人工知能はすでにビジネスを変革しはじめた──導入企業から知る「AI×ビジネス」のリアルな現状

» 2017年04月03日 10時00分 公開
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 人工知能(AI)という言葉はかつてSF世界の話、“夢物語”だったかもしれないが、もはや実社会に溶け込むリアルな言葉になりつつある。

 象徴的だった1つの出来事は、人型ロボット「Pepper」の登場だ。まるでSF映画に登場するようなフォルムながら、どこか親しげな表情を見せつつ人の言葉にリアクションする。以前なら、フィクションの世界で見た光景だ。AIがただの“おもちゃ”ではなくなり、ビジネスの世界で活躍する可能性を示した大きな出来事といえるだろう。

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 一部では「AIは人の仕事を奪ってしまうのではないか」と否定的な文脈でも語られる。ある意味それは正解かもしれない。しかし、人工的に生み出された知能が、人の頭脳を使っていた仕事を置き換えるとき、われわれの本当の価値が問われ、人間にしかできない仕事と、“AIにもできる”仕事が明確になる。それは、より効率的で生産的な社会へ発展する可能性を秘めている。

 「AIにもできる」と書くと語弊があるかもしれない。膨大な量の情報を1つの間違いもなく正確に処理するような仕事は「AIにしかできない」仕事だ。かつてコンピュータの登場によって社会の情報化が進んだように、AIの登場によってビジネスが変革しはじめた黎明(れいめい)期にあたるのだろう。

 去る3月3日にITmedia NEWS編集部では、「AI×ビジネス〜夢ではなくリアルな話をしよう〜」と題したビジネスカンファレンスを実施した。すでにAIを業務に導入している企業の講演を通して浮き彫りになった“AIとビジネス”のリアルな現状を紹介しよう。

会計は得意で、監査は苦手なAI

photo 山田誠二教授(国立情報学研究所/総合研究大学院大学/東京工業大学大学院 知能システム科学専攻 連携教授)

 「AIは“会計”が得意で“監査”は苦手」──基調講演に登壇したAI分野で研究職歴の長い山田誠二教授(国立情報学研究所/総合研究大学院大学/東京工業大学大学院 知能システム科学専攻 連携教授)は、会計と監査を例に、AIとビジネスにおける可能性について話す。

 会計のような業務は、プログラミング的処理でAIが正確に実行できる分野だ。しかし、監査になると、帳簿を見て不自然な点を見つけたり、取引先の“表情”を読み取ったりする能力も要求される。これらは「非言語情報」であり、AIが正確に認識する段階には至っていないというのが山田教授の見解だ。

 「これまで労働は、“どこで何をするか”で分類されてきたが、今後は“AIができるか、できないか”という分類軸ができる。ビジネスにAI導入を検討する上で大事なのは、“何ができて何ができないか”を知ること。不得意なことをやらせて、『使い物にならない』という評価が集まるのは不本意だ。AIの得意分野かを見込んで使うことに加えて、人材の育成が大事になる」(山田教授)

AIはあなたの業務をどう変えるのか 〜AIエージェント編〜

 カンファレンス中盤からは、IBM Watson日本語版(米IBMが開発したコグニティブ・コンピューティング・システム。AIと紹介されることもある)を活用した業務ソリューションを提供するパートナー企業が、「AIが業務をどう変えるか」「AIが顧客対応をどう変えるか」「AIがどのようなビジネスシーンに生かされるか」という3つのテーマに沿ってリレーセッション講演を行った。各企業の導入事例や、講演内で語られたAIの可能性を紹介しよう。

メールの返信内容を提案「テクノマーク クラウド+(プラス)」(NTTデータ先端技術)

 メール業務を伴うサポートセンターを取引先に多く持つNTTデータ先端技術は、「オペレーターを介さずに回答を返せないか」という要望を踏まえて、問い合わせメールの用件から返信内容を提案できるカスタマーサポート支援ソリューション「テクノマーク クラウド+」を展開する。

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photo 松澤智氏(Blue3事業部コンタクトセンタソリューショングループ)

