カードを渡し暗証番号を入力すれば支払い完了──決済手段の1つとして、日々当たり前に使われているクレジットカード。一昔前に比べてネット通販やオンライン決済を利用する人も目立つようになり、カードの利用額にあわせてポイントを付与するなど、支払い以外の付加価値を提供するブランドも増えてきた。さまざまな場面で即時決済ができるクレジットカードの利用機会はますます増えるばかりだ。
そういった状況にあわせて、日本国内でカード会員数を順調に伸ばしてきた企業がある。「楽天カードマーン!」のテレビCMが印象的な楽天カードだ。
同社は「年会費永年無料」「ポイント高還元」を特長とし、2005年からクレジットカードを発行している。現在約1400万人のカード会員を抱えており、取扱高は5兆円を超え、国内最大手クレジットカード会社の1社として数えられる規模まで成長した。
楽天カードは、これからさらなるビジネスの成長と飛躍を目指し、2017年7月に新たなチャレンジを成し遂げた。
「メインフレームの性能限界から、月に数時間はオンラインサービスの一時的な利用制限が発生したり、カード処理の日次バッチ処理が終わらなかったりするなど、負荷に追い詰められる状況にありました」──過去を赤裸々に語るのは、楽天カードの小林義法部長(執行役員 システム戦略部・システム開発部・システム運用部管掌 システム戦略部)だ。
楽天カードは、クレジットカード業務の基幹システムを旧国内信販時代から約25年以上にわたって利用してきたメインフレーム(業務用の大型コンピュータ)で運用していた。これが性能面でボトルネックになっていたという。
さらに問題は性能だけではなかった。開発や保守にも課題が生まれていたという。
長年の運用に伴い、相次ぐサービスの拡張によってプログラムが複雑化。システム改修時に影響を受ける範囲を見通すことが困難になっていたという。さらに金融系メインフレームで主流言語となるCOBOLやアセンブリによって開発されたプログラムを扱えるエンジニアの高齢化が進む一方で、新規採用や人材育成が難しい状況に陥った。
同社の岩崎浩文マネージャー(システム戦略部 テクノロジー戦略グループ)は次のように当時を振り返る。
「一部のプログラムは、既にソースコードが失われてメンテナンスできない状況にありました。さらに保存媒体として旧式のテープストレージを使用し続ける必要がある、将来の処理量増大に対してスケールアウトできないといった、ハードウェア上の制約を解決することも課題でした」(岩崎マネージャー)
「これはネット系クレジットカード会社として“テクノロジードリブン”を掲げる当社にとって由々しき事態であり、基幹システムを刷新して負荷増大へ迅速に対応することが喫緊の課題でした」(小林部長)
(テクノロジードリブン:新技術の登場によって、新たなビジネスやサービスが生まれること)
これらの課題を解決するために、楽天カードはさまざまなメインフレームの延命施策に取り組んできた。しかし、16年までにメインフレームが性能限界を迎え、都度問題への対処が必要になることが判明。そこで14年にメインフレームで稼働する基幹システムを全面的に刷新するためのプロジェクトをスタートさせたという。
同社の中川陽介副部長(システム開発部)は、プロジェクト立ち上げ当初に掲げた3つの目標を次のように説明する。
「これらの目標を達成するには、メインフレームを継続利用するのではなく、オープンシステムへと移行する必要があると判断しました」(中川副部長)
新しいシステム基盤を検討するにあたり、楽天カードは「特定ベンダーの独自技術に依存(ベンダーロックイン)しない、オープンスタンダードのアーキテクチャを採用していること」「負荷が集中しても余裕を持って処理できる性能を有すること」などの要件を設定した上で、オンプレミスからクラウドまで、さまざまな選択肢を比較した。
その結果、同社が選択したのは日本オラクル(以下、オラクル)が提供する「Oracle Cloud at Customer」だった。これは、Oracle Database、Java実行基盤であるWebLogicなどのソフトウェア、それらが最適に稼働するIaaS環境を自社管理のデータセンター内に設置し、定額または従量課金で利用できるサービスだ。Oracle Cloudとの完全互換性を備えた最新機能が利用できるというメリットがある。
