「ネットに匿名性は不可欠」――総務省
「ネットの匿名性を排除すべき、とは言っていないのだが」――総務省情報通信政策課の内藤茂雄課長補佐は、一部報道をきっかけにブログ界で盛り上がった「政府がネット利用の実名化を推進しようとしている」という議論に頭を抱えた。
報道は、共同通信が6月27日付けで配信した「実名でのネット活用促す 総務省『悪の温床』化防止」。「有害情報の温床」ともいわれるインターネットを健全に利用するために、総務省が匿名性を排除して実名利用を促す取り組みに乗り出すとし、匿名性が低いブログやソーシャルネットワーキングサイト(SNS)を小中学校の教育で活用するよう求めていく──と伝えた。
「報道は、誤りではない」と内藤補佐は話す。ただ、実名性の向上と匿名性の排除をイコール視し、総務省がネットの匿名を排除しようとしているととらえられていることに驚いたという。
「研究会の構成員全員が、ネットに匿名性は不可欠と思っている」と内藤補佐は強調する。匿名を利用し、現実社会の立場に左右されずに自由に振舞ったり、本音で語り合ったりできる場としてネットは重要。内部告発のように、匿名だからこそ公開できる情報もある。
ただ、匿名による無責任な発言がネットの信頼性を損ね、ネットの良さまで覆い隠してしまっている部分があるのは否めない。「私を含め、『ネットはジャングルだ』というイメージの人は多いのではないか」と内藤補佐は話し、匿名の発言が大多数のままでは、「ネットは怖い」というイメージが定着してしまうと心配する。
ネットを、実社会と同様の感覚で自然に使ってもらうことが、総務省としての目標。実名やハンドルネームを使った利用がもう少し浸透すれば、ネット社会のモラルが向上して安心感が高まり、ネット利用が活発化するだろうと期待する。
「実名推進」誤解の火種
ネットの安心感を高めるための具体策の1つとして、研究会で挙がったのが、学校でのSNSやブログ活用だ。校内LAN限定のセキュアな環境で、実名やハンドル名ベースで交流してもらうという提案。発言に責任を持たせつつ、身近な人と交流する中で、ネットへの抵抗感を薄れさせたいという考えだ。ネット上でのプライバシー侵害など、個人情報保護への考え方も同時に学ばせたいとしている。
この提案を、報告書中に「提言」として書き入れたのだが、この記述が誤解を生んだようだという。
私たちは、今後の教育現場における取組に期待したい。学校とは人と人の間のコミュニケーション手法を学び、他人と交流する能力を養う場でもある。ICTを活用したコミュニケーション能力は学校で学ぶことが望ましい。いわゆる情報検索・探索技術やネットを介した互学互習のやり方の習得といったことに加え、ICTにより実現されるバーチャルな環境を、現実社会と同じ感覚で活用すること、すなわち、サイバースペース上で実名又は特定の仮名で他人と安全に交流することを自然の術として身につけるための教育が必要である。
具体的には、ブログやSNSの仕組みを学校に導入することを提案する。学校の中でセキュアなネットワークを整備した上で、児童・生徒が自らのアカウントを持ち実名でブログやSNSを用いて他の児童・生徒と交流することでネットワークへの親近感を養うとともに、ネット上での誹謗中傷やプライバシー侵害等に対する実地的な安全の守り方も同時並行的に学ぶことが重要である。
(原文ママ、太字は編集部)
報告書の中で、ネットの実名利用について触れたのはこの1カ所だけ。報道されたような「ネットの実名化を推進する」「ネットの“悪の温床”化を防ぐ」といった内容の記述はなかった。
報告書は、さまざまなITサービスが一元管理から分散管理に移行するなかで、ITをどのように活用すれば経済・社会を活性化できるかといった視点でまとめたものだ。P2PやWebサービス、セマンティックWeb、オフショアリング開発の可能性などについても言及している。「役所にしてはリベラルな報告書ができたと自負していたが、まるで実名化やブログ利用を推進する報告書のようにとらえられてしまった」と内藤補佐は話す。
“ネット的自浄作用”働く
ブログや掲示板を通じて急速に広がった誤解だが、逆にブログをきっかけに議論の軌道修正がなされるという動きもあった。ある個人ブログが「報告書を読まずに批判するのも、賛成するのもリスクのある行為」だと指摘。報告書をHTMLに変換して自身のサイト上に掲載し、報告書について言及したブログにトラックバックを張って回ったのだ。
トラックバックを受けたブロガーの多くは、報告書を読んだ上で再度意見を表明し、ネット上の議論の爆発は終息しつつあるようだ。「一次資料を読まずに批判・賛成するリスク」──図らずも、研究会が考えるネットリテラシーの深化を一連の騒動が促した面もあったのかもしれない。
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