カシオ計算機とアシックスが始めた「Runmetrix」(ランメトリックス)は、多くのランナーが抱えるランニングフォームの疑問や悩みを解決するパーソナルコーチングサービス。専任のコーチが練習を見ているかのように、個々のランナーに合わせたアドバイスを行う。
「ランニングフォーム改善の意義は、身体に負担をかけず故障のリスクを軽減して走れるようになること、そして効率的に走れるようになることで、パフォーマンスが変わります」──アシックス、スポーツ工学研究所の平川菜央さんはこう話す。
カシオ計算機とアシックスが3月4日に開始した「Runmetrix」(ランメトリックス)は、多くのランナーが抱えるランニングフォームの疑問や悩みを解決するパーソナルコーチングサービスだ。腰にカシオが開発した小型のモーションセンサー「CMT-S20R-AS」を付けて走ると両社が共同開発したスマートフォンアプリ「Runmetrix」(iOS、Android)上で人それぞれのランニングフォームの特徴を可視化、改善のアドバイスを提示する。
類似の目的を持ったアプリやサービスはこれまでも存在したが、多くの場合は計測項目が走行距離やペース、ピッチなどに限られていた。モーションセンサーではこれらに加えて体幹の傾きや骨盤の回転、着地衝撃などフォームに関する数多くの指標が算出可能。ランメトリックスアプリでは、スポーツ工学研究所が持つビッグデータを活用した専用アルゴリズムを用い、ランニングフォームのスコア化とアドバイスを提供している。
ランニングフォームの特徴は「安定した姿勢」「負担の少ない接地」など6つの軸からなるレーダーチャートで表され、さらに人型の3Dアニメを作成してお手本と比較できるなど、分かりやすく改善点を伝える。専用に開発した“G-SHOCK”(GSR-H1000AS)とモーションセンサーを連携させれば、走っている間にもリアルタイムに指標を確認できる。また、フォームに乱れが生じたときにはアラートで知らせてくれるので、効率的なフォーム改善をサポートする。
フォーム分析の結果に基づいて、改善に必要な筋トレやストレッチなども提案する。専任のコーチが練習を見ているかのように、個々のランナーに合わせたアドバイスを行う。これがランメトリックスの最大の特徴だ。
「アシックスが独自に行ったランナーの意識調査では『フォームへの関心』は常に上位にきます。ビギナーからアスリートまで幅広いランナーが『自分はどうしたらいいのか?』と考えています」(平川さん)
アシックスは10年以上前から直営店に「ランニングラボ」を設置し、こうしたランナーのニーズに応えてきた。ランナーの能力測定を行い、同社のスポーツ工学研究所が長年培ってきたランニングの知見を基に専門家が分析とアドバイスを行う。
ただし呼気ガス測定機や筋力測定機といった専門機器を用いる能力測定には相応の時間やコストがかかり、趣味や健康のために走る一般ランナーには少々ハードルが高い。また1度限りの計測ではなく、日々のランニングを通じて継続的にアドバイスする必要性も感じていたという。
転機が訪れたのは2018年の5月。カシオ計算機の研究開発センターに所属していた山本太さんが1つの試作機をアシックスに持ち込んだ。GPSと加速度3軸、ジャイロ3軸、磁気3軸のセンサーを内蔵し、腰に付けるだけで身体の動きを解析する独自アルゴリズムを搭載した小型軽量のセンシングデバイスとスマートフォンアプリケーションだった。
山本さんは「2012年より体の動きを可視化する研究開発を進める中で、少ないセンサーでより多くの情報を得るには、腰に装着することが最も有効であると判断しました。ランニング動作はスポーツを行う上でも最も基本的な動作でもあり、愛好者も多い。この技術を一般ランナー向けのパーソナルコーチングに生かしたいという考えがアシックスさんと一致しました」と振り返る。カシオが独自に開発していた時期にも、複数の実業団や大学競走部とのデータ取得やフィードバックを通じてランニングフォームに関する重要な情報はセンサーから算出できるようにしていたが、実業団や大学と違いコーチが存在しない一般ランナーに対して「指標として算出した後、次にどうするべきか」と考え、ランナーと強いつながりを持つアシックスに声を掛けたという。
