データ・ドリブン経営の会社に ヤマトHDの大改革、仕掛け人を直撃

» 2020年08月11日 10時00分 公開
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photo ヤマトホールディングス専務執行役員の牧浦真司氏

 「ヤマトはこれから、徹底的に変わります。それこそ、業態転換をするくらいの覚悟を持って思い切って取り組まなければ、これからの時代を生き残っていくことはできないと考えています」

 こう危機感をあらわにするのは、創業100周年を迎えたヤマトホールディングス(ヤマトHD)専務執行役員の牧浦真司氏だ。「宅急便」でおなじみのヤマト運輸をはじめ、数多くのグループ会社を抱えるヤマトHDは今、大胆な経営構造改革の途上にある。

 物流業界は、急激な環境変化の波にさらされている。ECの普及により配達量は右肩上がりで増えているにもかかわらず、少子高齢化と労働人口の減少により人手は減る一方だ。消費者ニーズも多様化し、荷物の送り方、受け取り方でも柔軟性が求められるようになってきた。次の100年も生き残るため、同社が社運を賭ける一つがデータの活用だ。

宅急便のDX、経営体制の刷新など「大胆な改革」

 業務量が増える一方、人手は減っているという状況では、いずれ経営が立ち行かなくなることは目に見えている。危機感に駆られたヤマトHDは、これからの時代にあるべき会社の形と目指すべき経営ビジョンについて、2016年から検討を重ねてきた。

 この取り組みが結実したものが、2020年1月に発表した経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」だ。5〜10年後までを見据え、中長期の経営のグランドデザインを示したもので、「3つの事業構造改革」と「3つの基盤構造改革」を宣言している。その内容は、宅急便のデジタルトランスフォーメーション(DX)、各グループ企業の吸収合併と再編をも含む経営体制の刷新をはじめ、大胆な施策を打ち出している。

photo 「YAMATO NEXT100」の概要。「3つの事業構造改革」と「3つの基盤構造改革」を打ち出している=ヤマトHDが公開している資料より

 その中でも特に優先順位の高い重点戦略に位置付けられているのが、「データ・ドリブン経営への転換」だ。データ活用によって、経営の可視化と意思決定を迅速化し、需要や業務量の予測精度を高め、経営資源やリソース配置を最適化する。牧浦氏によれば、既にこの取り組みは1年以上前から始めており、うまくいく「確信を持っている」という。

 「ヤマトグループの中には膨大な量のデータが存在しており、それらをきちんと活用することで経営に対し大きな成果を出せることは、既に実証プロジェクトでも検証済みです。こうした取り組みを今後グループ全体に波及させていきます」

「データ・ドリブン経営」への転換を図る

 こうした戦略のキーマンの1人が、ヤマトHDの中林紀彦氏(執行役員 データ戦略担当)だ。さまざまな企業で腕利きのデータサイエンティストとして活躍してきた同氏が、実績を買われてヤマトHDに招聘(しょうへい)されたのは2019年8月のこと。構造改革プランの策定作業の真っ最中で、核となるデータ・ドリブン経営の戦略立案、実行を一手に任されることになった。

 このような重責を任されると、功を焦りたくなるところだが、これまでにグローバル企業のデータ経営の取り組みを目の当たりにしてきた中林氏は、ある程度時間をかけてでも段階を踏みながら理想のデータ・ドリブン経営へとたどり着くための道筋をデザインした。

photo ヤマトHDの中林紀彦氏(執行役員 データ戦略担当)

 「まずは2021年4月までに、ヤマトHDが保有するさまざまな経営資源のうち、必要最低限のものをデータ化してデータ・ドリブン経営の基礎を作り上げます。これが第一ステップの『データ・ファースト』です。ここから2024年までに全ての経営資源をデータ化する『トランスフォーメーション』のステップに続きます。最後に『イノベーション』ステップとして、それまでの成果を生かし、他社を交えたオープンなエコシステムを2030年までに実現します」

 2020年現在、第一ステップの「データ・ファースト」で「顧客データ」「荷物」「人員・車両・倉庫」などのデータ化を進めているという。これまで同社のシステムは、事業側の要望に個別に応える形で開発を進めていたため、互いに独立したシステムがグループ内に林立する「サイロ化」状態に陥っていた。顧客に関するデータも各システム内にばらばらに散在し、連携しづらかったため、顧客の全体像を捉えられずにいた。

 運ぶ荷物に関わる情報も、システムで十分に把握しきれていなかった。荷物の集荷・配達タイミングや、営業所に到着した日時など、いわゆる「ラストワンマイル」の動きは追跡できていたものの、それ以外の人や車両、倉庫などの稼働状況など大部分の行程はシステム上でデータとして把握する術がなかった。中林氏は「宅急便は紙の伝票1枚で全国どこでも荷物を届けられる、極めて便利な仕組みです。しかし仕組みがよくできていたために、デジタル化の波に乗り遅れていました」と明かす。

