なぜ、ソフトバンクは日本テレコムを買収したのか
通信業界に衝撃を与える、大型の企業買収が発表された。既報のとおり、ソフトバンクは5月27日に日本テレコムの買収を発表した。買収価格は約3400億円。米Ripplewood Holdingsを含む計6社から、日本テレコムの発行済株式約1億4400万株(100%)を取得する。
ソフトバンクは、1433億円の普通株式を買い取るほか、純有利子負債1640億円(2004年6月4日見込み)を肩代わりする。ほかに優先株が325億円あり、これらを総合すると3400億円という買収額になる。
なお、1433億円のうち4分の3程度は現金で支払われるが、残り4分の1にあたる約380億円はソフトバンクの新株予約権を付与するかたちになる。「(Ripplewoodが)ソフトバンクを、より長期的なパートナーとして支援したいといってくれた。ぜひよろしくお願いしたい」(ソフトバンクの孫正義社長)。
仮にこの新株予約権を全額行使したとすると、Ripplewoodの出資比率は2-3%程度になる。Ripplewood側からソフトバンクに役員を送り込むような合意は「ない」(孫氏)という。
買収後は、持ち株会社であるソフトバンクの下にソフトバンクBBと日本テレコムが同列に並ぶかたちとなる。日本テレコムの倉重英樹社長は留任し、同氏を中心としたマネジメントチームが引き続き運営を任されることになる。
日本テレコム買収のインパクト
買収により、ソフトバンクは「連結売上高が1兆円規模、提供回線数は約1000万」(同社)の通信事業者になる。
日本テレコムは、固定電話の音声通話も収益源として持つが、どちらかといえば企業向けデータ通信サービスに強みを持つ企業。600人を超える法人営業人員を持ち、大手企業を中心とした法人顧客を持つ。その数は約17万社とされている。
ソフトバンクはYahoo!BB事業でこれまで主にコンシューマー向けサービスを提供してきたが、「次の段階へと進歩し、これからは法人マーケットも一気にジャンルとして追い求めていくということになる」(孫氏)。日本テレコムとソフトバンクBBは、補完関係を築くことになる。
両社のネットワークも統合される。日本テレコムは、全国1万2000キロの光ファイバーネットワークを保有している。これとソフトバンクの光ファイバーバックボーンを接続することで、「より二重化(冗長化)された信頼性の持てるネットワークが構築できる」(孫氏)。
なぜ、3400億円を出したのか?
今回の買収で、ソフトバンクは大きく事業領域・事業規模を拡大することになる。しかし、リップルウッドが2613億円で買収した(2003年8月21日の記事参照)企業に、「短期間で金額を上乗せして」(孫社長)まで買う価値は、どこにあったのだろうか。
この疑問の1つの答えになるのが、孫社長が会場で何度か繰り返した“日本テレコムのブランド”という言葉だ。
もともと、ソフトバンクの事業領域はコンシューマー市場のみに限られていたわけではない。ソフトバンクBBの100%子会社であるアイ・ピー・レボルーションは企業向けのブロードバンドサービスを提供していたし、中小企業向けの「Yahoo!BB SOHO」というサービスもある。
しかし、その規模は「まだまだ満足いくレベルではなかった」(孫氏)。低価格を提示すればサービスを乗り換えてくれるコンシューマーと異なり、企業では大企業になればなるほど、そのネットワークはミッションクリティカルになる。必然的に、実績がある通信事業者にサービスを任せざるをえない。
この点、ソフトバンクグループはまだ歴史も浅く、先日の情報漏えいなどもあって印象が悪い。孫氏は、「最大の弱点であるとは素直に認識していた」と話す。
日本テレコムなら十分な信頼の積み上げがあり、顧客もついている。孫社長が今回の買収で「(実績を積み上げるために要する)時間を買った」という表現は、上記を端的に現したものだ。
さらに孫社長は、日本テレコム買収の意義を2つ挙げる。
1つは、ODNのISP会員の存在だ。日本テレコムのADSL事業は既にイー・アクセスが買収済みだが(2002年5月28日の記事参照)、ナローバンドユーザーなら約160万人が残っている。
知ってのとおり、ソフトバンクはYahoo!BBの会員増に毎月数十億円の“顧客獲得コスト”をつぎ込んでいる。ODNブランドは当面併存させる方針だが、仮にこれほどの苦労をせずにODNユーザーをYahoo!BBに移行できれば、ソフトバンクのうまみは大きい。「営業費の削減で考えれば、数百億円の価値がある」。
もう一つは、先ほども触れられた通信インフラの統合効果だ。孫氏は、現在Yahoo!BBは映像視聴などを積極的に行う“トラフィックの多いユーザー”を抱えており、「常時接続でパンパンになるくらい」(同氏)の回線負担を抱えているという。
ネットワークを増強するにあたり、日本テレコムの網を追加すればおのずとネットワークキャパシティは増える。孫氏は事業を拡大する上で、余分なお金を使わずに済むという。
上記の3つの内容を数値に落とし込むと、以下のようになる。
日本テレコムは、EBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)ベースで年間850億円の黒字を出している。これが企業向けサービスを追加することの意味。ODNユーザーをスムーズにYahoo!BBに移行でき、ネットワーク投資を抑えられることを考えると、さらに500億円のコスト削減につながるため、ソフトバンクは“年間1350億円”のメリットを得る。
「3年分で考えれば、はるかに買収価格を超える。その間にブロードバンドのマーケットがなくなることはない。逆に、広がっていくマーケットだ」
これによって、買収額は十分見合うと強調した。
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