アシックスの平川さんによると、腰(骨盤)は「人間の身体重心に近い場所にあり、腕の振りと脚の振りの“ハブ”になる場所」という。「ランニングは“いかに重心を効率よく前に進ませるか”の繰り返しです。重心に近い腰の動きを見れば、ランナーの特徴、能力を網羅的に捉えられます」
当時の試作センサーは基本構成こそ現在のものとほとんど変わらないが、「キャリブレーション(事前の調整作業)が必要だったり、通信手段のBluetoothも現在よりも消費電力が大きく、通信距離が短かったり、再接続性にも課題がありました」と山本さん。
加速度センサーやジャイロセンサーはスマートフォンやゲーム機など広く使われるようになり、価格面だけではなく省電力性やセンサー自体の安定性能も向上している。
製品版のモーションセンサー「CMT-S20R-AS」は重量わずか44g(カバー含む)。本体と一体化されたクリップを使ってウェアのウエスト部に固定する。内蔵バッテリーは小さいが約20時間も動作する。毎日1時間走っても3週間近く使える計算だ。
センサーが取得したデータはスマートフォンアプリを介してクラウドサーバに蓄積。その上でアシックススポーツ工学研究所が持つビッグデータを基に開発した専用アルゴリズムで分析する。
「スポーツ工学研究所はランニングシューズの開発のために何人もの被験者から1シーズンで200程度のデータを取る作業を何年も続けています。ランニングラボでも5000人程度のデータを取得しているので、人数でいえば合計1万人以上、データの数ではその数倍を保有しています」(アシックスの野村泰弘さん)
20項目以上の指標として算出したデータは、アプリ上でランナーに分かりやすい形に置き換える。走る目的などによって重視するフォームの要素が異なり、例えば速く走りたい人には速い速度での動きに注目した分析を行ったり、「猫背になっていませんか?」などのアドバイスを表示したりする。
必要な筋力トレーニングやストレッチなど身体作りの方法は動画で提供する。現在21本の動画がYouTubeでも見ることができる。これらの中からセンサーの情報を基にしてそれぞれのランナーに最適なものをピックアップしてくれる。
アプリにはトレーニングのプログラムを作る機能もある。アプリ開発を担当したアシックスの野村泰弘さんは「走る習慣付けから本格レースへの挑戦まで、目的に合わせてカスタマイズできます」と話す。他にも走った時間や距離、軌跡などの記録と管理、SNSとの連携機能も備えている。
サービス発表前には地域のランニングクラブや大学の運動部にモニターを依頼してフィードバックを得た。「これまで距離と時間でしか記録を残せなかったが、動きそのものをスコア化されるとモチベーションが上がる」「改善点を客観的に見ることができた」「コーチと同じことを言われた」といった感想が寄せられたという。
「例えば調子の悪いとき、ランメトリックスでフォームを確認するといつもと形が違うなど客観的に自分を見られる点が評価されたようです。アスリートランナーの皆さんは自分の動きに敏感なので貴重なフィードバックになりました」(平川さん)とサービスの内容に手応えを感じた様子だ。
もう1つ重要なのは、アシックスとカシオ計算機がランメトリックスを皮切りに協業を広げ、継続的にサービスを強化していくこと。第2弾として、ウォーキングの新サービス「Walkmetrix」(ウォークメトリックス)を10月から提供する計画だ。これらのサービスを積極的に推進するため、合弁会社の設立を検討している。
アシックスが運営するジムやランニングクラブといった拠点との連携も進める。各拠点には専門知識を持つスタッフが常駐している。ランメトリックスのデータとスタッフの豊富な知識を併せることによる、より詳細で個人のニーズに合ったアドバイスの提供も検討していく。「リアルの場も活用し、ランナーの体験がより深まることを期待しています」(平川さん)
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