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» 2020年03月09日 10時00分 公開

ちゃんぽん麺・野菜の発注、AIで自動化──店長たちの激務を減らせ、リンガーハットの夢

[PR/ITmedia]
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 「食材が足りなくなり、急きょ他の店舗に食材を借りに行かなくてはならないケースが月に1〜2回は発生していました。かといって発注し過ぎると期限切れのものが出てしまい、処分しなければなりません。また、店舗に新たな人が入ってくるたびに発注のやり方を教えなくてはならず、その手間も重荷になっていました」

 長崎ちゃんぽんの専門店を運営するリンガーハットの村越大夢氏(経営管理グループ 情報システムチーム)はそう話す。村越氏は、かつて関西の店舗で店長を務めていた。「人手が不足する中、本来は調理や接客の業務になるべく時間を割きたいところなのですが、発注にまつわる作業に追われてなかなか時間を確保できない──というのが、多くの店舗の実情でした」(同氏)

 経験豊富な店長であれば、これまでの売り上げの推移や当日の天候、店舗近辺で行われるイベントといった情報を総合的に加味し、翌日の売り上げを推測して、適正な発注量を割り出せる。しかし人手が不足する中で、経験の浅いアルバイトやパートの店員が発注を行わざるを得ないケースもあり、発注の精度にぶれが生じることも多いという。さらに、店長によって属人的な発注の方法となっていたことも、店舗が急速に増えている今となってはシステム化によって平準化を図らねばならなかった。

 そこでリンガーハットは蓄積したデータとAIを組み合わせ、こうした課題を解消する取り組みを始めた。AIを使って将来の売り上げを予測し、適正な発注内容を自動的に導き出せるようになれば、店舗の人員は煩雑な発注業務から解放され、限られた人数でも質の高い調理や接客が可能になるのではないか──そんな仮説の下、プロジェクトチームは具体的な検討に入った。

photo 左からリンガーハット 経営管理グループ 情報システムチームの是末英一部長、村越大夢氏

「全社を挙げて、AI・IoTに取り組んでいく」

 プロジェクトのきっかけは、経営陣の一声だった。「これからは全社を挙げて、AIやIoTに取り組んでいく」──2018年3月ごろ、リンガーハットの是末英一氏(経営管理グループ 情報システムチーム 部長)にそんな意向が伝えられた。

 同社は、長崎ちゃんぽん専門店「リンガーハット」などの外食チェーン店を全国に展開している。2009年10月からはリンガーハットで使う野菜を「国産100%」にしたことでヘルシー志向の顧客から高い支持を集め、ブランド力を築き上げてきた。

 そんな同社だが、店舗数や会社規模の拡大に社内の体制・プロセス・ITシステムがタイムリーに追随できず、さまざまな経営課題が顕在化していた。それらを解決するため、AIやIoTなどの活用に踏み切ることになった。是末氏は次のように振り返る。

 「3〜5年後までを見据えてAIやIoTなどの活用法を検討し、あるべきシステムの姿を明確に描き出すというのが、私たち情報システムチームに与えられたミッションでした。まずはAI活用の検討チームを立ち上げ、当社が抱える経営課題の中で解決できそうなものを洗い出しました」

 その結果、真っ先に対処すべき課題として、人手不足の問題が挙がった。飲食業界では社員はもちろん、店舗運営に欠かせないアルバイト・パート店員の確保にどの企業・店舗も四苦八苦している。リンガーハットも例外ではなかった。

photo リンガーハットの是末英一氏(経営管理グループ 情報システムチーム部長)

 そこで是末氏らは、AI技術の活用で少しでも店舗運営にかかる負荷を軽減し、人手不足の問題解消に寄与できないか──と検討を始めた。特に食材の発注業務は、冒頭の村越氏の発言の通り、大いに改善の余地があった。

 是末氏は「食材が足りなくなってお客さまに商品を提供できなくなる事態は、何としても避けなければいけません。ただし必要以上に発注してしまうと、今度は余った食材は廃棄せざるを得なくなり、食品ロスの問題が生じます」と話す。各店舗の店長たちが翌日の需要を適切に見極め、過不足なく食材を発注することが理想だが、是末氏は「長年の経験と勘が求められる」と顔を曇らせる。

 ちょうど同じ頃、同社の業務システムの1つが大きな転機を迎えていた。社内のさまざまな経営情報を1カ所にまとめて管理していたデータウェアハウス(DWH)のシステムが、更新時期を迎えていたのだ。老朽化による性能劣化などの問題もあり、システム刷新が急務だった。

 「(DWHシステムは)社内で行われているさまざまなデータ分析や報告書作成業務のために多くの社員が利用しており、その性能や使い勝手は業務効率を大きく左右します。今後さらに店舗数が増え、AIやIoTなどの活用が進めば、データ量が爆発的に増えることが予想されます。そのためシステム刷新に当たっては、高い性能と拡張性を備えたプラットフォームに乗り換える必要があると考えていました」(是末氏)

