愛しい彼女に触れたいドキドキを絵に込めて 賀茂川さん:教えて! 絵師さん
京都市営地下鉄のキャラクターなどを手掛ける賀茂川さん。女の子を描く時に意識しているのは「愛しさ」だそうです。
本格的にイラストを勉強し始めたのは2012年前後なのですが、絵画自体にはずっと親しんできました。物心ついた時には芸術が好きな叔母が集めていた洋画、日本画の全集をながめていた覚えがあります。アングルの「泉」はなんてエロいんだ、ドラクロワの絵はなんてかっこいいんだ……祖母が厳格な人だったのでエロへの制限がかなり厳しく(笑)私の性の目覚めは間違いなく名画がきっかけでしたね!
小さなころは、写生好きな祖母と庭のベゴニアや朝顔をよく描いていました。もう亡くなってしまいましたが、蚊に刺されながら一緒に木々を描いた日々がなつかしいです。母は私を生む前は中原淳一タッチのファッションイラストを描いていたそうなのですが、そんなことはまったく知らなかったので、ある日昔のスケッチブックを見つけて驚きました。京都市交通局の仕事を見た母に「あんたは林静一になりたいんか?」と言われたこともあります。関心がないと思っていた母の口からその名前が出たことに、再び驚きました。
現在はフリーランスのイラストレーターですが、ここに至るまでさまざまな職業を転々としてきました。今こうして描くことを生業としているのは、なるべくしてなのかもしれません。京都地下鉄キャンペーンのイラストを描かせていただいたことをきっかけに、企業のイメージキャラクターなどのお仕事をいただくようになりました。
この1年超は食事と睡眠以外の時間はずっと絵を描いています。描いていない時間は1カ月に1〜2日あるかどうかといったところです。もっと手を速くして、プライベートの時間や仕事以外の絵を描く時間も大切にしたいです。
作画は、ほぼ全工程を「CLIP STUDIO PAINT」「Cintiq 24HD」で作業しています。以前は板タブだったのですが液タブにしてから作業効率が上がりました。ただ板タブ時よりも前傾姿勢になるせいか、背中のコリが激しいので、椅子を前傾できるものに変えようかなと考えています。
キャラクターを描く上で目標にしているのは、どれだけ多くの情報を取り込み、どれだけシンプルにそれを落とし込むか。ベースは実在する人物のことが多いのですが、五感を大事にして情報量を多くすることを意識して描いています。
例えば髪を描くなら、実際に髪に触れたい――髪の質感や匂いなどもあるのですが、触れた時のドキドキ感なども大切にしたいなと思っています。シンプルなアニメ調なのに愛しい気持ち、触れたくなるような感覚を見ている人が覚えてくれるような、そういう絵が描きたいです。
絵を描くようになってから、今まで出会わなかったような感性の方たちとご一緒することが多くなってとても刺激になってます。絵だけではなく、音楽に関わる人たちとの出会いがあったり、人が人を呼んでつながっていく感覚がとても嬉しいです。本当に面白い方たちばかりで、自分ももっと変態にならないとと思わされる日々です!
教えて! 自慢の1枚
HUGTON
たくさんのご縁を作ってくれた作品です。大好きなイラストレーターのほそおさんが女の子のイラストのコメントに貼っていた「かせきさいだぁ」のMVに刺激され、同氏のキャラクター「ハグトン」をモチーフに描きました。のちに、実際にCD「かせきさいだぁのアニソング!! バケイション!」の販促ステッカーに使っていただきました。
まったく別のご縁から一緒に作品を作ることになった映像作家・きたむらみなみさんが「かせきさいだぁ」のMV制作に参加されていて「あれ? この絵知ってる!」と気付いてくださったり、京都地下鉄キャンペーンポスターのデザイナーの方も「かせきさいだぁ」のファンだったり。自分で描いたものですが、私を今のお仕事につなげてくれた、とても感謝している1枚です。
N-3B
好きな部分、こうしたいなと思ったことが自分なりに上手く消化できた1枚です。最近は技術は少しずつ上がってきている実感はあるのですが、この絵を描いた時のようないい感じの抜けた感覚から離れていると感じていて、この時のような感覚で描きたいな〜とよく見返しています。
太秦その(うずまさ・その)
「京都学園大学」のイメージキャラクターとして、アニメーションCMにもしていただきました。ポージングもごく普通の立ち絵ですし、デザイン的にも個性を追求したわけではないのですが、大学のイメージキャラクターというある程度の制限がある中、キャラクターをつくる上で大事にしている「愛しさ」と自分の個性が上手く表現できたかなと思っています。
