立ちどまるよふりむくよ
梯郁太郎氏はなぜAppleから距離を置いたのか(1/5 ページ)
「TR-808、JUPITER-8、DTM、MIDIを生んだ梯郁太郎氏が死去」の記事を日曜日の深夜に書き上げて公開した。電子楽器の巨星についての、日本のメディアとしては一番早い報道となり、大きな反響を呼んだ。ただ、この追悼記事は、この私的連載「立ちどまるよふりむくよ」のいくつかをまとめたものにほとんど近いというのが実情だ。梯氏が送り出した製品がぼくのちっぽけな人生にどれだけ大きな影響を与えてきたかの証でもある。
その記事に対する反響で興味深いものがいくつかあった。梯氏は電子楽器業界におけるスティーブ・ジョブズと見立てるものだ。客観的に見ても共通するものはありそうで、目的に到達する強い実行力、ビジョナリー、創業した会社の経営陣との対立。音楽制作の世界を、マシンで一変させてしまったというところもそうだ。
比較するのはどちらにとっても失礼だろう、との声もあるが、梯氏とジョブズ、Appleを結ぶ線が存在することが今日わかった。それは、DTMに関する国内最高のジャーナリスト、藤本健さんのインタビュー記事「亡くなったローランド創業者・梯郁太郎さん、スティーブ・ジョブズを語る」だ。
ジョブズが亡くなった後、雑誌AERA向けに藤本さんが行った梯氏へのインタビューで、掲載には至らなかったマニアックな部分をまとめたものだという。
これが実に興味深い内容なのだ。ここまでの話を引き出せた藤本さんは本当にすごい。英訳して海外にも伝えるべき傑作インタビューだ。
Apple ][互換機を自作
梯氏が代表だった頃のローランドには嘘か誠か「梯さんがAppleを嫌ってて」という噂があり、だからローランド製品のMacドライバがなかなか出てこないとか、ミュージ郎のMac版が出ないことの頼りない根拠となったりしていた。
だが、この記事の冒頭には、梯氏が自作したという、Apple ][互換機の写真がいきなりアップで出てくる。Appleも出していない、ディスプレイ内蔵、Apple純正のDisk ][ドライブを搭載したオリジナル仕様で、ご丁寧にローランドのロゴとKakehashi Electronicsの刻印、そして「URI II」(ウリフタツー)というネーミングセンス。
Apple製品を嫌いどころかすごいマニアっぷりじゃないですかこれは。最近はMacBookユーザーなようだし。
一方でAppleに対する観察は冷徹で、一定の距離以上に近づかないようにしていたらしい。
「どこかで楽器の世界に出てくるのでは……という思いもありました。実際にドイツのEmagicを買収した時点で、間違いないと思いましたよ」と、Appleの動きを読んでいる。EmagicはLogicを開発・販売していた会社で、現在のLogic Pro Xはその後継。2002年にAppleが買収した後、Windows版はあっさり切られている。MainStageというLogicの派生ソフトはMac(MacBook)をステージで使える音源にし、ライブで使うための、まさに「楽器」だ。Apple買収後の2007年にリリースされ、プロにも利用者が多い。
だがAppleにとって、この時点では楽器の世界に出てくることはできない、あるシバリが存在した。
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過去を振り返りまくる連載。音楽、映像、コンピュータ、テクノロジーをタイムトラベルしながら新たな発見をしていく。
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