 IBM Watsonを処理エンジンとして採用。有人による顧客対応を学習して適した回答を蓄積していく仕組みだ。つまり、学習データをあらかじめインプットするのではなく、実際の業務で使いながら学習させられる。同社の松澤智氏(Blue3事業部コンタクトセンタソリューショングループ)は「自動回答できなかった時が学習のチャンス」と話す。

 「(テクノマーク クラウド+が)自動回答ができなかった場合は、オペレーターが手動でFAQを検索して回答する。『Watsonが回答できず、オペレーターが手動で検索した』ことをトリガーとして学習していく仕組み」

 「必要となる学習データは企業ごとに異なるため、先行して導入した企業があっても、他社がその恩恵を直接受けることはできない。各社が業務を行うなかで、独自にFAQや学習データの蓄積をおこなっていく必要がある」(松澤氏)

Watsonをデータ収集ツールに「SQ-Easy(スクイージー)」(ウィルウェイ)

photo 岩政仁氏(常務取締役/未踏事業部 事業部長)

 システム開発やサポートを主業務とするウィルウェイは、株主総会の支援システムと手形管理の発行システムが主力商品だ。同社の岩政仁氏(常務取締役/未踏事業部 事業部長)は、それら既存商品をIBM Watsonで改良できないか──そんな発想がWatsonの開発体制を構築するきっかけになったと話す。

 「事前に株主から受けた問い合わせをWatsonで収集して想定問答集を作成すれば、株主総会で適した回答を用意できるのでは、という考えから導入を決めた」(岩政氏)

 そんな同社がWatsonを活用して開発した「SQ-Easy」は、Webサイトの質問集における「サイト内検索」を改善する仕組みを持つ。

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 結果を表示したときに回答の満足度をユーザーに尋ねることでWebサイトの改善につなげ、検索キーワード履歴から自社サイトの検索傾向や新商品・サービス開発のヒントを得たりできるという。「Watsonを会社全体のデータ収集ツールとして活用できる」(岩政氏)。

AIは“顧客対応”をどう変えるのか 〜AIチャットボット編〜

ヘルプデスク業務に対応「AI-Q(アイキュー)」(木村情報技術)

 医療関係のサービスを展開する木村情報技術は、IBM Watsonの国内パートナー第一号となり、社内のヘルプデスク業務をAIが代行するソリューションを開発。「AIに尋ねる」(question)という意味から「AI-Q」と名付けられたこのシステムは、社内の日常的な問い合わせに対応できるという。

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 「社内のちょっとした質問に対応するため、本当に高度な対応が必要な時に人材が確保できないことがある。隣の人に聞く感覚でAIに聞ければ、業務が効率化できるのでは」(取締役CIO 橋爪康知氏)といった考えから開発に至ったという。

photo 橋爪康知氏(取締役CIO)

 「ここ、ちょっと教えて」「この時はどうするんだっけ」──日常業務で発生するちょっとした質問で、実は膨大な時間が費やされているという。例えば社内に1000人の社員がいるとして、1カ月に1回、誰かが誰かに質問して解決に10分掛かっていたとすると、“300時間以上”の見えない時間が社内で消費されている計算になるという。

 日常業務の中でルーティーン的に発生する質問をあらかじめデータベース化し、必要なときに社員が検索することで、人材的リソースを割かずに解決できるようになるという。ある製薬会社では、このデータベースを自社で作成し、既に実際の業務に導入して成果を上げているという。

問い合わせ業務をサポート「バーチャルエージェント」(りらいあコミュニケーションズ)

 国内だけでなくフィリピンやタイ、ベトナムにも支社を持つ、りらいあコミュニケーションズは、コールセンターの設置から受託運営、人材育成などを行うテレマーケティング企業だ。その中で、音声認識や自然言語解析技術を活用した問い合わせ業務のサポートシステム「バーチャルエージェント」を4月に提供予定しているという。

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photo 大野木達也氏(次世代サービス推進部 自動化サービス推進室 バーチャルエージェント[IBM Watson版] プロダクトマネージャー)

