう。オーソドックスな道具というのは、オーガニックな形ではなく案外ストレートなものなのではないだろうか。例えば「はし」が発明されてどれぐらいだろう。おそらく数千年を経過していると思われるが、こんなに時間が経っても、未だにただの棒2本である。筆にしても鉛筆にしても、改良しようと思えばいくらでもオーガニックな形に出来ただろう。だが、曲がったはしではメシは食えない。
このことは、「真っ直ぐであること」が、細かい指先の動きを正確に先端部に伝えるための構造であり、また脳がもっとも理解しやすい形であることを、われわれに伝えている。そういう意味では、マウスは直線的な形状が良しとするのも、また一つの考え方だと思う。
パソコンを始めたばかりのシニア最大の難関は、マウスのダブルクリックだという。マウスの位置を固定したまま、指先だけでボタンを2回押せないのである。このような課題を残しているようでは、いかにシンプルなマウスであろうとも、さらなる改良の余地はあるだろうし、同時にOS側のインタフェースとしてダブルクリックという動作が果たして良いものなのか、まだまだ考えるべきことは少なくないだろう。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
[小寺信良, ITmedia]
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