関連記事
- 色鉛筆で織りなすノスタルジックな景色 カタヒラシュンシさん
色鉛筆を使ったアナログ原画でどこか懐かしい世界を生み出すカタヒラシュンシさん。アニメのようなキャラクターが、風景に溶け込んでいます。 - しろくま、星屑、水族館――輝く青に魅せられて のみやさん
さまざまなニュアンスの青を生み出す、のみやさん。絵の具のようなタッチはフルデジタルで描かれています。 - かっこよくと可愛くのおいしいとこどり 「主役じゃない人を描きたい」チヤキさん
人物を描くテーマは「主役じゃない人」――チヤキさんのイラスト、どことなくレトロな色味や立ち姿が印象的です。 - 光あふれる温かい世界を あんべよしろうさん
ゲームや書籍のイラストを手がけるあんべよしろうさん。ファンタジーの世界もレトロな雰囲気も、光の表現に思わず見入ってしまいます。 - pixivを美術の世界の入り口に 日本画家・イヂチアキコさん
少女をモチーフにした作品を手がける日本画家、イヂチアキコさん。美術作品を積極的にWebでも公開する理由は――。 - “偶像としての女の子”を遠くから りばたさん
「名前もわからない、何を考えているかもわからない、偶像としての女の子を描きたい」――制服を来た彼女たち、見てるこちらがいろいろ想像してしまいます。 - 女の子の輝きを絵に閉じ込めて るごさん
キュートからシリアスまでさまざまなテイストの女の子を幅広く描く、るごさん。ファッションや色使いがかわいさを引き立てています。 - 揺れる髪から生まれるファンタジー またよしさん
どこかファンタジックな雰囲気が目を惹くまたよしさんのイラスト。こだわりは、繊細に描き込まれた髪の毛だそうです。 - “男のかっこよさ”をシンプルに追求したい みっつばーさん
「男キャラをかっこよく」がこだわりと話すみっつばーさん。絵を描き始めたのは高3――漫画家を目指した「遅い出発点」からここまでの歩みを聞きました。 - ネットやテレビ横目に「集中しない」 描き込みと余白のバランスがこだわり へびつかいさん
細かいモチーフを使いながらもすっきりと整然と見えるへびつかいさんのイラスト。秘密は「描き込んでいない箇所」へのこだわりでした。 - 「このまま死ねたらいい」――現実では言えない言葉を伝えるために TCBさん
どこか憂いを帯びた人物画が印象的なTCBさん。「このまま死ねたらいい」「性懲りもなく引っ掻き回して、後戻りできなくなった」など、シリアスなタイトルにもドキッとします。 - 物語の世界へ導く色彩を探して 藤ちょこさん
イラストの世界に吸い込まれそうなくらい、細かく描き込まれた美しい背景が印象的な藤ちょこさん。「昔は背景を描くのが大の苦手だった」というお言葉が出るとは思いませんでした。 - アイデアの源泉は言葉や物――色鮮やかに暖かく iroricoさん
色鮮やかでどこかファンタジックな世界を描くiroricoさん。イラストだけでなく雑貨制作も手がけています。 - “等身大のおしゃれと萌えが共存”したキュートな女の子 U10さん
こだわりは「等身大のおしゃれ感と萌え感の共存」! U10さんの描く女の子、ときめきます。 - フルデジタルで描く絵本のような幻想世界――KATSUOさん
童話や絵本の世界を連想させる幻想的な絵を描くKATSUOさん。繊細なタッチはフルデジタルで描かれているそうです。 - 独学の日本画で描く妖怪の世界――アマヤギ堂さん
妖怪や動物の妖しげな世界を描いた日本画で、独特の存在感を放つアマヤギ堂さん。お気に入りの作品は「特にないです」と話す理由は……? - “きれいでかわいい”だけじゃない、“ミステリアスな女性”を美しく――マツオヒロミさん
ネットを中心に活躍する絵師さんにフォーカスする連載企画「教えて! 絵師さん」。第2回は、1度見たら忘れない、鮮やかな色使いの少し影のある女性が印象的なマツオヒロミさんです。 - こだわりは「目」――“ラスボス”イラストも手がけるおはぎさん
ネットを中心に活躍する絵師さんにフォーカスする連載企画「教えて! 絵師さん」がスタート。第1回は小林幸子さんの動画イラストなどを手がけるおはぎさんです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.