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さくらインターネットのスパコンを支える「研究所」とは? 「自由な研究」が生み出す、研究と事業の好循環

 ビジネスへのAI実装が本格化する一方で、安全かつ高い計算力を持つAI基盤の調達、構築、運用に頭を悩ませる企業や研究機関は多い。そうした中、さくらインターネットの商用マネージドスーパーコンピュータ「さくらONE」が、世界的な性能ランキングで存在感を示した。注目したいのは、さくらONEの構築・運用を主導しているのが、事業部ではなく同社の「さくらインターネット研究所」であるということだ。

 なぜさくらインターネット研究所は商用サービスの設計から運用まで深く関わり、現場に立っているのか。その舞台裏と「研究と事業」がシナジーを生む理想的な連携の形を探った。

「単なる順位争いではない」 “高火力”のさくらがTOP500に挑む理由

 近年、日本企業においてもAI活用が急速に進み、AI基盤の調達・構築が重要課題の一つになっている。それに伴って国内でAI基盤を整備・運用する重要性が高まる中、国産初のガバメントクラウドに採択された「さくらのクラウド」を提供する、さくらインターネットに注目が集まっている。

 さくらインターネットは国内のHPC需要に応えるため、国産GPUクラウドサービス「高火力」シリーズを展開している。特に大規模AI学習向けには、ベアメタル型のGPUクラスタサービス「高火力 PHY」を提供してきた。

 その発展形として、さくらインターネットとさくらインターネット研究所が2025年9月に提供を開始したのが、高火力 PHYをベースとしたマネージドスーパーコンピュータ「さくらONE」だ。さくらONEは、2026年6月に発表されたスーパーコンピュータの処理性能を評価する国際的なベンチマークランキング「TOP500」で世界63位、AIの実運用性能に近い指標で評価する「HPCG」で世界22位にランクインした。

 さくらインターネット研究所でさくらONEの構築を手掛ける小西史一氏は、この結果について単なる順位競争の産物ではないと語る。

 「私たちは、ベンチマークのスコアを追求するためだけにやってきたわけではありません。数百基規模のGPUを積んだシステムで最高の効果を引き出すには、全てのノードが均一かつ確実に性能を発揮する必要があります。さくらONEにはそれが可能だということを、世界的な指標で証明したかったのです」

さくらインターネット研究所 小西史一氏(上級研究員)

 通常の商用サービスでは、全てのノードを一斉にフル稼働させる場面は少ない。あえて厳しいベンチマークに挑むことは、大規模なシステムを提供する際の未知のトラブルや構築上のポイントを自ら体験し、学習する貴重な機会になっているという。ここで得られた知見はユーザーのアプリケーションのチューニングに役立てられるなど、実際のサービス品質向上に還元されている。

ユーザーをAI開発に専念させる「マネージド」の威力

 AI開発プロジェクトには独特の難しさがある。例えばLLM(大規模言語モデル)の学習ともなると、数十から数百基規模のGPUを長期間にわたって確保する必要がある。しかし、これほど大規模な基盤にもなると、ノードの不具合や故障が頻繁に発生する。障害の原因がハードウェアにあるのかソフトウェアにあるのかなどトラブルを切り分けて迅速に対処するには、高度な技術力と運用リソースが求められる。

 「さくらONE」の最大の特徴は、こうした運用、障害対応まで丸ごと引き受ける「マネージド」という提供形態にある。

 「例えば10ノードの環境でいずれかのノードに不具合が発生した場合、自社運用では次のジョブは9ノードで動かさなければならないかもしれません。しかしさくらONEであれば、私たちが即座に予備のノードに切り替え、常に完全な10ノード状態で稼働を継続させられます。故障の原因調査や復旧対応は全てこちらで行うため、ユーザーは本来のAI開発に集中できるのです」(小西氏)

 さらに研究所で開発、研究している最新の技術を応用した「SRE」(サイト信頼性エンジニアリング)による監視体制を敷いており、ノードの不調の兆候を事前に検知し、処理に影響が出る前に対処することも可能だという。

「自由な研究」が事業を加速させる 研究と事業のシナジー

 さくらインターネット研究所は、2009年にインターネット技術に関する研究開発を担う組織内研究所として設立された。現在は研究員・研究開発エンジニア17人に客員研究員2人を加えた19人で組織されており、論文執筆を主軸とする「研究開発グループ」、事業化に向けて取り組む「プロダクト開発グループ」、さくらONEをはじめとする高性能計算基盤の研究・構築・運用を担う「HPC研究グループ」に分かれている。

