「AIでSaaSは死ぬ」「SIerは終わる」は本当か? バズる言説と、実務・監査が示す3つの現実(2/2 ページ)
それでも無傷ではいられない理由
ここまで見てきたように、実務の観点ではSaaSやSIerが簡単に死ぬとは考えにくい状況です。しかし、それは「全てのSaaSやSIerが生き残る」という意味ではありません。
実際に株式市場を見ると、先行きが危うく見えるSaaSやSIer関連の銘柄も存在します。その理由は、技術力の差というよりも、別のところにあります。
IT業界は、技術革新が早く、派手さを伴う業界です。一方で、投資家の多くはITの実務専門家ではありません。生成AIについても、どれだけの人が有償で使い、日常業務にどの程度組み込んでいるのかを正確に把握しているわけではありません。
それでも「AIが全てを置き換える」という物語は強い影響力を持ちます。Claudeの新機能発表をきっかけにした株価変動では「株式市場は中学生のようにナイーブだ」という投資家のコメントも見られました。残念ながら、これは的外れな指摘とはいえません。
これまでも、スタートアップやIT企業の評価は、実態以上に「良さそうな雰囲気」によって上下してきました。AI時代においても、この構造は大きく変わっていません。
「AIで死ぬ」という物語が繰り返される理由
それではなぜ、「AIでSaaSは死ぬ」「SIerは終わる」という言説が、これほど繰り返しバズるのでしょうか。背景にあるのは、AIそのものよりも、IT業界と資本市場の関係性です。
IT業界は歴史的に、将来の可能性を先取りして評価されやすい業界でした。インターネット、クラウド、スマートフォン、DX(デジタルトランスフォーメーション)といったキーワードが登場するたびに、「既存プレイヤーは淘汰される」という物語が語られてきました。その多くは、部分的には当たることはあっても、全面的には現実化しませんでした。
AIについても同様です。実務の現場では、責任や監査、法制度といった制約の中で慎重に使われている一方、資本市場では「全てを置き換える存在」として語られがちです。このギャップが「AIでSaaSは死ぬ」「SIerは不要になる」といった分かりやすい言説を生み続けています。
問題は、こうした物語が事業運営に無視できない影響を与える点にあります。実務としては成立していても、投資家や市場に対して説明できる成長ストーリーを描けなければ、資金調達や株価という形で圧力を受けることになります。AI時代のSaaSやSIerは、実務の正しさと市場が求める物語、その両方を同時に満たす必要に迫られています。
生き残るのは「実務」と「説明可能性」を両立できる企業
AI時代においても、SaaSやSIerは必要とされ続けます。しかし、生き残るのは、実務に耐えるだけでなく、責任の所在を明確にし、説明可能性を維持できる企業でしょう。
体力がなく、責任を引き受けられず、ドメインが浅く、説明できる根拠を持たない企業は、厳しい状況に置かれます。一方で、実務の価値を理解した上で、それを市場に伝え続けられる企業は生き残ります。
AI時代のSaaSやSIerに突き付けられているのは、派手な技術革新そのものではありません。実務、責任、監査という前提を手放さず、その価値を分かりやすく投資家に向けて言語化し続けられるかどうかです。AIによって「死ぬ」と語られる側に回るのか、それとも「簡単には置き換えられない存在」として残り続けるのか。その分岐点は、すでに目の前にあります。
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