 AIを使った売り上げ予測、そしてDWHの新プラットフォーム──これらを実現するため、同社が行き着いたのがクラウドの活用だ。

 AIを活用するためには、通常は予測モデルの学習・構築のために極めて高い能力のコンピュータリソースが必要になる。これらを自前で用意するとなると高額な費用が掛かるが、クラウドを使えば比較的コストを抑えられる。

 DWHに関しても、自前でハードウェアを調達して社内で環境を構築するとなると、性能を担保するために高い費用が掛かる上、容量や性能を拡張するたびにコストや手間が掛かる。しかしクラウド上にDWHを構築すれば、必要に応じてダイナミックに性能や容量を拡張でき、将来のデータ容量や分析ニーズの増加にも柔軟に対応できる。

 こうしたメリットに着目し、同社はクラウドサービス「Microsoft Azure」上に新たなDWHと売り上げ予測のAIシステム、そしてAIの予測結果を基に発注内容を担当者に提示する「Web発注システム」を構築することになった。

 システムの構築に当たって、店長経験のある村越氏もチームに引き入れた。是末氏は「私が『そのぐらいでいいのではないか』と思ってしまうものでも、使う立場(店長)からすると妥協できない部分もあります。現場の意見を最大限反映させたかったのです」と話す。

データに基づく戦略立案・店舗運営の道を拓く

 プロジェクトチームは2019年10月に正式に発足。オンプレミス環境上で稼働していたシステムをそのままクラウドに移行させる手法をとり、オンプレミスとクラウドでシステムを並行稼働させる状態までたどり着いた(2020年2月現在)。是末氏はその性能や使い勝手の高さに早くも手応えを感じている。

 「オンプレミスのDWHシステムと比べ、クラウドは明らかに処理性能が高いです。現段階ではまだ最低限のデータ量にとどまっていますが、今後データ量が増えたとしてもクラウドなら柔軟に容量や性能を拡張できます。容量を増やすためにハードウェアを追加導入しなくてはならないオンプレミスと比べると、格段に安心感が高いです」

 AIによる売り上げ予測システムは、機械学習サービス「Azure Machine Learning」を用いて構築。日別・店舗別の売り上げを予測し、各店舗の発注担当者に適正な発注内容を提示する仕組みを開発している。店舗の担当者は「Web発注システム」を通じて予測値を参照し、最終的に発注内容を決定する。

 2月現在、千葉と大阪のリンガーハット店舗がこの新しいシステムを試験的に導入し、効果や使い勝手を検証している。まだ1カ月ほどの運用だが、是末氏によれば早くも明確な効果が現れ始めている。

 「これまでの売り上げ予測は、前年度実績を基にした“経験と勘”によるものでしたが、今回の仕組みを導入したことで初めてデータに基づきロジカルに予測を立てられるようになりました」

 天候の影響やテレビCMによる、突発的な売り上げの変動も可視化されてきた。従来こうした変動値は、発注担当者が何となく感じていたものだった。しかし、是末氏は「AIの予測値と実際の結果との差分を比較することで、変動率を客観的に把握できるようになりました。(これにより)最終的な予測精度をさらに上げられます」と喜ぶ。

 それ以上に、店舗の現場にとって大きな効果があったのは、発注業務の半自動化による業務負荷の軽減だという。発注担当者は煩雑な発注業務から解放され、浮いた分の時間を本来注力すべき調理や接客に充てられる。

photo リンガーハットの村越大夢氏(経営管理グループ 情報システムチーム)

 経験が浅い担当者でもシステムを通じて精度の高い発注を簡単に行えるため、発注忘れも含め大きなミスが激減し、新しく入ってきた人に発注ノウハウを一から教え込むための手間や時間も不要になった。「当社では3〜4店舗を兼任している店長もいます。発注などの重い業務は軽減していきたいです」(村越氏)

 このようにまだ試験段階にもかかわらず、本部と店舗の両方でデータ活用の効果が現れ始めている。結果を受け、同社はさらに取り組みを本格化させるとともに、データ活用の幅を広げる方針だ。リンガーハットだけでなく、同社のとんかつ専門店「浜かつ」などでも応用していく。

 「経験と勘も確かに大事ですが、これからはデータに基づいて経営や店舗運営の戦略を立てていく必要があります。今回の取り組みをより多くの店舗に本格展開していきながら、当たり前のようにデータを基に議論や意思決定が行われる文化を社内に根付かせていきたい。そのためにBIを活用して店舗に展開したいと考えています。店長経験のある村越とともに、現場で使えるシステムを提供し、バックエンド業務を減らして極力ホールに出るなどお客さま対応に時間を使えるようにすることが目標です」(是末氏)

(後編)チャレンジングな案件だった──リンガーハットのAI活用・自動発注システム、“短期集中”開発できたワケ

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 AIを活用して将来の売り上げを予測し、適正な発注内容を自動的に弾き出せるようにする──リンガーハットが、そんなプロジェクトを進めている。一通りの仕組みは数カ月で完成。実証実験では、発注業務のオペレーションが改善し、大きなミスが激減したという。

 この短期集中の開発プロジェクトにはAI開発の成功要因が凝縮されている。システム構築を担当した株式会社システムサポート、AIモデルを開発したDATUM STUDIO株式会社に話を聞いた。


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