 研究開発グループに所属する坪内佑樹氏は、システム運用の信頼性を高めるSREを専門としており、その成果がさくらONEの運用にも組み込まれている。研究と実用が強く結びついているのが、同研究所の特色と言える。

 「SREとは、簡単に言えば運用の研究なので、実システムというフィールドがないとなかなか良い研究が進みません。さくらONEという商用サービスがあることで、フィールドワークのような形で運用の現場に入って、同時に研究も進められています。通常であれば運用作業にリソースを割かれて研究開発が進まないものですが、当研究所では研究の時間もしっかりと確保できているため、それが研究成果とサービス品質の双方につながっています」(坪内氏)

さくらインターネット研究所 坪内佑樹氏(上級研究員)

 坪内氏が手掛けた可視化の技術は、さくらONEの実運用だけでなく、TOP500ベンチマークのチューニングでも大きな効果を発揮したという。

 「TOP500でハイスコアを出すには、システム全体を一体として高度にチューニングする必要があります。坪内の研究から生まれた可視化ツールによって、各ノードのGPUの稼働状況を空間的に、手に取るように把握できるようになりました。これによってどのノードがどんな通信をしているのか、正確に分かった上で調整できました。“目”を与えてもらった感覚です」と小西氏は語る。

さくらONEにおける各GPUの電力使用量を可視化したダッシュボード(提供:さくらインターネット)《クリックで拡大》
さくらONEにおけるユーザージョブを可視化したダッシュボード(提供:さくらインターネット)《クリックで拡大》

 また、小西氏が所属するHPC研究グループは、同氏を含めて2人体制と小規模だ。しかし実際には、坪内氏のような他グループのメンバーや高火力 PHYを担当するインフラ事業部と密に連携しながら、さくらONEの開発・運用を行っている。小西氏はこの体制を、さくらインターネットという組織の総合力と捉えている。

 研究者が自らサービスを構築・運用し、そこで得た知見をまた研究に還元する。この循環を可能にしているのが、さくらインターネット研究所の特長だ。

 「私たちには、研究員自身が本当にやりたいと思う研究に自由に取り組める裁量が与えられています。その結果としてさくらONEのような優れたサービスを提供できています。経営層も研究における自由の重要性を理解してくれているのだと思います」とさくらインターネット研究所 所長の鷲北賢氏は強調する。

さくらインターネット研究所 鷲北賢氏(所長)

 こうした「自由な研究」の成果は、前述した通り事業に還元されている。論文発表や国際的なベンチマークのランクイン実績は顧客に対する技術的信頼の裏付けになり、営業活動やコーポレートブランディングに大きく寄与している。事業部にとっても、高まるマネージド型GPUサービスのニーズに応える上で、研究所の知見は不可欠だ。研究所が最新の技術と運用を提供することで、研究と事業が手を取り合う理想的な連携が生まれている。

「自由にやり続ける」さくらインターネット研究所の未来

 さくらONEの今後について小西氏は、現在の高い品質を維持しながら、新しいノードやGPUの追加によって基盤を強化する構想を明かす。

 利用形態についても、プロジェクト単位の事前予約制に加え、従量課金型プランの提供や推論用途への対応など、多様なニーズに応えるアップデートを考えているという。

 「すでにさくらONEは、1つのシステムでNVIDIA H100、H200、B200といった複数世代のGPUにジョブを流せるような機能も充実しています。こうした強みを生かしながら、例えば社内サービスの基盤としても活用を広げるなど、さらに多様なユースケースに対応したいと考えています」(小西氏)

 最後に鷲北氏は、研究所の将来について次のように締めくくった。

 「さくらONEは、事業部から見れば売り上げをけん引する魅力的なサービスであると同時に、研究所にとって先進的な技術に触れられる格好の題材です。事業と研究、双方の視点からシナジーを生み出せる現在の環境は極めて恵まれています。さくらインターネット研究所の任務は、これからも自由にやり続けることだと信じています。さくらONEを含め、革新的な研究とサービス開発を今後も加速させていきます」

 自由な研究を大事にする文化がさくらONEというサービスを生み、事業に大きく貢献している。研究と実運用が直結した同社の体制は、今後も日本のAI開発を根底から支え、さらなる変革をもたらす基盤として進化し続けるだろう。

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さくらインターネット株式会社

アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2026年10月24日