西正
スポンサー対策――民放テレビ番組を広告モデルでネット配信する時の「意外な課題」(2/2 ページ)
しかし、過去に放送されたテレビ番組をネット配信することになれば、スポンサー選びの点での苦労も加わってくることになる。
テレビ番組をネット配信していくための課題は色々とあるが、利用者の数が急激に増えていき、それなりの市場規模が形成されることになれば、解決していく問題も多くなろう。それなりの市場規模に達すれば、配信収入も大きくなる。著作権者たちがネット配信に許諾をしない理由はギャラの問題だけではないにせよ、相応のギャラが支払われるようになれば、前向きに検討してもらえる可能性も高まるだろう。
著作権者たちにとって、テレビで放送される際に得られるギャラと、ネット配信に許諾したことで得られるギャラの間に、あまりに大きな乖離があることがネックとなるのは当然であろう。新たな技術に対して保守的にならざるを得ないところに加えて、ギャラも非常に少ないという状況では、前向きに検討してほしいと依頼する側としても説得力を欠くこととなる。
テレビ局にとっても同じことが言える。ネット配信が有料で行われている分には、スポンサーへの配慮に気を使う度合いは少なくて済む。元々、テレビ広告費市場がこれからさらに大きくなっていくとは考えていないので、新たなビジネスについては有料で行う方が収益チャンスは拡大する。
しかし、「GyaO」のモデルが注目されていることからも明らかなように、広告モデルで事業展開すると、視聴可能者数を増やすスピードは圧倒的に早くなる。視聴者からすれば無料で見られることの魅力は大きい。広告放送を行っている地上波民放事業者にとって、無料で視聴できることの強みは非常によく分かっている。それだけに、ネット配信が生み出す広告収入が、テレビ広告収入とトレードオフの関係にないのであれば、広告モデルに取り組んでいくことも検討したくなるのは当然だろう。
当面のところは、「費用対効果」で考えていかざるを得ないだろう。ネット配信から得られる広告収入を「効果」と考えるとして、「費用」の方は著作権者たちに支払うギャラだけでは済まない。冒頭から述べてきたように、制作時に協力してくれたスポンサーに対する配慮も必要になる。テレビ局にとっては、それに要する手間についても十分に「費用」と考えたいだけの苦労であるということだ。
地上波のようなサイズで広告モデルが成り立っているうちは、スポンサーへの配慮は手間とか「費用」とか考えるほどの問題にはならない。しかし、ネット配信が生み出す市場が、どの程度のスピードで拡大し、どの程度の規模にまで至るのかが明らかでない段階では、同じく広告モデルとは言っても、地上波におけるものと同じく考えることは難しい。
行き着くところは「市場規模さえ大きくなれば」であり、そうなれば著作権者たちへの対応もスポンサーへの対応も解決する。ただ、市場規模を大きくするために有効なモデルが、広告モデルであるのか有料モデルであるのかが不明だから困るのである。
どちらにせよ、ネット配信されるコンテンツの出来次第ということになるので、テレビ番組がコンテンツとして提供されることが必要であることは間違いない。「鶏と卵」の関係であることは誰もが承知しているのだ、それで答えが出ないから「鶏と卵」なのである。テレビ局に対して一方的にコンテンツを提供させようと考えているだけでは、問題は全く解決しない。
ただ、「放送と通信の融合」ではなく、「放送と通信の連携」という言葉を使おうと言われるようになっていることから明らかなように、ネット配信事業者と放送局は連携して事業を進めていくことが望ましい。ネット配信する側の事業者には、放送局側が抱える色々な諸事情についても理解ある対応を採ることが求められるということだ。
著作権問題がネックであることすら、政府をはじめとして未だに理解されているとは言い難い状況にある。放送局側の諸事情をいち早く理解し、それに対して協力する姿勢を見せる事業者が成功者となることは間違いなさそうだ。
西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。 銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs 放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
資さんうどん、従業員の退職理由などが外部から閲覧可能に 委託先の勤怠システムに設定不備
-
2
NEC、委託先の情報漏えいで謝罪 「セキュリティ事業を手掛ける企業として反省」
-
3
JALの予約システムに不正アクセス 約9万人分の予約情報が漏えい 一部ではパスポート番号も
-
4
VTuber「兎田ぺこら」グッズにSNSで風評被害→示談成立 「保護者同伴で謝罪などがあったため」
-
5
GMO、ランサム被害にあった顧客に新しいPC提供へ 犯行グループは1人の顧客情報公開か
-
6
NECのルータ「Aterm」、PHP脆弱性の影響なし 設定画面URLの「.php」は無関係
-
7
「対策を後回しにしたサーバが軒並み狙われている」 相次ぐ不正アクセスにラックCTOが警鐘
-
8
GMO不正アクセスの犯人サイト、ドメイン停止を確認
-
9
Anthropic、独自の“創薬活動”に着手 社員1人のバイオ企業を買収、小児難病の治療薬研究を進める
-
10
メアドを検索→AIで“その人専用フィッシングメール”を生成する手法、クリック率が約2.7倍に 7000人以上で実験
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR