Second Lifeは終わらない 増えるユーザー、成長する経済:ブームから2年(2/2 ページ)
Second Lifeの話題がメディアから姿を消して久しいが、ユーザー数は増え続け、コミュニティーも世界も成長している。
06〜07年、ブームが盛り上がり始めたころのSecond Lifeはminaさんにとって「未知なる世界」で、「毎日、新しいSIMや企業参入ニュースがあったので、いろいろな場所を冒険したり、勉強したり、実験していた」と振り返る。
だが今は「新しい場所が見つかるというよりも楽しかった場所が撤退するという知らせや、お友達がやめていくということのほうが多いので、若干寂しい感じはある」という。
「07年のころ知り合った友人は、ほとんどいなくなっている」とも話す。特に目的もなく、流行っているからと何となく始めた人は、早々に飽きて辞めていくことが多いようだ。その一方で、創作に打ち込むクリエイターは残り、創作物のレベルを上げているという。
複雑なオブジェクトを作れるようになったり、空や光などを自由に調節できるようになるなど、創作ツールも進化。「高度な技術に対応できる一部のクリエーターたちが残り、07年とは比べ物にならないくらいにハイクオリティーなものを量産するようになった」そうで、日本最大のSecond Lifeブログコミュニティー「ソラマメ」にも、多くのクリエイターが参加し、盛り上がっている。
増える女性ユーザー アバターで本格ファッションを楽しむニーズ
minaさんの店はブーム当時より拡大し、今も毎日、多くの人が訪れている。来訪する日本人の比率は半数ぐらい。ブーム当時より増えているという。
実際、日本人のユーザーは増えている。Linden Labによると、Second Lifeにアクセスするユーザー数は月間約100万で、うち日本のアクティブユーザー数は4万5000人程度とブーム当時の2〜3倍に拡大。ここ最近は右肩上がりに伸び続けているという。
自作のスキンなどを紹介しているminaさんのブログ。Second Lifeのクリエイターの姿勢には感動することも多いという。「純粋に作品や世界観作りに励み、商品を買ってくれる人はもちろんのこと、お金をかけずにSecond Lifeを楽しもうとしているユーザーにも、より楽しんでもらえるように日々努力しているクリエーターも確実に増えていて、そのような人や作品に触れるたびに感動させてもらっている」
特に、主婦など女性ユーザーが増えているようだ。ファッションに敏感な女性ユーザーが、高価なアバターアイテムをひんぱんに購入し、アバターを美しく着飾って楽しんでいるという。
記者もminaさんに連れられ、アバターアイテムの有名店をめぐってみた。ヘアスタイル、肌色、メイクから、シャツやワンピース、ドレス、アクセサリーまで、現実世界に存在するありとあらゆる服飾品があり、細かいディテールまで丁寧に作り込んである。
ファッションにそれほど興味のない記者だが、minaさんとショッピングをし、試着したアバターを見てもらっては「かわいい?」と聞いたりしていると、まるで現実世界でショッピングを楽しんでいるような錯覚を覚え、楽しかった。
最近では、女性誌もSecond Lifeに参入。25歳前後をターゲットにした「ヴァンサンカン」は、本誌に掲載した商品を3Dアバターで紹介したり、イベントを開いたりしている。
Second Life内で人気の服が、本物の服として販売されたこともある。Second Lifeで有名なクリエイター、ノンコ・ノエルさんがデザイン・販売した着物を、着物メーカーの「撫松庵」(ぶしょうあん)が商品化し、伊勢丹が販売。着物はすべて売り切れたという。
多様化・リアルになった職業
Second Life内の職業も多様化している。アバターアイテムのクリエイター、デザイナーやミュージシャン、映画監督など、多様化・本格化し、よりリアルに近付いてきている。
有名洋服ブランドもあり、専業モデルを擁してファッションショーを行うことも。定期的にカーレースを行うレーサーもいれば、それを応援するチアリーダーもいる。Second Life内で“俳優”を集め、アニメ映画を撮影するクリエイターなど、あらゆる職業があり、“プロ”としてお金を稼ぐ人たちがいる。
インディーズアーティストによる仮想ライブも盛ん。本格的なライブになると、演奏するアーティストだけでなく、ステージ構成やライト演出、衣装を提供するクリエイターなどそれぞれの専門家が集まり、チームを組んでライブを演出する。世界中のショップのオーナーになり、稼いだ資金で芸能人を応援する人もいる。
「壮大なごっこ遊びが行われている」(新谷さん)
――そこにはあらゆる職業と人生があり、まさに第2の人生、「Second Life」が展開されている。
成長する仮想経済
Second Life内で流通するリンデンドルの総額も右肩上がりに増え続け、08年には3億6000万ドル(約360億円)分に上った。
マグスルはSecond Lifeに設置した「自動販売機」で、日本円とリンデンドルの両替業を営んでいるが、取扱高は増加傾向。1カ月に2000人ほどの利用があり、1人1回当たりの販売額は平均3500円、月間1600万リンデンドル(約1000万円分)の売り上げがあるという。
「仮想現実の中でお金をかけることに抵抗のないプレーヤーたちが、特にファッション分野で、以前より高額なお金を使うようになっている感じがする」と、minaさんは話す。
マグスルの新谷社長によると、「Second Lifeだけで生計を立てている人は何十人もいるし、年収500万円を超えるような人もいる」という。その多くがアバターのクリエイター。特に日本人の繊細なデザインは海外ユーザーにも人気だそうだ。
ブーム当時、Second Lifeビジネスの中心だった、SIMの土地の切り売りは下火だ。「環境SIM」と呼ばれる低価格なSIMの登場や、SIMを個人で購入し、友人らだけを呼んでプライベート空間でコミュニケーションするユーザーが増えたことなどが要因。国内事業者が運営するSIMも撤退が相次いでいる。
「今も残っているコアユーザーは、住む場所と遊ぶ場所を分けている」(新谷さん)――ショッピングセンターやライブ会場のある街で、おしゃれに着飾って買い物やライブを楽しみ、友人とのコミュニケーションはプライベート空間の我が家でなど、生活の場を使い分けるユーザーが増えているという。
Second Lifeは「今の方が面白い」
Second Lifeはブーム当時より今の方が面白いと、3人は口をそろえる。
当時は、Second Lifeはもうかるという勘違いが先行し、面白みのない企業のSIMが乱立。「Second Lifeでできることの模索以前に、流行るか流行らないかや投資価値や費用対効果のみで騒いでいた」とminaさんは振り返る。
ブームが落ち着いた今は、企業や投資家のノイズが収まり、個人クリエイターが目立ってきた。「Second Lifeの楽しさや深みは、07年のそれよりも強まってきているような気がする」(minaさん)
Second Lifeに国境はない。「わたしは英語が全くできないが、国境の関係無い仮想世界の中で、作品を通じてダイレクトにさまざまな国のクリエーターやプレーヤーと交流できることは、本当に素晴らしいことだと思う」(minaさん)
現実社会と同様に“生活”でき、ビジネスでき、世界の人とコミュニケーションできる。ブーム時にいわれていたSecond Lifeの可能性が、ブームが落ち着いた今、花開いてきている。
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