「当社はこれまでに、会員向けオンラインサービス『楽天e-NAVIシステム』のプラットフォームとしてオラクルの『Oracle Exadata Database Machine』を導入した実績があります。楽天e-NAVI用にはオーバースペックでしたが、将来的にメインフレームの基幹システムを移行する基盤としてふさわしいかを検証するという意味も込めて導入しました」(中川副部長)
その結果、安定性やコストパフォーマンスに優れていること、さらに初期投資費用を抑え、想定外の高負荷があっても即座に拡張できるといった、クラウドと同様のメリットが得られるOracle Cloud at Customerが最適だと判断したという。
メインフレームからOracle Cloud at Customerのオープンシステムへと刷新する方法として楽天カードが選んだのは、従来のCOBOLやアセンブリのプログラムを機能変更せずにそのまま移行する「ストレートコンバージョン」だった。
プログラムは今後も長期に安定的な運用を行うためにデファクトスタンダードである「Java Platform, Enterprise Edition」を採用。Javaへの変換にはジェイ・クリエイションが提供する移行サービス「VENUS」を利用した。
これらシステムを刷新する状況でも、品質を確保するために自動テスト環境を整備。処理性能を低下させない工夫として、オープンソース分散処理フレームワークの「Apache Spark」を導入し、バッチを分散・高速処理する仕組みにした。
この開発と移行期間は約1年を通して行われ、オラクルもPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)として楽天カードの社内プロジェクトに参加。17年4月には新システムをリリースし、3カ月間の並行稼働期間で新旧システムの稼働状況を入念に比較。7月には新システムへと無事に完全移行した。
国内金融業界の基幹システムに、Oracle Cloud at Customerを採用した初めての事例となったが、楽天カードによるとその導入効果は非常に大きいという。
「まずは基幹システムをオープン化したことにより、エンジニアの確保が容易となりました。従来のメインフレームではCOBOLのソースコードをコンパイルするだけでも環境が制約されていましたが、この問題も解消される等、時間とコストを削減する効果も得られています 」
「特に大きく改善されたのは月次の締めに発生する、金融機関からの入金取込時のパフォーマンスです。分散処理が可能になったことで、Oracle Cloud at Customerを使用しない場合に比べて約40%も改善しました」(岩崎マネージャー)
クレジットカード業務基幹システムとして安定稼働が実現したOracle Cloud at Customerだが、将来の拡張にも可能性があると中川副部長は話す。
「システムにはまだ余力があります。他のシステムを移行、または高負荷時の一時的な利用など、活用の幅を広げていきたいですね」(中川副部長)
金融業界における基幹業務のシステム基盤は、今もなおメインフレームやUNIXサーバが主流だ。そうした中でも、楽天カードはOracle Cloud at Customerの導入に踏み切った。「Oracle Cloud Machine」のプラットフォーム上で提供されるIaaSの信頼性、可用性、性能が、メインフレームやUNIXサーバと同等以上のレベルにあると判断したからだ。
さらに自社のデータセンター内にパブリッククラウド環境を配備できるという利便性のあるOracle Cloud at Customerは、万全なデータ保護と確実なデータ統制、遅延が許されない処理が求められる金融システムの厳しい要件を十分に満たす。
同時にサブスクリプションモデルの料金体系により、初期導入・運用コストを圧縮できるメリットも享受できる。こうしたサービスはOracle Cloud at Customerが唯一無二であり、その価値をいち早く見いだしたのが楽天カードだった。今回の事例は、金融業界における基幹システム基盤にとって、大きなターニングポイントになるだろう。
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提供:日本オラクル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2018年3月31日