新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、2020年は多くの企業が困難に直面した。対面での接触を避けるために、従来の営業・勤務形態は変更を余儀なくされている。貿易や投資も世界的に縮小。三菱総合研究所は20年の世界経済成長率を約マイナス3%と11月時点で見込んでおり、なおも不透明感は強いとしている。
そんな中、企業の業績や世界経済はどうすれば回復するのか。米Microsoftのサティア・ナデラCEOは、回復のカギはDX(デジタル・トランスフォーメーション)だと指摘する。「DXがかつてなく重要になっている。企業の向こう10年の経済的パフォーマンスはDXのスピードにかかっている」(ナデラCEO)
Microsoftには、この困難な状況下の企業のDXを後押しする準備がある。一つは12月3日(現地時間)に一般公開した、データの統合から分析まで大規模かつ無制限に行える「Azure Synapse Analytics」。もう一つは同日に発表した、オンプレミスからマルチクラウドのデータソースまでを自動分類するフルマネージドの新しいデータガバナンスサービス「Azure Purview」だ。
3日に同社が行ったオンラインイベント「Shape Your Future with Azure Data and Analytics」で、ナデラCEOを始めとするMicrosoftのキーパーソンたちが語ったこの2つのサービスについて、詳細を見ていこう。
今回パブリックプレビュー版の提供が始まった「Azure Purview」は、オンプレミスやクラウドといった保存場所、あるいは部門ごとにサイロ化したデータ(縦割りで情報共有がされない状態)などをスキャンして自動分類するサービスだ。
なぜ、これがDXの上で大事なのか。同社のAzure Data担当コーポレートバイスプレジデントのロハン・クマール氏は「世界に存在するデータの73%は分析されていない」と指摘する。例えば店舗ごとの売上データがあったとしても、それが統合されず散在したままで、経営層の多くはこうしたデータを経営判断に生かせていないという。
ではデータを1カ所に集めればそれだけでいいかというと、そう簡単な話でもない。企業内データには機密レベルがあり、誰がどのデータを参照できるかを適切に管理できなければコンプライアンス上のリスクとなるからだ。
Azure Purviewはコンプライアンスリスクを最小限に抑えながら、各所から集めたデータを包括的に自動分類し、ユーザーに見て分かる形でデータマップを提供できるのが強みだ。
すでに「Power BI」やAzure Synapse Analyticsといった各種Azureサービスを使っていれば、数クリックでデータベースをAzure Purviewに検出させることが可能だ。「Azure Data Factory」のインスタンスに接続してデータを自動収集することもできる。
分類後のデータはさまざまな切り口から検索可能。例えばファイルタイプや位置情報を指定しての検索や、慣れ親しんだビジネス用語による検索などだ。
検索に使えるビジネス用語集はAzure Purviewがデータを解釈して自動生成する他、ユーザーが新たな単語を用語集にインポートすることも可能。あるビジネス用語でヒットするデータを提示するだけでなく、その用語とマップ内データの関連性も可視化する。
機密データについては機密レベルごとに閲覧範囲を割り振ることで、コンプライアンスを守りながら誰でもデータを活用できるようになる。こうすることで、統合したデータ資産を誰でも安全に参照できる環境を提供するのがAzure Purviewだ。
今回一般公開となったAzure Synapse Analyticsは、2015年から同社が提供していた大規模データの分析プラットフォーム「Azure SQL Data Warehouse」を発展させ、19年11月にリブランドして発表したもの。一部ユーザー向けにプレビュー版を公開していた。
Azure Synapse Analyticsでできるのはデータウェアハウス、つまりデータを取り込み、分析エンジンにかけ、分析結果を表示すること。データサイズは無制限、クエリの実行速度はデータベースベンチマーク「TPC-H」でペタバイト規模だ。
“Synapse”(神経接合)の名が示す通り、基礎集計のPower BI、ノーコードでAIモデルを構築するプラットフォーム「Azure Machine Learning」、共同Notebookでプログラミングした機械学習コードをSparkエンジン上で実行する「Azure Databricks」といったAzureの各種分析ソリューションと緊密に統合。Azure Synapse Analyticsにためた数百万行のデータベースにクエリを投げれば数秒で予測結果を得られる。