 「提供しているサポートセンターソリューションのコストを下げたいという声が顧客から多かった」──そう話すのは、同社の大野木達也氏(次世代サービス推進部 自動化サービス推進室 バーチャルエージェント[IBM Watson版] プロダクトマネージャー)だ。コスト削減の観点から、2012年から提供しているバーチャルエージェントにIBM Watsonを組み込み、複数の企業に提供することにしたという。

 同社の提供しているバーチャルエージェントは、あらかじめ想定質問を登録して使用する。ユーザーからの質問に回答(Aを選択)すると、回答したもの以外にも“正しかったかもしれない回答”を提示。

 オペレーターが「Aの回答がより正しかった」と判断して、提示された回答候補を選択すると、質問に回答がひも付けられる──これを繰り返すことで回答の精度を向上させる仕組みだ。

社内の問い合わせをチャットボットで効率化「hitTO(ヒット)」(ジェナ)

 アプリ開発を主業務とするジェナの主力商品の1つである「hitTO」は、IBM Watsonを使用したチャットボットだ。

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photo 手塚康夫氏(代表取締役)

 「社員からの管理部門、IT部門への問い合わせを、チャットボット化したいという要望は業種を問わず抱えている」──同社代表取締役の手塚康夫氏はそう指摘する。hitTOは自然言語を理解して適切な回答を導くだけでなく、APIでも提供されており、「LINE」や「Facebook Messenger」といった外部サービスと連携しながら柔軟に対応できるのが最大の特徴だ。

 「テンプレート化した対応業務に使っていた時間を、他の課題解決に使えるようになる。(hitTO導入によって)効率や課題解決のパフォーマンスが上がるだろう」(手塚氏)

AIと有人のハイブリッドWeb接客システム「OK SKY(オーケースカイ)」(空色)

 Web送客ソリューションなどを手掛ける空色は2013年の創業以来、顧客企業からのチャットセンター運営受託やサポートを通じて、蓄積してきた運営ノウハウとチャットログをもとに、2016年からチャットの自動化に本格的に取り組み始めた。

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 代表取締役社長の中嶋洋巳氏は、「販売促進を目的としたチャット導入だけでなく、カスタマーサポートセンターのコスト削減を目的とした、コールセンターからチャットセンターへの切り替えや併設が進んでいる」と話す。特に企業通販サイトの来訪者対応における分野で自動化が進められているという。

photo 中嶋洋巳氏(代表取締役社長)

 Watsonを活用した自動接客システム「OK SKY」の導入企業として紹介されたのは、「OLIVE des OLIVE」が運営するLINEアカウントだ。LINEアカウントに対し、友達登録したユーザーがチャットで問い合わせできる。服装のTPOに関する質問などはパターン化し、自動で回答できるソリューションになっている。一方、「この商品は私に似合う?」といった個人固有の質問に対しては、人間が回答できる仕組みだ。AIが回答するか、人間が回答するか、この判別もソリューションが判断できるという。

 空色によれば、企業のカスタマーサポートに寄せられる問い合わせの6割は自動化できる内容で、さらにこの中の6割はBotによる自動回答にて完結が可能という。現状は一問一答式のチャットによる接客ソリューションを提供しているが、今後はさらなるチャットログの収集を進め、販売目的のチャット接客であってもAIを活用したボットによる自動回答での完結を視野に入れている。

どんな“ビジネスシーン”に生かされるのか 〜ロボット編〜

自然な会話で接客を「eレセプションマネージャー for Guide」(ソフトブレーン)

 多数の店舗がテナントとして入る大手商業施設のインフォメーションスタッフには、目的の店舗に素早く案内するスキルが求められる。ソフトブレーンは、「人間とロボットの分業」をテーマに、大手商業施設向けのPepper向けアプリを開発している。

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photo 小田健太氏(執行役員 製品開発部 兼 システム開発部 部長)

 同社の開発した「eレセプションマネージャー for Guide」は来店者が目的を伝えると、適した店舗を提案し、さらに所在地のガイドをしてくれる。Pepperならではのコミカルな動きを生かすこともできるという。

 「(ユニークな動きをすることで)単なるコンピュータの案内に比べて来店者の心象も変わってくるだろう」(執行役員 製品開発部 兼 システム開発部 部長 小田健太氏)