 そこでデータ・ドリブン経営に転換し、一気に取り戻す考えだ。取り扱う荷物や取引先、人員や営業所、倉庫、車両などをデータ化し、現実世界の経営環境をそのままデジタル化した「デジタルツイン」を作り上げる。このデジタルツイン上でデータを使って検証することで、顧客ニーズに迅速に応えられるサービス開発や、経営資源の最適化によるコスト削減、将来予測に基づくリソースの最適配置などを目指す。

ビッグデータ基盤を構築、「経験・勘」から脱却

 データを最大限に活用するには、これまでシステムごと、あるいはグループ会社ごとにばらばらに散在していたデータを1カ所に集め、まとめて管理する必要がある。そこでグループ内のデジタルデータの流通・活用を促すため、グループ全体を横断する共通のデジタルプラットフォーム「YDP」(ヤマトデジタルプラットフォーム)の構築を始めた。

 この共通プラットフォームは、Microsoftの「Microsoft Azure」と他社のクラウドサービスを使って構築している。今後、この上に新たなシステムやサービスを順次載せていく。このシステムが生成したデータは、同じくグループ共通で使われるビッグデータ分析基盤「クロネコビッグデータ」(KBD)に集約して分析する。

 これらのデータを基にAIの予測モデルを開発することで、各拠点で取り扱う荷物の量をかなり正確に予測できるようにもなる。まだ道半ばだが、既に一定の成果も出ているという。

 「これまでは、経験と勘を頼りに荷物の量を予測し、それに基づき人員の配置を決めていたため、荷物量の予測と実績にはある程度の誤差が出ていました。AIを導入すると、その誤差を縮めることができました。このおかげでより最適な人員配置が可能になり、業務効率化とコスト削減が実現できます」(中林氏)

 こうした動きと並行し、組織の改革も進めていく。2021年4月に、これまで事業領域ごとに分かれていた事業会社7社をヤマト運輸に吸収合併および吸収分割し、1つの会社へ再編する予定だ。

 デジタル技術を軸にした経営構造改革は、しばしばDXとも言い換えられる。ただ、牧浦氏は“真のDX”はデジタル技術やデジタルプラットフォームの導入だけで実現できるものではないと付け加える。

 「真のDXの実現には従来の組織や風土の壁を同時に打ち破る必要があります。従って私たちは、DX実現のためにデジタルプラットフォームの構築とともに、組織やその風土の改革も同時に進めています」(牧浦氏)

全社データプラットフォームで、新サービスを提供

 早くも成果を上げている同社の「データ・ドリブン経営」だが、その取り組みはまだ始まったばかりだ。YAMATO NEXT100で掲げたビジョンの具現化までには、やるべきことが山積している。しかし牧浦氏は「確かな手応えを感じている」と自信をのぞかせる。

 「データプラットフォームの構築とデータ活用による業務効率化やコスト削減の効果は、既に各所で表れ始めています。今後、グループ全体に展開していくことで、経営のボトムラインを大幅に改善できます。収益に関しても、全社横断のデータプラットフォームができれば、顧客企業のサプライチェーン全体に対してさまざまな付加価値を加えたサービスを提供できるようになります」

photo ヤマトHDのグループ全体だけでなく、外部のEC事業者などともリアルタイムにデータをやりとりできる仕組みを目指す=ヤマトHDの資料より

 例えば、2020年6月にスタートしたEC事業者向けの新配送商品「EAZY」(イージー)も、成果の一つという。このサービスは、EC利用者、EC事業者、配送事業者をリアルタイムにデータでつなぎ、「置き配」など荷物の柔軟な受け取りなどを可能にするというもので、YDPを活用してシステムを構築した。今後もYDPを活用したサービスを開発していくことで、同社が力を入れていく法人事業へのテコ入れも可能になると見ている。

 牧浦氏は「前回の中期経営計画『KAIKAKU2019 for NEXT100』は2019年度に完了しているため、2020年度は本来、次期中期経営計画の初年度に当たります。しかし今年はグループの体制を大きく変え、大胆な経営構造改革を実行するための準備期間にあたる『中期経営計画0年度』と位置付けています」と説明する。

 「データプラットフォームの準備もようやく整ったため、来年度からスタートする新たな中期経営計画ではアクセル全開で、YAMATO NEXT100で示したビジョンの具現化に向け、全社一丸となってまい進します」

(後編)「クリック1つで拡張」 PaaSフル活用、データ分析基盤を構築 ヤマトHDの決断

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 ヤマトHDは経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」の発表以前から、ビッグデータ分析基盤「クロネコビッグデータ」(KBD)の構築・活用に取り組んできた。しかし「メンテナンス性が悪い」「2カ月に1回、システムがダウンする」など、課題も少なくなかった。

 そこで思い切って、PaaSを使ってデータ分析基盤を構築する決断を下した。ヤマトHDのプロジェクトメンバーに舞台裏を聞いた。


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