ちょっと昔のInnovative Tech
脳を老化させる“新たな一因”特定、減らすと記憶力が回復 2025年夏にNature系列誌で研究掲載
ちょっと昔のInnovative Tech:
2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその番外編として“ちょっと昔”に発表された世界中の個性的な研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
米カリフォルニア大学サンフランシスコ校などに所属する研究者らが2025年8月にNature Aging誌で発表した論文「Targeting iron-associated protein Ftl1 in the brain of old mice improves age-related cognitive impairment」は、脳の老化を促進する「FTL1」と呼ばれるタンパク質を特定し、その量を減らすことで記憶力や神経接続を回復させることを実証した研究報告だ。
加齢に伴って記憶力が落ちる原因は、脳の神経細胞そのものが死んでしまうからではなく、細胞同士をつなぐシナプスの働きが弱まるためだと考えられている。このシナプスの衰えを防ぎ、認知機能を回復させる方法を見つけることは、老化や認知症研究の大きな課題になっている。
研究チームが若いマウスと老齢マウスの海馬の遺伝子やタンパク質を比較したところ、加齢に伴って神経細胞内のFTL1(鉄の貯蔵に関わるタンパク質)が異常に増えていることが判明した。
そこで、若いマウスの脳内で人工的にFTL1を過剰に増やしてみたところ、脳内の鉄の状態が乱れ、シナプスの機能が悪化してしまった。その結果、若いマウスであっても認知テストで老齢マウスのように記憶や学習能力が低下することが確認された。
一方で、この老化現象を逆転させる実験も行われた。老齢マウスの脳に対して遺伝子操作を行い、加齢で増えすぎたFTL1を減少させた。すると、減少していたシナプスのタンパク質が再び増加に転じ、低下していた記憶力や認知機能が有意に改善し、老齢マウスの脳機能が若返る可能性が示唆された。
研究チームはさらに、FTL1がどのようにして脳を老化させるのかというメカニズムも突き止めた。細胞を詳しく調べた結果、FTL1が増えすぎると細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアの働きが悪くなり、ATPの生産が落ちてしまうことがわかった。
そこで、このエネルギー作りを助ける「NADH」と呼ばれる成分を、FTL1が増加したマウスに与えてみたところ、認知機能の障害を防ぐことができた。
Source and Image Credits: Remesal, L., Sucharov-Costa, J., Wu, Y. et al. Targeting iron-associated protein Ftl1 in the brain of old mice improves age-related cognitive impairment. Nat Aging 5, 1957?1969 (2025). https://doi.org/10.1038/s43587-025-00940-z
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Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
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