P2Pは不滅? ファイル交換メディアの現実:新連載:ネットアーク松本直人社長
P2Pによるファイル交換が本格的に始まって5年。日本を含め、世界中で著作権侵害訴訟が頻発しようともファイル交換の火は消えそうにない。早くからP2Pに着目してきたネットアークの松本社長が、豊富な情報をもとにP2Pの今を語るコラム第1弾。
1999年以降、「ファイル交換ソフトウェア」の普及により、利用者同士が手軽にファイル交換をはじめて5年が経過した。「P2P」や「ファイル交換」をキーワードにニュースサイトでは、今も話題がつきない。世界的に著作権侵害訴訟が起ころうともファイル交換の火は消えることがなかった。
このダイナミックに変化するファイル交換を、私たちはどう理解すべきなのだろうか?新たに生まれたネットのメディアについて概観してみよう。
P2Pの昔から今
私がP2Pに最初に触れたのは1999年以前のことだ。その頃からインターネット技術の研究調査に携わっていたためだ。ある時、私が携わる事業で「コンテンツ配信」に絡み、ファイル交換の話題が数多く出るようになってきた。折しも国内でも「ファイル交換」による逮捕者が出る前後の事だ。
ネットアークがP2P調査を始めた2003年当時、国内でも「ファイル交換ソフトウェア」は普及期に入っており、想定利用者数も100万人を超えると言われていた。
P2Pの何が問題であったか?
私たち(ネットアーク)は2003年、実態をつかみづらい国内「ファイル交換」の利用動向を調べる取り組みを始めた。しかし数カ月後に出た結果は、がく然とするものだった。調査用システムから得られたP2Pファイル交換ノード数が、数十万IPアドレスを記録したからだ。
私たちはファイル交換ネットワーク上で「ファイルを公開する」ホストを調べることで、ファイル交換を概観しようと試みたが、その数にまず圧倒された。そしてファイル交換というものを調べていくうちに、これが大きな社会問題を今後も引き起こすと強く感じた。その意識から、ファイル交換を監視する「P2P監視サービス」を始めるに至ったのだ。
(このサービスは「ファイル交換」によって起こる著作権侵害の紛争や情報漏えいなど、企業・学校・行政などの組織で起こる問題を未然に防ぐことを意図し、既にいくつかの組織によって運用が進んでいる。最近では行政機関等によりインターネットを概観する統計としても参考にされているようだ)
P2Pは今?
国内で普及しているファイル交換ソフトにWinnyがあり、同ソフトは現在も根強く利用されている。同ソフトの特徴に「匿名性」がある。利用するTCPポート番号をランダム設定し通信を暗号化する点だ。この機能によりISPの帯域制限をう回することも意図されているという。
ネットアークが管理するP2P監視システム「P2P FINDER」のデータベースを参照し、Winnyの今を確認してみた。
Winnyで使われるTCPポート番号は観測の結果、1番から32767番までランダム分布しており、総数は2万2594種類であることが分かった。サンプリングした時間は24時間。月単位のTCPポート番号のランダム状況は、壮絶な数に及ぶだろう。
このグラフで示されるものは「ファイル交換ソフトウェア」を使って「ファイルを公開する」ホストを、P2P監視システム側から短時間で観測したものだが、ランダム状況は驚くばかりだ。
別の観測結果からも分かってきたことだが、この「ファイル交換ソフトウェア」の利用状況は24時間や週単位でも、まったくゼロになることはない。つまり無停止のメディアが出来上がったということだ。
インターネット上に新たに生まれた「ファイル交換メディア」と言う現実は、もはや人間では理解できない数域に達してしまったようだ。
松本直人氏は株式会社ネットアーク代表取締役社長。東京インターネット、インターネット総合研究所を経て2000年に同社を設立。経済産業省情報システム等の脆弱性情報の取扱いに関する研究会委員、独立行政法人 情報処理推進機構 情報処理技術者試験センター試験委員などを務め、著書に「インターネット・セキュリティ教科書(上)」(IDGジャパン)、「インターネットセキュリティガイド」(ピアソン・エデュケーション)など。
関連記事
- P2Pとブログ、ファイル伝達能力が高いのはどっち?
ネットアークが実施した「バイラル・チャレンジ!」の結果が判明。P2Pとブログ、ファイル伝達能力の高さはどちらに軍配が──。 - 九大に「Winny」「WinMX」監視システム導入
学内での著作権侵害を未然に防ぐ。 - 「Winny」「WinMX」ネットワークをマップで可視化 ネットアーク
国内通信事業者がトラフィック集中箇所を把握するのに役立つという。 - 大学でのP2P利用を取り締まれるか
P2Pファイル交換ソフトが利用される環境の一つに、大学がある。ネットワーク環境が整っている割に、厳しい規制もなく、違法利用がまかりとおっているケースもあるようだが? - 国内のP2Pノード、ADSLとFTTHの比率は?
ネットアークは9月1日、P2Pノード自動検索システム「P2P FINDER」の解析結果を発表した。IPアドレスデータベースを利用し、P2Pノードの回線種別分布を作成した。 - ネットアーク、P2Pの現状を報告 最も交換されるファイルは〜
ネットアークは7月18日、国内のP2Pファイル交換ユーザーの調査結果を報告した。7月14日時点で、20万5997のノードが発見されているという。 - P2P実態解明へノード自動探索システムが稼働
ネットアークは7月14日、日本国内のP2Pファイル交換ネットワークを調べるP2Pノード自動探索システム「P2P FINDER」の稼働を開始したと発表した。 - 国内P2Pユーザー、ACCSは「186万人」、調査会社は「6万人」
コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)は6月18日、国内の「ファイル交換ソフト」の利用実態調査の結果を発表した。それによると今年1月時点で同ソフトを利用しているアクティブユーザーは約98万6000人で、過去のユーザーを含めると合計約 185万6000人と増加傾向にあるとした。 - Winny事件の衝撃
ブロードバンドの可能性と破壊力をもっとも分かりやすく示して見せた国産P2Pファイル共有ソフト「Winny」。司法当局は「著作権法違反ほう助」容疑で開発者の逮捕・起訴に踏み切った。ネットではWinnyの功罪をめぐって議論が続く。「Winnyという現象」は終わっていない。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.