「Azure Synapse Analyticsと組み合わせた新しいSaaSアプリケーションも生まれている。その良い例は『Dynamics 365 Customer Insights』だ」とナデラCEOは説明する。Dynamics 365はAIを活用してビジネス成果を予測するビジネス向けアプリケーションセットで、その中にあるCustomer Insightsは顧客データから得られる知見をリアルタイムに表示するサービスだ。
データをリアルタイムかつ簡単に取り込めるのも大きい。Azure Synapse Linkという低コストなトランザクション・分析処理(HTAP)実装によって、「Azure Cosmos DB」などのオペレーションデータベースから分析情報をリアルタイムに取得できる。従来のようにデータ転送のために複雑なパイプラインを組む必要がない。
「Azure Synapse Analyticsは、データの取り込み、クリーニング、変換などの雑多な処理を不要にする。ユーザーはワークスペースをセキュアに保つだけで、後はSynapseに任せればいい」(クマール氏)
すでに先行ユーザー企業の活用事例もある。Eコマースでファストファッションを販売する米Myntraは数千万のセッションを扱い、ユーザー一人一人にカスタマイズしたおすすめ情報を表示。オランダのPhilipsはヘルスケア領域で、400以上の集中治療室から数百万人の患者のデータ、数十億のバイタルサインのデータ、数億の薬のオーダーデータを収集。ラボでは医薬品の致死率や治療期間、コストの予測にAzure Synapse Analyticsなどを駆使している。
Azure Synapse Analyticsは19年に発表して以来、ペタバイト規模のワークロードを実行するユーザーが500%増加。クエリで見れば1カ月当たり85億件以上と大規模なクラウドコンピューティングを常時行っている。クマール氏は「より多くの皆さまにSynapseのパワーを体験いただけるよう、引き続き支援していく」と、企業のDXに寄り添う考えを示した。
Azure PurviewとAzure Synapse Analyticsは、企業にとっての「分析力」と「予測力」とも言い換えられる。Microsoftは、7年以上前からこの「分析力」と「予測力」の必要性について実感していた。
2013年にMicrosoftのCFO(最高財務責任者)に就任したエイミー・フッド氏は「当初はMicrosoftのデータもサイロ化していた」と明かす。
「新しく企業に入って仕事を始めた人は、『自分に必要なデータは一貫性を持って期間やフレーズが管理されている』と期待するが、そんなことはない。私の場合もそうだった。データがサイロ化されていて、一貫性がなければ定義もあいまいだった」とフッド氏。
そこでフッド氏はAzure上で動作しているSAPを導入。これにより各部門のデータを集約して一貫性を持たせた上、インフラをクラウドへと移行することで設備投資もほぼゼロにできた。
「次に考えるのは、誰がこれにアクセスしていいかということ。もちろん全員だが、適切なアクセスコントロールが必要になる。これを実現したことで、インサイトを民主化でき、日々の意思決定に自信を持てるようになった」と、Azure Purviewが提供するデータガバナンスの重要性を説く。
フッド氏率いるファイナンスチームは、Azure Machine Learningも活用。まず取り組んだのは予測の幅を半分にすることで、例えば6%を3%に縮めるという一見小さな差でも、数百万ドルの削減になったとフッド氏は話す。さらにアクティビティーも最適化し、半分に。これらの効率化により、それまで3週間かかっていた作業を30分に短縮できた。
ナデラCEOは「現状を把握し、次に何が起こるかをリアルタイムで予測し、行動する企業がコロナ禍からいち早く回復するだろう」と見通しを示す。
分析力と予測力でDXを進めたい企業にとって、Azure Synapse AnalyticsとAzure Purviewは強力なサポートになりそうだ。
上記発表を受け、日本マイクロソフトでは2021年2月26日(金)にオンライン イベント「Azure Data and Analytics Day」を開催します。
Azure Synapse Analytics や Azure Purviewを中心とした、サービスの詳細や新機能のデモ、顧客事例などを紹介するセッションが配信される予定です。
Microsoft Azureが提供するデータ分析サービスやデータガバナンスソリューションの最新情報を、この機会にまとめてご確認ください。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2020年12月24日