 小田氏は、人には言いにくいことを依頼されることも多い介護施設スタッフなども、Watsonを活用したロボットの活用シーンとして紹介する。「AIは長時間の稼働も苦にならない。同じ質問に何度でも答えられる。人間以上の対応をできることもある」(小田氏)。

自然なコミュニケーションを実現「TalkQA(トークキューエー) for Pepper」(エクスウェア)

 エクスウェアは、クラウド上に作成したスライドや原稿をもとに、Pepperがプレゼンテーションを行えるPepper向けアプリ「ペップレ」をリリースしている。

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photo 滝本賀年氏(代表取締役社長)

 さらにWatsonの音声認識と自然言語分類を活用し、プレゼンを見た人と自然なコミュニケーションを実現する「TalkQA for Pepper」が売りだ。

 「ペップレによる発信の仕組みと、TalkQA for Pepperを使ったコミュニケーションを組み合わせて、自然で高度なプレゼンテーションを実現している。フォーマルな場で正確に回答する時にも利用できるでしょう」(代表取締役社長 滝本賀年氏)

自然な会話で観光案内を可能に「Robo-mo 観光案内 for Pepper(仮)」(メイテツコム)

 名古屋鉄道を中核とした名鉄グループのシステム会社であるメイテツコムは、自然な会話で乗り換え経路などを客に案内できるという、WatsonとPepperを組み合わせた現在開発中のソリューション「Robo-mo 観光案内 for Pepper(仮)」を紹介した。

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photo 下谷幸信氏(事業統括本部 社会情報ソリューション部 シニアマネージャー)

 同社が工夫した点は、客の質問に対して機械的に適した内容を回答するだけでなく、事業に関わる人間が“配慮”するような仕組みをプログラミングした点だ。例えば、行き先までの交通機関を設置されたPepperに尋ねると、名古屋鉄道の保有する「名鉄バス」を使った順路を勧めるといったもの。

 車掌からSEに転業したという一風変わった経歴を持つ下谷幸信氏(事業統括本部 社会情報ソリューション部 シニアマネージャー)は、次のように語る。

 「駅員や車掌などユニークな経験を持つシステム開発者ならではの目線で、どのようなご案内をすればお客さまに満足いただけるか。WatsonとPepperの良さを最大限に生かしたソリューションを目指している」(下谷氏)

“仕事では使えない”と言われたiPhoneが今は……

 カンファレンスの締めくくりには、ソフトバンクのWatsonビジネス推進に関わる立田雅人氏(法人事業戦略本部 新規事業戦略統括部 Watsonビジネス推進部 部長)が登壇した。同社は、IBM Watson 日本語版のオーナーシップを保有。立田氏はこれまで、法人向けにIBM Watsonを営業した経験からAIのビジネスへの浸透度の低さを感じているという。

photo 立田雅人氏(法人事業戦略本部 新規事業戦略統括部 Watsonビジネス推進部 部長)

 「IBM Watsonは、車に例えれば『エンジン』で、学習データが『ガソリン』となる。完璧で万能なAIとはいえないが、使い始めたらどんどん育てられる。子どもの教育と同じ。人の仕事を置き換えてしまうのではないかと懸念されているが、人の敵ではなく、助けてくれるもの」(立田氏)

 IBM Watsonの黎明期には、「費用対効果が悪い」「おもちゃではないのか」といわれることもあったというが、立田氏はこの状況を「iPhone」になぞらえる。

 「iPhoneが出てきた当初は『仕事では使えない』といわれていた。今ではすっかりビジネスの現場に浸透している。AIでも同じことが起こる」(立田氏)

 立田氏によれば、まだ公にされていない企業も含め、IBM Watsonを活用したサービスやソリューションを提供するパートナー契約を結んだ企業の数は、間もなく100社に達する見込みという。

 現状は自然言語処理のサービスを中心に展開しているが、今春以降は画像処理や数値処理などの領域にも展開し、世の中で“AI”といわれているエリアをほぼ全てカバーしていくという。2017年はAIが本格的にビジネスに入り込み、後に「AI元年」と呼ばれる象徴的な年になるだろう。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ニュース編集部/掲載内容有効期限:2017年4月30日